第4話 レオ
「、、、え?いま、なんて言った?」
美空が放った一言に、要は驚愕していた。
「だ、か、ら、!要くんの能力の話ですよ。持っているのかって聞いたんです」
お風呂から上がってきた美空が重要な話があると言うので何かと思えば。
(こいつ、今"能力"っていったよな、?)
要は明らかに動揺した。重要な話とはいっても、自分がいま一番気にしている自分の能力についての話だなんて思いもしない。そもそもどうして、美空が能力のことを知っているのだろう。もしかして、こいつも厨二病か、、?!と思考したものの、答えが見つかるわけもなかった。
「厨二病じゃないですよ!失礼です要くん!」
見ると、プクッとほっぺを膨らませた怒り顔の美空がこちらを睨みつけている。
睨んでいるといっても、まるで、小動物の威嚇みたいにちっとも怖さなどなかった。
「ああ悪い、今のは、、」
言いかけて止まった。
(え、、?今の声に出てた?いやそんなはずは、、でも今、俺の考えてること、、)
美空は要の焦った顔を見て、ニヤリと口角を上げた。
「隠したって無駄ですよ、要くん。
私には、わかるんですから」
その言葉を聞いて要はハッとした。
能力のことを知っていると言うことは
まさか、、まさか、、、
要は思わず立ち上がって声を荒げた。
「お前!まさかラルフの仲間か、、?!」
「、、、へ?」
要の必死の形相とは裏腹に美空は拍子抜けのキョトン顔をしていた。
要は、あ、、れ、、?というような顔になっていく。
少しして、美空が口を開く。
「あっはは。違いますよ、むしろ逆です。
私は、要くんの仲間なんです。
ラルフくんっていうのは要くんに力を与えた人のことですね?」
「俺の、、仲間?」
「そうです。つまり、私も能力を貰ったんです」
「は、、?」
美空が何を言っているのか理解できずにいると、
それを見兼ねた美空が再び説明し始めた。
「もしかして要くんは、突然出会ったそのラルフくんという人にいきなり世界を救ってくれだの言われて、気づいたら得体の知れない力を手にしていたんじゃありませんか?」
要は驚きを隠せない。
美空が言ったことは何もかも当たっていたからだ。
「どうして、美空がそれを、、」
「どうしてかというと、私も同じだったからです」
美空は机に置いてある紅茶を一口飲んだ。
「私の場合は、ラルフくんではなく、レオくんという人でしたが、能力を与えられた経緯はほぼ同じです。いきなり現れて、魔法みたいな光が飛んできて、、
おそらくこの印が、能力を与えられた証だと思うんです!」
そういうと美空はいきなり立ち上がって、スカートをめくり、白い太ももを露わにした。
要はというと、驚いて思わず手で目を覆った。
「何してんだ、いきなり、、!」
美空も少し顔を赤らめ、怒った顔で言う。
「ちょっと、どこ見てるんですか!!
私が見て欲しいのは、これですよ!」
よくみると、太ももの外側に何やら刻印のようなものが浮き出ているのがわかる。
要は手をしまい、今度はまじまじと見始めた。
「これは、、?」
「あ、あんまりじっと見ないでください。
もう、おしまいです。」
美空は足をしまった。
「ラルフくんに最初に会ったとき、何か、魔法のようなものを浴びなかったですか?私はその衝撃のあと、みるとこの刻印が。要くんはこういう印みたいなの、なかったですか?」
要は考えた。
確かに美空の言う通り、光のようなものを浴びた気はするが何せその時のことはよく覚えていない上に、その後気づくと自分のベッドだったのだから、わかるはずもない。
ただ確かなのはここ数日、美空の足にあったような印が自分の体に刻まれている気配はなかったと言うことだ。あんな印が自分の体に突如現れたら、気づくはずである。
「なるほど、、でもひとつだけ、確認していないところがあるのでは、、?」
こいつ、また俺の考えてることを、、?、という要の驚きをよそに美空は言い放った。
「要くん、服を脱いでください!」
「はい、?」
「背中は、まだ見ていませんよね?」
そうか、と思った。確かあの光を浴びたとき、背中に衝撃を走ったのを思い出した。あり得るかもしれない、と、一瞬服を脱ぐのを躊躇いながら、じゃあ行くぞ、と言って美空に背中を見せた。
「、、やっぱり。要くんにもありましたよ。私と同じ刻印が。」
