ねえ、――でいてください。

奔埜しおり

そろそろさ。

「ねえ、本当に目障りなんだけど」

「あん? 知らねえよ。お前がこっち見てるからだろ」


「声、うるさい。低くて耳障り」

「しょうがねえだろ、お前と違って男なんだから」


「腕の筋、針刺したいんだけど」

「いてえからやめろ」


「」

「」


「背、高すぎ。首痛いんだけど」

「じゃあ毎日牛乳飲めよチビ」


「こっちこないでよ、心臓が恐怖でおかしくなる」

「俺は害獣かなにかか」


「手、重い、邪魔。身長縮んだらどうすんのよ」

「もう縮む身長もないだろ」


「苦しいし、熱いんだけど。私を絞め殺すつもり?」

「少しくらい我慢しろよ」


「引っ張らないでよ、熱い、痛い」

「うるさい、勝手にはぐれるからだろ」


「」

「」


「消毒液染みるんですけど」

「堪えろよそんくらい」


「……」

「どうしたらこんなに毎日生傷増やせるんだよ」

「いらないものを買っちゃったのよ」

「は?」

「なんでもないわ。早く手当て終わらせなさいよ。……帰れないでしょ」

「あーはいはい、仰せのままにー」


「」

「」


「あの子のこと見てた。その目潰して良い?」

「見てないし、潰したら見えなくなるからやめろ」


「」

「」


「またあの子」

「あのな」


「ねえ、最近あの子のことばかり見てない?」

「気にしすぎだろ」


「見てる」

「見てない」


「そんなに私以外がいいならそっちに行きなよ」

「おいこら」


「別に私は、あんたじゃなくてもいい。相手してくれるなら誰だっていいんだから」

「お前な」


「もう飽きたんだってば、あんたに」

「……そうかよ」


「」


「……ちょっとくらい、構いなさいよ、馬鹿」


「」


「怪我、治っちゃった」


「静か」


「少し、ほんの少しだけ、寂しいかも」


「」


「……あら、どうしたの?」

「泣いてるんじゃねーかと思って」

「うぬぼれないでくれる? 目も耳も健康的になったなって。心臓だってすごく落ち着いていたの」

「じゃあ、また不健康になれよ。心臓周りの筋肉鍛えられるんじゃねーの」

「うるさい、セクハラ野郎。……でも、ありがとう」

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ねえ、――でいてください。 奔埜しおり @bookmarkhonno

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