<ジ・エンド・オブ・ラスト・ハーレム>~啓示上のラスト~











<ジ・エンド・オブ・ラスト・ハーレム>~啓示上のラスト~






「大境界を越える!?」

 ルシエラが珍しく大声をあげてオレを驚いた顔で見つめる。


 それなりに騒がしいホテルの食堂にその声は響き渡るほどで、食堂内に響いていたざわめきは消え、朝食をとっていた客たちの視線がオレ達座るテーブルに集中した。

 

 珍しいほどの美女が揃っているせいか、オレ達8人パーティーに集まった視線はしばらくまとわりつくことになり、注目を浴びたオレ達は会話を中断して食事に集中する事になった。


 そう、オレ達人パーティーにだ。

 ミスリア、シセリス、ユミカ、シュリ、レイア、ルシエラの6人にオレ。

 そして最後の一人は、ルクセリア──‘色欲の真魔王’の化身だった。


 今は、虹色に変幻する人外丸出しの姿ではなく鮮やかなスカーレットの髪とスカイブルーの瞳とシルキーホワイトの肌という比較的まともな色彩で固定されているが、人間離れした美貌はそのままにそ知らぬ顔で食べる必要などない食事を取っている。


 昨日の夜、こいつが現れてからオレがとった対応は結局こいつを制御下においたまま使うという判断だった。

 いや、それしかとれなかったというべきか。


 ‘嫉妬’のようにデリートしようかとも考えたが、‘色欲の真魔王’いわく自分の気配につられてやってきたらしい‘嫉妬’と違って、オレを名指しで誘惑しろと命じられたこいつを消せばオレのPSYが気づかれる可能性が高い。

 それはあまりに高すぎるリスクだ。

 

 かといってそのまま放置しておくわけにもいかなかったので、女達からオレに迫った記憶を奪ったついでに、人間に偽装させ新しく入ったパーティーメンバーだと認識させたのだ。


 女達は完全に‘色欲の真魔王’の従属状態にあったので、オレが催眠暗示を使うよりもずっと簡単に記憶の置き換えはできた。


 ただ厄介なのは‘色欲’に溺れたことで副次的に生まれた感情までは消せなかったことだ。

 それをするならば、オレと出会ってからの記憶を丸ごと消すか、人格を作り変える必要があった。


 さすがにそれはできない。

 前者は確実により厄介なことになるだろうし、後者をするならオレは‘非人脳’になってしまう。

 

 結果、‘色欲の真魔王’から女達は解き放たれ、新しいパーティーメンバーのルクセリアが誕生したというわけだ。

 

「どうして大境界を越えようと思ったのか聞かせて貰えますか? 御主人様」

 周りの視線がオレ達から離れると同時にシセリスが口を開く。


 ルクセリアを除く他の女達も同じ疑問を抱いているのだろう。

 答えをうながすかのように12の瞳がオレを見つめる。


「この前の襲撃のような事件がいくつも起きているのを知っているか?」

 オレは、あらかじめ考えていた理由を話すために先日の野盗の襲撃に関して依頼窓口であるルヴァナーズ相互支援組合から協会とギルドに出された通達の情報を女達に問う。


 もちろん本当の理由は別にあるがそれを口に出しては目的遂行に支障が出るので、適当な理由をでっち上げたのだ。


「どれも大境界の向こうからやってきたらしい連中だ」


 大境界。

 設定として‘リアルティメィトオンライン’の世界はいくつかの文化圏を持っているが、その文化圏は基本的に相互干渉ができなくなっている。


 異界ダンジョン化した広大な森や峡谷には、時空の歪みとしか思えない空間の繋がりが捩れた場所がいくつもあり、人はおろか魔物でさえ行き来が出来ない。

 それが設定としての大境界だ。


 そんな設定が作られたのには別に技術的に問題があってというわけではない。

 技術的にはいつでも各国の‘リアルティメィトオンライン’をゲーム内で繋ぐことはできる。


 ‘ワールデェア’の理念に従い、当初にはそういった構想はあったのだが現状では凍結されている。

 凍結の表向きの理由としてあげられているのは、各国の文化や法規制などの問題だが、まあ実際はいわゆる大人の事情というやつだ。


 確かに文化間での概念に対する解釈や思考法には違いがある。

 一つ例えるなら、運命と呼ばれるものを肯定するものと否定するものの対立。

 決められた運命が存在するのかという命題一つをとってもその考え方が違う。


 西洋史観的な二元論による考えではその二つは相容れないものだが、古神道などの考えではその二つは決して対立するものではない。


 唯一神という権威を根幹として神が定める運命は一つでしかあり得ないが、古神道などの教えに語られる八百万に存在する神の定める運命は、一つではあり得ないだからだ。


 そのうちのどれを選ぶかは人の領分だが、不可能な選択もまた存在する。

 ならば、運命とは神の定める決まったものでしかないという意見と運命とは人次第で変えられるものだという両者の意見は決して矛盾するものにはならない。


 それは二元論的な思考は哲学でいうところの形而下の判断──つまりは行動選択などの動物的な行動においてのみ有効なものであり、形而上の思考──つまりは概念や法則論といったプログラム群を扱うには不適切なものであるということだ。


 その考えをもとに‘ワールデェア’のクリエーター達に創られたリアルティメィトオンライン日本の世界観には基本的に善悪の対立構造は存在しない。


 それ故に神という存在もまた絶対的な存在ではなかった。

 そういった設定の神が存在するのは欧米諸国で運営されるリアルティメィトオンラインであり、それも世界のシステムに関わる‘汎神’に至れぬ存在とされている。


 仏教でいうところの天部にあたる存在が‘リアルティメィトオンライン’の設定における神だ。

 

 つまり文化が違う為に別の世界観をもった‘リアルティメィトオンライン’が各国で運営されているということなのだが、それはそれほど大した問題にはならなかった。

 クリエーターのほとんどは‘ワールデェア’であり思想的な調整は出来ていた。


 だがクリエーターの世界解釈とは別の商売の問題がからんでくるとそれだけで話はすまない。

 施設の維持費や人件費などの問題があり、ゲーム内で各国間を行き来されたのでは利益配分に関する複雑な話になってくる。


 非利益運営者である‘ワールデェア’と運営に利益を求める‘下種脳’商人の役人を巻き込んだ綱引きが行われ。

 結果、技術的にはできてもゲーム内での直接的な行き来をすることはできなくされ、データコンバートによる移動のみとなったために大境界という設定が生まれたのだ。


「大境界を越えてやってくる人間はルシエラやレイラのような冒険者のはずが、最近アウトロー達が多く流入してきている。 その理由の解明がクエストとして発行している」


 オレはそれを受けるつもりだと口にした。

 それは未知の領域への挑戦だ。

 そして、だからこそこの世界からの脱出を試みるオレにとっては意味がある。


 だが、彼女達にメリットのある話ではない。

 これでオレと別れるという選択を彼女達が取ってくれれば楽なのだが。

 オレはそう考えながら女達の反応を待っていた。



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アンチ・チートは伝奇世界の神をみるか? ハードボイルド・ウイザードⅡ OLDTELLER @OLDTELLER

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