最終章:愛と秩序を取り戻せ!

 セダーはなおも、オレに向かって何度も光線を放ちまくる。オレが避けて地面がエネルギーで爆発を起こす度に、観衆が悲鳴に包まれた。

 オレは意を決し、セダーに突進を図る。しかし、奴が大木よりも太い腕を振り下ろしにかかったので、オレは命からがら転がって避けた。セダーの腕が地面とぶつかれば、地面の震動がモロに伝わってくる。


奴は反対側の腕をオレに叩き落とそうとしてきた。オレは再び転がってかわす。再び激烈な地響き。オレは何くそと立ち上がり、魔法の杖を向けた。

「ギャラクシー・バレット!」

 恒星の弾丸をセダーの胴体に向けて放った。セダーの体が、破裂した弾丸がもたらす煙に包まれる。しかし、煙が晴れても、奴は全く動じた気配を見せない。コイツの外面は、魔法攻撃を受けつけないほどの強靭なものなのか。


呆然とするオレにセダーが腕を横向きに振るう。とうとうオレは、凶悪な腕を直撃される羽目になった。問答無用で壁の方まで弾き飛ばされ、まるでめり込んだかのようにしばらく張り付いた後、垂直に滑り降り、地面に蹲る。背骨や肋骨はおろか、五臓六腑の形が分かるほどの壮絶な痛みが走る。


 セダーの方からこちらへ歩み寄ってくる。壁の後ろにいる人たちがざわめいている。恐らくセダーに巻き込まれまいと逃げようとしているのだろうが、そんなことを想像している暇なんてない。

 すっかり力の抜けたオレに、セダーが腕を振り上げた。


「やめろ!」

 気の強い女子の怒声とともに、セダーの背後で何か固い物が投げつけられる音が聞こえた。同時に、奴の股の間で、石ころが跳ね返りながら地面を転がるのが見えた。オレはセダーの股の間から様子を伺うと、そこには、大量の石ころを抱えたアシュリーとマリアの姿があった。


 さらに二人の両脇で、ルナda黒ぶちとミーガンdaキノコも、杖からありったけの魔法光線をセダーに浴びせている。


「みんな……」

 オレは呟くように彼女たちの名前を呼んだが、そんな声量じゃ本人たちに聞こえるはずもない。セダーが何事かと彼女たちの方を振り向く。


「ハーバートをいじめるのはやめなさい! ネイチャー・パーティクル!」

ルナが新緑の光線をセダーに放つ。

「クリスタル・ショック・ウェーヴ!」

 ミーガンは水晶のような爽やかな煌きを帯びた光線を見舞った。

アシュリーとマリアも、引き続き奴に向かって石を投げつける。


 するとセダーは怒りの叫び声を上げた。恐竜の雄叫びのような、規格外のボリュームにオレも思わず縮こまる。セダーは口から暗黒のエネルギーを四人にぶち当てた。

 女子たちの悲鳴が、砂埃の向こうで響き渡る。アイツら、オレのために身を挺して援護射撃してくれたんだ。アシュリーとマリアに至っては、魔法スキルを奪われたままなのに。だが、結果は無残な返り討ち。この化け物がそうやりやがった。


 セダーは、満を持したかのような出で立ちで、こちらをゾロリと振り向いた。いよいよオレの人生も、ペドラ国も終わりか。そう悟った、その時だった。

 またもオレの胸の奥が熱く感じる。紫色の光の球体が現れたかと思うと、ソイツはオレの体から勢い良く飛び出した。


「怪物に身を変えてまで、この国をぶち壊したいか! そんな蛮行を、この私が易々と許すと思うか!」

 スピリット・レオは、口から紫色の光線をぶっ放した。建物を貫きかねないほどのパワーを感じさせるほどの凄まじさだが、セダーはこれを仁王立ちで受け止めにかかった。


 レオの光線に対し、セダーは後ろへと少しずつ少しずつ押しやられながらも、その目はレオを憎々しげに睨み続けていた。しかし、レオの光線が途切れた時、セダーが片ヒザを突く。それだけでも鈍い地響きを少しばかり感じた。だがそれ以上に、オレはあのセダーにダメージを与えたレオの力に驚きを隠せなかった。


