スクナくんのぼうけん

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スクナくんのぼうけん






 スクナくんは、5さい。

 もう、おにいさんです。

 だから、ひとりで でかけることも できます。

 でも、おかあさんは、「ひとりで おそとに でちゃだめよ」

 そういって、でかけるときは、いつも ついてきます。


「おそとには、こわいヒトが、たくさんいるの」

「こわい ヒトは、やさしいふりをして わるいことをするの」

「わるい ヒトは、いいヒトの ふりを してるの」

「いい ヒトの ふりを して、えらく なる ヒトも いるのよ」

「スクナは、いい ヒトと わるい ヒトを みた だけじゃ わからないよね」


 そういって、まわりのヒトを みて いいます。


「ほら、あのなかに こわい ヒトが いるかもよ」


 いままでは、それで こわく なって いました。


 でも、スクナくんは、もう おにいさん です。

 よるに、ひとりで、トイレに だって、いけるのです。


 だから、スクナくんは、まわりを、みてみます。


 まわりの ひとは、ふつうの ヒトです。

 こわそうな ヒトも います。

 やさしそうな ヒトも います。


「こわい ヒトは、みたら わかるよ」


 スクナくんは、むねを はって いいます。

 だって、テレビで みる わるいヒトは、みんな、わるそうな ヒト です。


 そう、スクナくんが いうと、おかさんは、ダメダメと くびを ふります。


「ちがうのよ。 テレビはね、ほんとの ことじゃ ないの」


「ホントのことは、ニュースって いうんでしょ。 しってるよ」


 でも、スクナくんは、もう おにいさんです。


 セイジカって ヒトが、わるい ヒト だって しってます。

 ザイカイって ヒトが、わるい ヒトの ぶか だって しってます。

 カンリョーって ヒトが、ずるい ヒト だって しってます。


 いっしょに、わるいことを、してるんだそうです。

 セイ ザイ カンのユチャク っていうんです。


 スクナくんは、しってます。

 だって、もう おにいさん ですから。


 まわりの おとなたちも、みんな、そう いってますから。

 こうえんで、おばさんたちや、おじさんたちが、そう いってます。

 ニュースでも、そう いってます。


 テレビはウソもあるけど、ホントもあるのです。

 それが、ニュースです。


 ニュースで みる セイジカは、みんな、えらそうで、わるそうです。

 ニュースには、ザイカイは、でてきません。 かくれて、わるいことをしてるんでしょう。

 ニュースで みる カンリョーは、みんな、うそつきっぽくて、わるそうです。


 だから、スクナくんは、おおきく なったら、タンテー センタイに はいる つもりです。

 そして、ひとりで、セイ ザイ カンを、やっつけるのです。


 どうして、ひとりで?

 だって、タンテーレッド たちは、ハンザイシャーを、やっつけるのに いそがしい ですから。


 そういうと、おかあさんは、こまった かおで、いいました。


「セイジカ さんや、カンリョー さんは、わるい ヒト ばかりじゃ ないのよ」

「わるい ヒトだよ。 みんなの ために あつめた おカネを、ぬすむんだよ」


 スクナくんは、しってます。

 オーリョーっていうんです。


「それに、バカだから、みんなを ころす ゲンシロを、うごかそうと してるんだ」


 スクナくんは、しってます。

 ゲンシロって、こわいヤツです。

 ハンザイシャーが やろうとした かく ジャックってヤツです。

 ドカンと なると、ばくはつで しななくても、どくで しんでしまうのです。


 けれど、セイザイカンは、おカネがほしくて、ゲンシロを、うごかそうと してるのです。

 しんでしまったら、おカネが たくさん あっても つかえないのに。


 もし、そうなったら、ガイコクへにげるんだそうです。

 どくが、からだに はいったら、ガイコクにいってもムダなのに。

 

 スクナくんは、だから、そんな バカな セイザイカンを、やっつけるつもりです。

 そうして、おかあさんが スクナくんを しかるとき みたいに、セッキョーするのです。


「どこで、そんなことを、おぼえて くるのかしら」


 おかあさんは、そんなスクナくんをみて、ためいきをつきました。

 そして、まわりを みまわすと、ちいさな こえになって、いいます。


「あのね。 ひみつ だけど、ニュースで いってる ことも、ホントのこと だけじゃないの」


 スクナくんは、おどろいてしまいました。

 ニュースは、ウソ?

