Episode.2 声は木枯らしに飲まれて

 失恋をしようが、恋愛をしようが、仕事は簡単には休めない。

 二日酔い気味で頭が痛い中、一日の仕事を乗り越えて今…


「好きだったああああああああああ」


 ヤケ酒&ヤケカラオケ。

 しかも一人で


「88コメありがとでーす。今日は失恋したてだから失恋曲メドレーだよー!」


 さらに言うならネット配信中。

 閲覧数は…50か


(今日は、人が多いなー…何で失恋したてのヤケカラオケで人が集まるんだか…)


 普段はいいとこ15人も集まればいいところだというのに、何でなんだか

 やっぱり皆、独り身の女が好きか


「よっしゃ次は――」


 結局、3時間歌いっぱなしの配信しっぱなし。

 その分スッキリしたけど、その分モヤモヤもした。

 ピコン、と携帯から通知音。

 SNSサイトにメッセージの届いた音だ。


「はいはい、どなたですかー?」


 バッグとコンビニ袋をテーブルに放り出し、携帯でサイトを開く。

 どうやら、友人からのメッセージのようだ。

 内容は、失恋に関して大丈夫かという内容だ。

 大丈夫じゃないが、大丈夫だと返事をする。

 自分に言い聞かせるように、友人にも言い聞かせる。


 次の日も、仕事が終わればカラオケ。

 その次の日も、次の日も、次の日も

 選ぶ曲に失恋系の曲がなくなれば、今度は恋の始まりからバッドエンドになるように曲を選んでメドレーにして歌う。

 それも出来なくなったなら、ただただ、歌う。

 歌える曲がなくなるまで、ひたすらに


 そんなある日、友人からお誘いがきた。

 SNS関連で


『カラオケコミュニティのオフ会、参加者募集中、たまにはおいで』


 彼女が主催するコミュニティのオフ会のお誘いだった。

 何度も誘われ、何度も参加し、いつの間にか行きづらくなって参加しなくなったコミュニティのオフ会。

 

(たまには顔出すかー…)


 独りで歌い続けた気分は最低最悪。

 ぼっちがここまで辛いのは初めて……でもないが、とりあえず今は非常に辛い

 ネットでカラオケを垂れ流して少しばかり名も売れ、オフ会の度に「いつも見てます!」と言われることのむずかゆさに耐えてしまえば、隠れオタク女子な私にとって心地よい場所ではあるのだし、行かない理由も特にない。

 返事は直ぐに返す。

 「バラードしか歌わないからね」と






 久しぶりのオフ会。

 だというのにまるでいつものように部屋取りをさせられていた。

 街中のカラオケ屋、その一番大きな部屋はコミュニティが集まるいつもの場所だ。

 買ってきたドリンク類を並べ、人が集まるのを待つ。

 しかし、待てど暮らせど人がこないのは何故だろう。

 開始予定時間は過ぎている。

 待っているのが段々と辛くなり、ポチポチと端末を操作して曲を入れた。

 とりあえず、喉でも暖めよう。


「ーーーーっ」


 啜り泣くように静かに始まり、泣き叫ぶように盛り上がり、絞り出すようにフェードアウトするバラード曲。

 再生10万回を越えるネットの人気バラード曲を心のままに歌う。

 歌い終わり、ふっ、と一息吐いたとき、部屋のドアに沢山の顔が並んでた。

 ーーちょっとホラーで悲鳴が出た。

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