「ハーバート・ギャラクシアス、今がチャンスだ! 一世一代のお前の生き様を賭けろ!」

 レオは発破をかけると、自らオレの杖に飛び込んでいった。レオを吸い込んだ杖の先端、いや、杖全体が、星雲の如く清らかに輝いていた。

 オレは杖の中のレオに頷くと、改めてセダーと対峙した。


 セダーが暗黒のエネルギーを放つ。オレは咄嗟に転がって避ける。二発目、三発目が間髪入れずに飛んでくるが、オレはそいつらもことごとくかわして行った。


「ギャラクシー・ロング・スピアー!」

 杖の先から紫色の槍が伸びる。どこぞの飛行機雲のように、風を切り裂くように、オレの想定以上に伸び続けた煌く魔法の槍は、セダーの左目にたどり着き、眼球のド真ん中に命中した。


「ぐあああああっ!」

 片目を潰され、セダーが断末魔の叫びを上げ、後ずさりする。オレは目を押さえる怪物に向かい、杖を掲げた。


「精霊の獅子よ。我に希望の力を授け、宇宙のきら星の如く輝ける未来を示せ!」


 ただでさえ煌きに包まれた魔法の杖。そのコアがさらに華々しさを強めていく。芽生え始めた光の球体は、オレの、平和の蘇生を願う思いに応えるかのように、あの日よりもさらに大きな円を形作った。


「全てはこの国から、闇を葬り去り、太陽のような栄光を取り戻すために! 全ては我が愛する者の笑顔を取り戻すために! ギャラクシー・メテオ・ブリーブ!」


 セダーの体並みの大きさをした光の隕石を、その怪物に向けて一直線に放った。セダーの体に隕石が衝突した瞬間、十二メートル四方の闘技場が、まるで世界の滅亡を告げるかのような爆音と煙の嵐に包み込まれた。途轍もない衝撃を感じたオレも、思わず地面に突っ伏した。


 煙が晴れ、日差しが改めてフィールドを照らすのを感じた。オレは何が起きたのか分からないまま、おそるおそるセダーのいた方に目を向けた。


 奴は、倒れていた。その身から感じ取られる力は、もうなかった。

 セダーの体の形が崩れ、黒い影のように曖昧になると、一気にまんまるにまとまっていく。まりもレベルの小ささに戻ったソイツは、数秒間その場に漂った後、空へと打ち上げられ、闘技場の鐘の鳴る塔を越えて消えて行った。


 歓声が、至る所から巻き起こった。

 オレは、周囲を確かめた。皆が祝福していた。あの黒い外套の軍団たちも、呪縛から解かれたかのように手を上げ、オレに声援を送っている。オレがペドラ国に漂う暗黒を振り払い、光を照らしたんだ。


 そう分かった瞬間、オレはヒザを突き、杖を持つ手を突き上げた。

「よっしゃああああああああああっ!」


 叫び終わった後、オレはエメラインの存在を悟った。彼女はまだ磔にされている最中なんだ。助けてやらなければ。何といっても、オレが想う人なんだから。

 オレは夢中で彼女の方を向いた。しかし、そこにもう、彼女を縛り付ける十字架はなかった。エメラインの方から、オレの方へ駆け寄って来た。


「エメライン……」

「十字架は、幻のように消え去りました」

「そうなのか?」

「ええ」

「よく分からないけど、君が無事で安心したよ」

「ありがとうございます」


 オレは自分の体に顔をうずめるエメラインに抱擁した。彼女の体の自然な優しい温もりを感じながら、オレはブラッドが倒れていた入場口方向を向いた。奴の姿も、いつの間にやら消え去っていた。


 ブラッド・ジェットはどこへ行ったのか。今はそんなことなどどうでもいい。オレはエメラインの方へ向き直り、彼女の頭に頬を寄せた。

「ブラッド・ジェットや、セダー相手に奮闘していたあなたほど逞しい人間は、今まで見たことがありませんでした」

「それも、君と世界を助けるためなんだ」


「私と世界のために自分の身を挺すとは、実に素敵な方ですね」

「エメライン、君にひとつ言わなきゃいけないことがあるんだ」

「まあ」

 朗らかだったエメラインの顔が、急に不思議なものを見る感じに変化した。オレは意を決して彼女と間を取り、手を差し出した。


「オレ、君のことが好きなんだ」

「本当ですか?」

「ああ、だから、オレと、いや、私と付き合って頂けますか?」

 エメラインはしばし俯いた後、微笑みながらオレの手を握り返した。

「喜んでお付き合いします」

「ありがとう!」

 オレは心からの声を上げ、エメラインと抱き合った。


「おいおい、これは一体どういうことかな?」

 国王の声にオレは急な緊張感を覚えた。王妃とともに、国王がオレに近づき、何事かと訝しがっている。

「私に、新しい恋人ができました。ブラッド・ジェットにはもう何の感情もございません。ハーバート・ギャラクシアス、彼こそが私にとっての立派な恋人であります。お父さま、お母さま、そのことを正式に認めて頂けますでしょうか?」