 ニュースを、よむひとは、ウソツキ だったのか。


 なんだか、とっても イヤな かんじが しました。


「うそ ばっかり じゃないのよ。 それに、うそつき ばかり じゃないの」

「こわい ヒトが、ふつうの ヒトに まざってるって、いったでしょ?」

「ニュースの ヒトにも、うそつきが まざってるの」

「ニュースを よむヒトも、だまされてる いい ヒトも いるし、うそつきも いるの」

「スクナは、うそつきも だまされてる ヒトも みた だけじゃ わからないよね」


 そういって、おかあさんは、また まわりを みて、いいます。


「ほら、うそつきに だまされて、わるい ヒトを、いいヒトと おもってる かもよ」


 スクナくんは、なんだか すっかり コワくなって しまいました。



 そうして、いちどは コワくなって しまった スクナくん。

 でも、スクナくんは、もう おにいさんです。

 つよくなくては、いけません。


 つよくないと、おかあさんを、まもれません。

 つよくないと、ゆりあセンセーも、まもれません。

 つよくないと、よつばちゃんもまもれません


 つよくないと、たいせつな ものも、だいすきな ひとも、まもれないのです。


 だから、スクナくんは、かんがえます。

 どうしたら、つよく なれるんだろう?


 スクナくんは、がんばって かんがえました。

 つよくなるには、コワイを、どこかに、おいはらわないと いけません。

 「オニは そと」 と、いっしょです。


 じゃあ、どうしたら、コワく なくなるの?

 スクナくんは、また かんがえます。

 よる、おふとんの なかでも、かんがえ ます。


 むつかしいです。

 かんがえるのも、つかれて きます。


 でも、がんばります。

 だって、スクナくんは、おにいちゃんですから。

 いつまでも、あかちゃんでは いられないの です。


 あかちゃんなら、ママの おっぱいを、のんで いられます。

 たのしく あそんで いれば よいのです。

 こわければ、ママの うしろに、かくれて いられます。


 でも、いつまでも あかちゃんでは、いられないの です。

 あかちゃん だったら、たいせつな ものも、だいすきな ひとも、まもれないのです。


 わるいヒトに、たいせつな もの を、こわされても ミーミーと なくしか ありません。

 こわいヒトに、だいすきな ひと を、さらわれても ウミャーと なくしか ありません。


 ちっちゃい こネコ と、おなじ です。

 こわい ヒトが きても、おっきな ネコだったら、はしって にげられます。

 でも、あかちゃんは、そんなことも できないのです。


 わるい ヒトに とられない ように、たいせつな もの を、かくす ことも できません。

 こわい ヒト にさらわれないように、 だいすきな ひとを、つれて にげられません。

 

 タンテー レンジャー なら、わるいヒトを、こらしめられます。

 タンテー レンジャー なら、こわいヒトを、やっつけられます。


 でも、スクナくんは、おにいさんだけど、タンテー レンジャー じゃ、ありません。

 やっつけようとしても、ぎゃくに、やっつけられてしまいます。


 わるいヒトが、たいせつな もの を、こわそうとしていても ウーッと ほえるしか ありません。

 こわいヒトが、だいすきな ひと を、さらおうとしていても、けとばされて キャンと なくしか ありません。


 ちっちゃな こイヌといっしょです。

 ヒトより つよい おっきな イヌでも、わるいヒトや こわいヒトには、かなわない でしょう。


 だって、イヌはマヌケだから、わるいヒトに エサを もらったら、いうことを きいて しまいます。

 いうことを きかなくても、こわいヒトに、どくのえさを たべさせられたり、わなに かけられたり して しんで しまいます。

  

 だから、コワイの です。


 わるいヒトに、なにもかも とられてしまうことが。

 こわいヒトに、なにもかも こわされてしまうのが。


 なにも かんがえずに、むかって いったら、おしまい です。

 たいせつな ものも、だいすきな ひとも、まもれません。


 だから、かんがえなくては いけないのです。


 かんがえるのが、たいへんでも、かんがえます。

 かんがえるのに つかれても、かんがえます。


 スクナくんは、あかちゃんじゃないので、がんばります。

 

