透明少女

西山香葉子

第1話

 卵を落としたら美味い目玉焼きが作れそうなほど熱いアスファルトの上を、チェックのミニスカートのジョシコーセーが行き過ぎる。

 俺は、駅のそばのスターバックスに避難して、180円のアイスコーヒーを飲んでいる。

 ひらひら踊るように歩く少女たち。

 見ている俺は。

 二十歳。二浪。無趣味。童貞。

 制服のスラックスを腰までズリ下げた男に腕を絡めて歩く女。

 あいつらからはきっと俺は、透明人間かもしれない。

 友達以外はかぼちゃ、な奴ら。

 電車で乗り合わせた客どもも。


 なんだけど、あいつらも透明なのかもしれない。

 純度が高くて透明なのか、性格的に中身がなくて透明なのかは、知らん。


 さっき、道間違えて路地に入ったら、身長違うけど同じスカート履いた女同士が、キスをしてた。

 小柄な方が俺に背を向けてて、背が高い方は俺と目が合った途端、思い切りガン飛ばしてきた。

 マスカラつけまくったまつげと、どこかが人工的なでっかい目で。

 うっかり踏み込んだ俺を睨んでる。

 威嚇かよ。

 お盛んでけっこうなこった。


 路地をすぐ出た左手にあるスターバックスが、ちょっとだけの俺の避暑地。


 受験する大学はコンピュータに決められて。

 親父もお袋も今ある仕事にしがみつくのに必死で。

 姉ちゃんはメイド喫茶で古株になってて(笑)。

 予備校の女が、彼氏が浮気したとかで泣きながら他の女に囲まれてて。


 俺だけが、蚊帳の外。


 さっきキスしてた女どもは、あいつらで恋愛してるんだろう。

 そういう意味でも、男が蚊帳の外。


 俺だけが、蚊帳の外。


 陽炎立つアスファルトに立っていたら。


 陽炎に溶けて無くなるかな?



 踊るように歩く女たちに。


 ウッカリミトレテカヤノソト


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

透明少女 西山香葉子 @piaf7688

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