「まあ、我々にとっての死をも思わせる危機を救ったのは彼だ。交際を認めるとしよう」

「ありがとうございます」

「国王、王妃。私は、喜んでエメラインを幸せにする所存です。今後とも、よろしくお願い申し上げます」

「君にはマジック・ファイターとして、そしてエメラインの恋人として、この先是非とも更に精進していただきたいと思う」

 そう告げた国王も、王妃も、オレを歓迎するような晴れやかな表情だった。


「おい、空を見ろ!」

「あれは何だ?」

 観客たちの声を聞いて、オレは上を見上げる。多種多様な色をした煌く帯が、まるで流れ星のようにこちらへ降り注いでくる。


 それらの多くは、客席の一角を占めていた、シャドウの外套を身にまとった人たちの方へ落ちていった。さらに二筋の光、青と赤の帯は、それぞれ国王と王妃の体に降り注いだ。さらに灰色の帯がフィールドで横になっていたアシュリーとマリアのもとへかかり、桃色の帯がエメラインの体の中へ流れ込んだ。


「ん、何か爽やかなものを浴びた気がしたが……」

「確かに不思議な感触がしましたね」

 アシュリーとマリアが起き上がる。それに続いて、ルナとミーガンも。


「ちょっと、女子たちのもとへ行きましょう」

「ああ」

 オレは戸惑いながら、ベガ家とともに四人のもとへ向かった。


「みんな大丈夫だったか?」

「ええ、何とか」

 ミーガンが控えめに無事をアピールした。

「私はこう見えても、何度も実験中の爆発を乗り越えてきたのよ。つまり私は不死身」

 ルナの謎の強靭アピールにはリアクションに困る。


「すみません、あなたたち、石をお持ちになられておりませんでしたか?」

 エメラインがアシュリーとマリアに尋ねる。

「ああ、セダーをやっつけようと持ってきたからな」

「あそこに落ちてますね」


 一同はセダーに投げた石ころのひとつの方へ向かった。エメラインがそれを見るや、懐から魔法の杖を取り出す。

「それでは参ります。ムーブ!」

 そのとき、エメラインの杖の先が示す石ころが数メートル向こうへと独りでに転がっていった。


「ちょっと待て、じゃあさっきの光の帯はやはり……!」

「魔法スキルが戻ったってことだ!」

「何と、それは素晴らしい!」

「ありがとうございます! この機会に大いなる感謝を申し上げます!」

 アシュリーとマリアも、言葉にありったけの嬉しさを乗せると、ルナやミーガンとともに喜びを分かち合った。


「ハーバート、おめでとう。私はアンタならこの困難も乗り越えてくれると思ってた。それを叶えたじゃない。お疲れさん。これからも頑張ってね」

「ルナ、お前も頑張れよ」

 オレは笑いながらルナに言葉を返した。


「お姉ちゃんを助けて頂き、誠にありがとうございます」

「どういたしまして」

「もう一度妹の顔が見れて、私は嬉しかったぞ~」

 アシュリーがミーガンの頬を両手ですりすりしている。ミーガンが顔をしかめて嫌がっている。


「ちょっと待て、我々に魔法スキルが戻ったと言うことは、これもできるわけだ」

 アシュリーは杖のコアを自分の口元に近づけた。

「皆さん、お聞きください。只今の光の帯は、皆さんの魔法スキルの集合体です。つまり、我々も含め、ここにいる魔法スキルを失っていた魔術士、いや、ペドラ国中でそのような被害を被った方たちは全て、喪失前の状態に全回復したことをここにお知らせいたします!」

 アシュリーの喜ばしいお知らせに、観衆が湧いた。これでペドラ国における全ての秩序が取り戻されたのだ。


 オレとエメラインは、お互いによく頑張ったとばかりに微笑みを交わしながら、抱き合い、共に生きられる喜びを分かち合った。

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マジックファイターが色々奪った奴にブチかます STキャナル @stakarenga

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