 ママの おっぱいを のんで、あそんで いる と、たいせつなものは、とられてしまいます。

 だから、おかあさんから はなれて、たいせつなもの を、かくしに いかなくては なりません。


 ママに だっこ されて、こわいヒトから にげていたら、つかまって しまいます。

 だから、おかあさんの てを、ひっぱって、こわいヒトから にげるのです。


 タンテー レンジャー じゃなくても、おにいさんなら できます。

 だから、あかちゃん じゃ、いられないの です。


 でも、コワくて ふるえていては、おかあさんから はなれられません。

 でも、コワくて ふるえて いては、いっしょに はしって にげられません。


 どうすれば、コワくなくなるんだろう?

 

 スクナくんは、かんがえ つづけました。


 もう、スクナくんは、おにいちゃんに なったので、オニやオバケもこわくありません。

 それなのに、どうして こんなに こわいのでしょう?


「コワくても たたかう ゆうき が あれば、たたかえる」

 タンテー レンジャーは、そう、いっていました。


 だから、スクナくんは、ゆうき を きたえる トックンを しました。


 コワくても、まどの そとに、オバケが あらわれたら、にらみつけました。

 そうしたら、オバケは、コンビニのビニールでした。


 コワくても、ヨルにひとりでトイレにいきました。

 そうしたら、コワくなくなってきました。


 そうして、とうとう、おかあさんが こわがる アレを やっつけられる ように なったのです。

 アレは、ただの くろくて テカテカの ムシ です。


 ゴキブリって いうんだけど、なまえを きくのも イヤなので、おかあさんはアレといいます。


 アレはハチみたいに、さしたりも しません。

 クワガタみたいに、トゲトゲで、はさんだりも しません。


 でも、ヒトを コワくさせる チョーノーリョクを、もっているのです。

 スクナくんは、しっています。

 ニュースでやっていました。


 サイって いうやつです。

 エーゴで、PSYって かくんです。

 スクナくんは、おかあさんに エーゴを ならったので、しってます。


 サイは、ヒトの こころや、ジョーホー を、あやつる ちから です。

 チョーノーリョクです。


 チョーノーリョクを つかう ムシに、スクナくんは、かてたのです。

 もう、なにも コワく なくなったと おもっていました。


 それなのに、ニュースが ウソのときも あると、きいた あと、とても コワく なりました。


 どうして だろうと、スクナくんは、かんがえ つづけました。

 コワく なった わけが わかれば、トックンで コワくなく できる からです。


 ゆうきは、きたえられるのです。

 でも、なにがコワいか、わからなければ ダメです。

 だから、かんがえるの です。


 コワい ことを さがすのは、イヤな かんじ に、なります。

 でも、スクナくんは、まけません。 

 イヤな かんじは、コワイの ちっちゃな カケラ だって、きづいた からです。


 コワイのは、かんがえると、イヤな かんじ に、なることの そばに あります。

 コワイから はがれだした カケラが、チクチク こころ を さして、イヤなかんじになるのです。


 だから、コワイは、ニュースがウソの そばに、あります。

