Episode.3 降雪に声は消える

 恥ずかしさで死ねそうだと思ったのは久しぶりのことで、会の始まりの時間がズレたことを連絡しなかった上に歌い終わるまで覗き窓から部屋を見てようと提案した友人はとりあえず張り倒しておいた。

 早く言えよ恥かいたろ!


「初めまして、そしてお久しぶりです。ネット放送でカラオケ歌ってるユキです。」


 初対面がほとんど、馴染みの顔が3、4人だったので当たり障りなく、ハンドルネームと活動内容を口にする。

 すると、知ってる人がいたのか初対面の面子のなかに明らかに反応があった。


「もしかして、最近バラードばっかり歌ってたユキさん、ですか?」


 質問してきたのは大学生くらいの男の子。

 年は多分、少し下。


「そのユキです。今日もバラードスタートです」


 いえーい、とおどけて見せると男の子は興奮した様子を見せた。

 ハンドルネームを聞けば、彼はアキラと言うらしく、ROM専、つまりは聞くだけ見るだけのオタクで、ついでに私のファンだと説明した。

 他の初見の面子で私を知っているのは高校1年だというカナンと名乗った女の子。

 まぁ私の知名度なんてこんなものだ。

 もっと上手ければ、別の道が開けたのだろうかと夢想したのは一度ではない。

 身の程を知らねば恥ずかしい目に遭うのは職場の上司から学んだ数少ない事の一つだ。反面教師的に学んだが。


「思ったより顔色悪くないし、荒んでないね。良かった」


 和気藹々と過ぎていく時間を楽しんでいると、友人がそう声を掛けてきた。

 心底ホッとした様子に、少しだけムッとしてしまうのは中学のころから頭が上がらないせいだと思いたい。


「余計なお世話。お互い良い年でしょ?」


 私の返しに、友人は酷く傷付いたフリをして、おどけて、苦笑した。

 何だか突然、学生の頃に戻ったような感覚を覚えて、泣くのを堪えたら頭を胸に抱き寄せられた。

 相変わらずデカイなチクショウ


「強がるのは、子どもの時から変わらんね」

「ありがと…っ」


 涙は意地でも流さない。

 涙なんてベッドで毎晩流してるじゃないか。

 ふくよかな胸に包まれながら深呼吸を数回、落ち着いたら、胸を揉みしだく。


「ちょっ!? おまっ?!」


 女性らしからぬ悲鳴が聞こえるが、照れ隠しに全力で揉む。

 少し分けろ巨乳め


「おっと! 当コミュ名物リーダーの爆乳を貧乳のユキさんが揉む百合空間だー!」


 歌っていたのに楽しそうに実況を始める古参のメンバーに、私はさらにヒートアップし


「そろそろ、いい加減にしとけなー」

「「「はいっ!!」」」


 立ち上げからの最古参のキョウさんに諭された。

 この人が怒るとめっちゃ怖いので3人揃って姿勢を正してしまう。

 でも、キョウさんも何となく事情を察しているのだろう、ニコリと笑うとそれ以上は何も言わず、タバコ片手に部屋を出ていってしまった。

 相変わらず、何で独身なのかわからない渋くていい男だ。好みからちょっと外れているのが残念だが


「あ、次、ユキさんの浮気男滅べですよ」


 キョウさんの背中を見送っていると、カナンちゃんがマイクを渡してくれた。

 では、もう一曲行きましょうか、絶叫系失恋曲!

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