美空は要の肩甲骨辺りに自分と同じ妙な印があるのを確認した。
「本当かっ?!じゃあやっぱりそういうことなのか。」
要は服を着ながら話を続ける。
「でも、俺はラルフに会ったのはつい2日前とかなんだ。能力のことだって、もしかしてっていう気持ちはあるが、詳しいことはさっぱり」
「2日前?そんなに最近だったなんて、驚きました。私が最初にレオくんに会ったのはちょうど1年くらい前になります。でも、能力を初めて使ったのは2ヶ月前くらいですかね。」
「え、、?どうしてだ?1年も前に会っているのに、ずっと能力を使っていなかったのか?」
「いえ、正確にいうと自覚がなかったんです。要くんだって、初めて能力を使った時は無自覚に発動していたんじゃありませんか?私の場合、自分の能力を自覚するまでに時間がかかっただけのことだと思います。」
「なるほど、そういうことか。」
要はラルフが言っていたことを思い出した。確かに奴は、自分は能力の種を蒔いているだけで開花させるのは本人というようなことを言っていた。
とすると、あくまで能力は自分の潜在能力が関わってくるということだろう。
「それで、美空の能力っていうのは、、」
先ほどから薄々気づいてはいたが、恐る恐る聞いてみた。
「はい、私の能力は、
"人の思考を読み取る"能力なんです。」
やっぱりな、という顔で息を飲む。途端に自分の思考が読み取られてしまうのでは、という恐怖を感じた。
「あ、安心してください。思考を読み取ると言ってもずっとじゃないんです。自分が読み取りたいと思ったときに発動するので、ずっと考えが筒抜けってわけじゃありませんから。」
てへへ、と照れ隠しのような笑いをしながら美空は言った。つい恐怖を感じてしまった自分を恥じた。こんな純粋な子が能力を悪用なんてするものか、それより自分より詳しそうだし、この際いろいろ教えて貰おうという下心さえ浮かんだ。
「美空、俺に能力について教えてくれないか。
わかる範囲でいい。ラルフやそのレオってやつの本当の意図とか、なんでこんなことしているのか、美空は何か知ってるか?」
美空は真面目な顔になって言う。
「正直な話、私も殆どわからないんです。レオくんには世界を救ってくれって言われてこの能力が与えられたはずなのに、いざ能力が開花したら、レオくんったら"君の好きなように使うといい"なんて言うんです。でもこんな力使う場面あんまりないですし、最初のころは面白がって使うこともありましたが1ヶ月もしたら飽きてしまいました。だから、こういう大事なときにしか使いません。」
「そうなのか、そのレオってやつにはいつでも会えるのか?俺のときは近所の路地で奴(ラルフ)に会って、それ以降いきなり現れたり突然消えたりで、聞きたいことを聞こうにも、、」
「そうだったんですね!大丈夫です。私、レオくんと仲良しですから。そうだ!今から会いに行きましょう。」
そう言うと美空は立ち上がり、再び要の手を引いて家を飛び出した。
先ほどまで降っていた雨が上がっていた。
◇
美空に連れてこられたのは、近くの神社だった。
「こんなところに神社があったなんて、はじめて知った」
よく通る近所にこんな神社があったことを、要は1年間住んでいて初めて知ったのだ。都会の雑踏とはかけ離れたとても静かな場所だ。都会にも静かな場所があったのかと感心していると、美空がどや顔でこちらを見てきた。
「いい場所でしょう。私の憩いの場所なんですここは。なんだか、自分だけが別の世界に来たような、そんな気持ちになるんですよね。小さい頃からの私の秘密の場所なんです。」
今日はいるかな、と言って美空はいきなり
「レオくーーん!わたしですよ~、いますか~?」
と、きょろきょろしながらレオというやつを呼び始めた。
するとどこからともなく声が聞こえる。
「ミソラ?!来てくれたのか!うれしいよ。ちょっと待って。いまいくから。」
「あぶない、あぶない、そこの君!」
そんな声が聞こえ、要は、どこから聞こえているのだ?と、声の主を探す。
「上だよ、うーえ!!」
すると、空からいきなり少年が降ってきた。と言うよりいきなり現れた、と言った方が正しい。気づいた時にはもう遅く、成すすべもなく要の上に落ちた。
「いてて、、、」