 コワイのカケラが、チクチク こころ を、さします。


 「ちがうよ。 ニュースは、ぜんぶ ホントだよ」と、いいたく なります。


 まちがいありません。

 コワイは、ニュースがウソの そばに、あります。


 だって、よるの トイレの ときも、そうでした。


「トイレになんていきたくないよ」


 コワイは、よるの トイレの そばに あったので、そう いいたく なりました。

 そして、その こころの こえの とおりに した ひ は、おねしょを して しまいます。


 スクナくんは、もう おにいさん です。

 そんな こえには、まけません。


 しらない ふりを して、にげだしたり しません。

 だって、そんなことをしても、コワイは きえたり しない から です。


 そして、そうして いる うちに、ゆうきが、どんどん ちいさく なって しまうのです。

 はんたいに、なんども コワイの そばに いくと、ゆうきは、おおきくなります。


 トックンで、からだが きたえられるのと、いっしょ です。

 こころの トックンで、ゆうきが、きたえられるの です。


 こころの トックンは、あかちゃんには、できません。

 こころの トックンが できたので、スクナくんは、おにいさんに なりました。


 これで、おかあさんや、ゆりあセンセーや、よつばちゃんを、まもれる。

 スクナくんは、おにいさんになって、そう おもえました。

 だから、また あかちゃんに、もどれないの です。


 あかちゃん もどりして、ママの おっぱいを のんで、ママに あまえて いればいいんだよ。

 コワイのカケラが、チクチク こころを さすと、そう おもいたく なります。


 でも、それでは、だれも まもれません。

 じぶん だって、まもれない あかちゃんに、どうして みんなが まもれるでしょう。


 あかちゃんのように、だれも まもれないのは いやです。

 ネコの ように、じぶんだけしか まもれないのは、いや です。

 イヌのように、まもることが できずに、やられて しまうのも、いや です。


 それに、イヌは マヌケだから わるいヒトにだまされて、スクナくんを、かもうと するかも しれません。


 そこまで かんがえて、スクナくんは、きづきました。

 ニュースがウソは、スクナくんを、マヌケなイヌ みたいに、するかも しれないのです。


 そうかんがえると、コワイのカケラが、チクチク こころ を、さします。

 まえより、チクチクは つよく なってます。

 とっても イヤな かんじ です。


「べつに、だれも まもれなくても いいじゃないか。 だれかが まもってくれるよ。」

 オギャーオギャーとなきながら、こころのなかの あかちゃんが、いいます。


「にげていいんだよ。 みんな、じぶんのことは、じぶんで まもれば いいんだ。」

 ミャーミャーと なきながら、こころのなかの ネコが、いいます。


「かんがえなくても いい。 ちからを つければ、わるいやつに なんか、まけない」

 キャンキャンと なきながら、こころの なかの イヌが、いいます。


 みんなチクチクがいやで、にげだしたいスクナくんです。



 でも、スクナくんは、しってます。


 あかちゃんの いう だれか っていうのは、じぶんたちの ことです。

 みんなが、あかちゃんのままだと、だれも まもれません。

 

