Episode.4 降り積もる雪に声は埋もれた

 オフ会は基本的に食事会込みの二部構成だ。

 大体カラオケ屋の近くにある飲食店で大人組が割り勘で学生組の金を出して楽しむスタイルが当コミュの伝統だ。

 そうしないと、第二部に学生さんは参加できないので自然にそうなった。

 その後は、各々で、というのも以前と変わらないらしい。

 そんな訳で三次会。大人組の初期メンバーで再度カラオケに来ていた。


「あのねキョウさん、ユッコ。もうちょっと男の子達の手綱取って貰えると嬉しいんだけど?」


 開口一番文句が出たのは独り身だとわかって目をギラギラさせていた男の子達がいたからだ。

 彼らの目は、私という異性をどう抱こうかという算段をつけているようにしか見えんかった。


「悪い子らじゃ、ないんだよ? 一応、男女間のイザコザはまだ無いし、あんまり酷いと追い出すからさ」


 そう説明したのは友人のユッコ。

 このコミュニティが自分の思っていない形で発展したことを憂いていたのを私たちは知っているし、より良い形になるように努力しているのも私は知っている。


「まぁ、ちょっとばかりユキちゃんに隙があり過ぎたのも問題だったかな。傷心中なのは分かっているけどね」


 こちらの非を説明して、苦笑するキョウさんだが、コミュニティの最大の良心と言っていい彼の言葉に大きな間違いは一度もない。

 確かに隙を見せ過ぎた自覚はあるので反省すべきだとは思っている。

 だが、それとこれとは別ということもある。


「隙だらけだったのはごめんなさいだけど、それでもイキナリ連絡先求めてくるのはちょっと…」

「アキラ君か。彼最近ちょーっと目に余るのは確かかなー」


 どうやら、私だけでなく被害者がいる様子。

 大方、ユッコや歳の近い子にも同じ事をしているのだろう。


「こっちでも警告して気をつけるよ。それより、ユキちゃんちょっとペース落とそうね。お酒強いの知ってるけど最近毎日たくさん飲んでるんでしょ?」


 なぜバレたし


「いや、何でバレた見たいな顔してるけど、君ここにきた最初の方に同じことして危うくお持ち帰りされるところだったの覚えてるかい?」

「う…反省はしてます…」


 よく考えたら、この3人は今のコミュニティという形に落ち着く前からの付き合いだ。

 カラオケで一緒にアニソンを歌える相手を求めていたユッコ。

 歌うことでしか恋の痛みを飲み込めなかった私。

 そんな私たちと出会い、今みたいに大勢で楽しめるように手を尽くし、支えてくれた私たちの親友の元彼であるキョウさん。

 いつもあーでもない、こーでもないと言いながらカラオケボックスに集まり、歌いながらコミュニティの形を考え、そうして集まったのが全ての始まりだった。

 もちろん、キョウさんが言った通り、直結中の下半身が緩いバカが参加していた所為で女の子に被害が出たこともあった。

 所謂、『姫』と呼ばれるタイプの女の子にコミュニティ内の人間関係をずたズタズタにされたこともあった。

 そうやって、人が訪れては去り、壊れては直しながらこのコミュニティはせいちょうしてきた。


「ふふ、こういう会話も久しぶりだね。ユキちゃん、暫く来なくなってしまったし、僕も一時期離れてたし」


 キョウさんも離れていた?


「ユッコちゃんには話したからユキちゃんにも教えるけど、勤めていた会社が潰れたんだ。で、再就職にちょっと手間取った」


 大変だったよー、と軽い感じで話すキョウさんだけど、ユッコの苦い表情から察するに相当大変だったらしい。

 それを感じさせず、笑い話として話せる彼が何で今でも独身なのか、やはりよくわからない。


「あ、一応釘さしておかないとね。これからオフ会に参加するならどっちかがいる時にしてね。アンタ、今すっごい隙だらけで危なっかしいから」


 厳しいようで、こちらを慮ってくれるユッコの言葉に、私は笑って頷いた。






 しかし、問題児というのは当人の予想を超えて色々してくるものらしい。

 連絡先を教えなかったせいか、SNS経由でデートのお誘いが送られてきたのは翌日の夜のことだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花は咲きて 幸せはまた巡りくる 有隈和歌 @arikuma

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