要が目を開けると、そこにはラルフと同じくらいの少年の姿があった。髪の色はきれいなオレンジ色をしている。服は布きれ一枚被っただけというようなみすぼらしい恰好をしている。
「大丈夫ですか?二人とも」
美空が心配そうにのぞき込む。
「ああ、大丈夫。おい、お前はやくどけよ」
少年の下敷きになっていた要がにらんでいった。
「あはは。着地に失敗しちゃったよ。ごめんね、君」
そう言いながら立ち上がり、要に手を差し伸べる。要はその手を握らずに、スクっと立ち上がり少年を見下ろす。
「美空、こいつがレオか」
「は、はい。そうです。レオくん、こちら小野寺要くんです。レオくんに会いたいっていうから連れてきたんですけど、、、」
「ミソラ、誰だいこの男。いきなり人のことをこいつ呼ばわりなんて礼儀がなってないんじゃない?し、か、も、僕とミソラの神聖な場所に足を踏み入れるなんて。君、ミソラの何なんだい。僕に用があるっていうなら、まずは自分から名乗るのが筋だろう。」
そういうと、レオはフンっと怒ったそぶりを見せた。レオの言うことも一理あると思った要は、最初から説明することにした。
「レオ、こいつとか言ったのは謝るよ。お前に聞きたいことがあって美空に連れてきてもらったんだ。美空とは、その、あったのは今日なんだけど、、、」
「レオくん、要くんは私の命の恩人なんですよ。車にひかれそうになったところを助けてくれたんです。能力を使って」
要が説明しづらそうにしているのを見かねて、美空が口をはさんだ。
「なにーー?!そうだったのか。ミソラを助けてくれた人なんだね。それならそうと早く言ってくれればいいのに!僕からもお礼を言うよ。ミソラを助けてくれてありがとう。、、、で、カナメ、といったかな?君も力を手にする者だというのは本当かい?」
レオは急にかしこまった態度で聞く。どうしてこいつにお礼を言われるのだ、というのは少し癇に障ったが、そこはスルーして要は答えた。
「ああ、本当だ。といっても、能力を手に入れてまだ二日も経っていない。俺はラルフとかいうやつからもらったんだけど何も教えてくれなくてな。ただ世界を救えと言われた。お前たちはいったい何者なんだ?俺たちに何をしろっていうんだ。」
「へぇ、ラルフが目をつけた男か。それはいいねぇ。僕あいつのことは嫌いだけど、見る目は確かだからね。さ、質問に答えようか。まず、君たちは選ばれて、力を手に入れた。それは僕らの世界を救う義務があるということだ。とはいえ君たちがやることはそんなに難しいことじゃないから安心して!ただ、その力を使ってやりたい放題やっちゃってよ。それだけさ。」
「それだけって、、、おまらの目的はなんだ?何者なんだよ」
要は納得できない様子だ。
「カナメは物分かりが悪いんだね、全く!目的は僕らの世界を救うためだっていってるだろ。僕たちの正体は今は明かすことはできないけど、一部の人たちからはこう呼ばれている、”スコタディ”ってね。ま、妖精か何かとでも思ってくれて構わないよ」
「よ、妖精さんだったんですかー?!レオくん!」
美空は少し嬉しそうに驚いた。
「ふふ。そうだよミソラ。だから君も、もっと能力を使ってほしいんだ。それだけで世界が救われるんだから。君たちの能力があればやりたい放題だろう?」
「そういわれても、、、」
未だ彼らの真意がわからず、要は困惑していた。そんな要をみてレオはにこっと笑みを浮かべる。その笑い方はラルフとよく似ていた。
”期待しているよ、カナメ、ミソラ、君たちの活躍を”
その言葉とともに、レオは姿を消した。
「レオくん、行っちゃいましたね。それにしても結局なにをしたらいいのか具体的なことは聞き出せませんでしたね。」
「ああ、でも少しは理解できたよ。連れてきてくれてありがとう美空。」
「いや、そんなお礼だなんて、いいですよ。またレオくんに会いたくなったら私を呼んでください。何か要君のお役に立ちたいです。」
美空は曇りのない笑顔で言った。その笑顔を見て要も少し笑みを浮かべた。
「ありがとう」
今朝の雨からは考えられないくらいの太陽が二人を照り付ける。
それは、夏の始まりを告げているようだった。
彼が世界を救うまで @aisakaayumu
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