 あかちゃんのまま、おおきくなると、ヒキコモリやニートに、なるのです。

 そうして、だいすきな おかあさんに、しねと いったり するように なるのです。


 チクチクがいやで、にげだしたいけれど、スクナくんは、しってます。


 ネコがいう みんなは、じぶんたちの ことです。

 みんながネコでは、たいせつな ものが、おおきかったら、もって にげられません。


 ネコのまま、おおきくなると、ボッチになるのです。

 そうして、だいすきな よつばちゃんに、あっちいけと いったり するように なるのです。


 チクチクが いやで、にげて ばかりだと どうなるか、スクナくんは、しってます。


 イヌがいう、わるいやつは、じぶんたちのことです。

 みんなが イヌでは、たいせつなものや たいせつなひとを、じぶんたちで、こわして しまいます。


 イヌのまま、おおきくなると、ノーキンに なるのです。

 そうして、だいすきな ゆりあセンセーに むりやり キスしようと したり するように なるのです。


 スクナくんは、ヒキコモリの ルーくんにも、ボッチの ハチくんにも、ノーキンの ライトくんにも、なりたくありません。

 スクナくんは、おにいさんに なって、おとなに なって、タンテーレンジャーに なるのです。


 だから、ゆうきを、きたえるのです。

 だから、イヤな かんじが しても、かんがえるのです。

 だって、スクナくんは、ちゃんとした おにいさん ですから。


 そうして、スクナくんは、かんがえに かんがえて、わかりました。

 コワイは、マヌケなイヌと ニュースがウソ のそばに あります。


 すごく すごく、イヤな きぶんに なったけど、かんがえて、わかりました。

 ニュースがウソ だと、マヌケなイヌに なって しまう ことが、コワイことです。


 では、どんなニュースがウソだと、スクナくんは、マヌケなイヌになるのでしょう。 

 イヤなチクチクはもうグサグサになっています。


 それが、コワイ です。

 その こたえが、コワイ です。


 スクナくんは、もう なきそうでした。

 いいえ、もう、なみだが、こぼれて います。


 スクナくんは、つよいこ なので、あまり ないたり しません。

 このまえ ないたのは、リアジューに、いじめられた ときです。


 リアジューは、ヨシテルくんとおなじコーコーセー です。

 ヨシテルくんは、ボッチのハチくんの アイボーで、スクナくんの ともだち です。


 リアジューは、イヤなやつで、ヨシテルくんを、チューニビョーと バカに するのです。


「おまえも、いつまでも タンテーレンジャーとか しんじてっと、コイツみたいにチューニビョーになるぞ」


 リアジューは、そういって、スクナくんとヨシテルくんをバカにしました。


「チューニビョーってしってるか? いもしない ヒーローとかを、こどもみたいにいつまでもしんじてるやつだ」


 そう いわれたとき、とっても イヤなきぶんで、かなしくて、スクナくんは、なきました。

 あかちゃんじゃ なくなって、はじめて、あかちゃん みたいに なきました。


 そうすると、リアジューは、どこかにいきました。


「だまされるな、スクナよ。 タンテーレンジャーはいるぞ。 みなの こころに。 あのリアジューは、ハンザイシャーの てさき かもしれないな」


 ヨシテルくんは、そういって、ないてる スクナくんを、いえに おくって くれました。


 だから、スクナくんは、おもおうと してました。


 タンテーレンジャーは、ニュースなのだ。

 ホントのことでリアジューはウソツキなのだと。


 でも、そうじゃないかも。

 ずっと、そうも おもって いました。

 

 おかあさんに きけば、ホントのことを、おしえて くれるでしょう。

 おかあさんは、スクナくんに ウソは、つきません。


 ときどき、むつかしいことで、スクナくんが わからない ことでも、ホントのことを、おしえて くれます。


 タンテーレンジャーがいるかいないのかは、かんたんなことです。

 でも、スクナくんは、きけませんでした。


 タンテーレンジャーが ウソだなんて、おもいたく なかったの です。


 そうです。

 それが、スクナくんの コワイでした。


 ぼろぼろと なみだを こぼしながら、スクナくんは、コワイに たどりつきました。

 そうすると イヤな グサグサは、コワイに かわります。

 

 このコワイは、あのとき にげて しまった コワイ でした。

 おかあさんに ホントのことを、きけなくした コワイ でした。


 やっぱり、にげても、コワイはきえないのです。

 また、にげたら、ゆうきは、ちいさく なります。


 そして、いろんな コワイから、にげつづけると、あかちゃんに もどるのです。

 そして、いろんな コワイに、ちかづかないと、ネコのように なってしまうのです。

 そして、いろんな コワイを かんがえないで いると イヌのように なってしまうのです。

 

 だから、スクナくんは、このコワイに ちかづこうと、きめたのです。


 けれど、いちど にげてしまった このコワイに ちかづくのは、もう トックンでは ありません。

 きっと、このコワイを なくせても、ゆうきは、きたえられない からです。

 なんとなく、スクナくんには、そう わかっていました。


 そうおもったから、スクナくんは、いちどにげたのです。

 

 コワイをけせても、ゆうきは、どうなるか わかりません。

 そして、ちかづけずに また にげたら、ゆうきは、とってもちいさく なります。


 コワイに ちかづかなければ、あかちゃんには、なりません。


 あかちゃんになるより、イヌやネコのほうがいいよ。

 どうなるかも わからないのに、ちかづくのは、きけんだよ。


 そう、こころのなかのイヌやネコがいいます。


 きけんに ちかづくことを、ぼうけんというのだとスクナくんはしっています。

 このコワイにちかづくのは、トックンではなく、ぼうけんなのです。


 ゲームの ぼうけんなら、いちど レベルが あがったら、もう よわくなったり しません。

 でも、ほんとの ぼうけんは、ちがいます。

 ちからも ゆうきも、きたえないと、レベルが、さがって しまうのです。


 むつかしいです。

 クソゲーって いうんだ そうです。


「げんじつは、クソゲーだからな」 

 

 よく、ヨシテルくんがいっています。

 でも、むつかしくてもいいんだと、スクナくんは おもいます。


 むつかしい だけじゃ なくて、げんじつは、コワくて とてもつかれて、たいへんです。

 コワイが なにかを さがすだけで、こんなに こころが へとへとなのです。


 それでも、きっと、かんたんすぎたら、みんな なまけものに なって しまいます。


「リアジューには、げんじつは、かんたんなのだ」


 ヨシテルくんは、そうもいっていました。


 だから、リアジューは、いいヒトに なるのを なまけて、あんなにイジワルになったんだ。

 スクナくんは、そう おもいました。


 スクナくんは、いじわるな リアジューなんかにはなりたくありません。

 チューニビョーを バカにしていた リアジューは、カッコ わるかった からです。


 リアジューは、きっと、かんがえるのを やめて イヌになったの です。

 むれの なかで、コワイものなんて ないと、おもいこんで いるのです。


 ヨシテルくんのアイボーのハチくんは、そんなリアジューにもヨシテルくんにも、ちかづこうとしません。

 ハチくんは、きっと かんがえて コワイにち かづかずに、ネコに なったのです。


 いいヒトに なるのは、たいへんです。

 ゆうきを、いっぱいきたえて、やさしさを、たくさんきたえて、いっぱい いっぱい、つよく ならないと いけません。


 だから、なまけたいなら、イヌやネコのようになればいい。

 なりたくはないのです。

 

 でも、スクナくんは、もうへとへとです。

 こんなに、へとへとなのに、まだ がんばれとは だれも いわないでしょう。


 どうしよう?


 あとは、きめるだけです。


 まだ とまらない なみだを ながしつづけながら、スクナくんは、きめました。

 イヌやネコには、ならないと。

 

 あしたに なったら、おかあさんに きくの です。


 タンテー レンジャーは、ニュースなの?

 タンテー レンジャーは、ホントなの?

 タンテー レンジャーは、いるの?


 スクナくんの、はじめてのぼうけんです。

 


 ぼうけんの けっか?

 どうなったかって?


 おかあさんは、ホントのことを、いいます。

 それが、そうで なければ いいと、おもうような ことでもです。


 それなら、ききたく ない?

 それとも、もう こたえは し ってるから きかなくて いい?


 ききたくないヒトは、スクナくんが、かなしむと おもって ない?

 きかなくていいヒトは、スクナくんが、こたえを しらないと おもって ない?


 だいじょうぶ。 スクナくんは、かなしんで いません。

 いいえ。 スクナくんは、こたえを ひとつは しっています。


 こたえを、しっていたから、コワかったのです。

 それでも、スクナくんが、かなしんでいないのは、おかあさんが、こう こたえたから。



「タンテーレンジャーは、ニュースじゃ ないの。 ものがたりよ」


「でも、ものがたりだけれど、ホントなの。 ニュースに ウソが まじっている ように、ものがたりにも ホントがま じってるのよ」


「タンテーレンジャーはいないけど、タンテーレンジャーが かたったものは ほんとうよ」


「ほんとうのことはね。 りそう っていうの」


「なかよくしたい とか、やさしく したいとか、すきなひとを まもりたい っていう こころ」


「ズルを したく ないとか、イヤなヒトに なりたく ないとか、たすけたい っていう おもい」


「そんな、いろいろな たいせつな おもいの ことを りそうと いうの」


「りそうを とおくに あって ての とどかない とくべつな ものと、いう ひとも いるけど、それは、まちがい なの」


「りそうは、わたしたちの すぐ そばに ある そんな たいせつな こころや おもい。 とおくに あって、ての とどかない まぼろしでは ないのよ」


「タンテーレンジャーは、そんな りそうを まもって いたでしょう? それが、せいぎ」


「せいぎを、じぶんたちの したいことが いいこと だって、いう いみで つかう ひとも いるけど、それも まちがいなの」


「りそうがないと、ヒトはヒトとして いきて いけないの」


「りそうがなくなったら、ヒトが つくったものは、ぜんぶ なくなっちゃうの」


「おおむかしに、どうくつで、くらしていた ころから、ヒトは りそうを まもり、そだてて きたのよ」


「だから、りそうを まもる ひとが、せいぎで ヒーローよ」


「だから、タンテーレンジャーは いなくても、おなじことを している ヒトは、たくさんいるの」


「そうでなかったら、ヒトは とっくに ほろびているわ」


 スクナくんは、おかあさんのいうことが、ぜんぶわかったわけではありません。


 でも、おかあさんの はなしを きいたら、かなしくなると おもっていました。

 でも、おかあさんの はなしを きいても、かなしくは なりませんでした。


 タンテーレンジャーが いないと いわれると おもって いました。

 タンテーレンジャーのようなヒトが いると いわれるとは、おもって いませんでした。


 これが、スクナくんのぼうけんの けっか です。



おしまい


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