第5話

1章―4 お嬢様と対面




(さて何処がお嬢様の部屋だろうか)

ソルファは服を着て、剣を鞘に入れ腰に刺し、部屋を出た。

服はリルノが朝食の準備へ向かったあと、寝ていた部屋にある机の上に丁寧に畳まれてあったのを見つけ着たものだ。

そして、フィーナと会うために部屋を探し始めた。

どこの部屋がフィーナの部屋なのか聞きに行くことは可能だったのだが、朝食の準備をすると言っていた為、邪魔をしては悪い、と自分で探すことにしたのだった。

ソルファが着ている服は昨夜門の前で倒れていた時の物と同じだ。雨で揺れていたはずなのに一晩ですっかり乾ききっている。風属性の神光術で乾かしたのだろう。その服は上下ともに黒く、白いラインの入った軍服のようなものだ。何故自分がこんな服を着ていたのかは記憶を失っているソルファにはわからない。

剣は自分のものという記憶が無いのに不思議としっくりきた。その重さもとても心地よい。ただ、何か足りない気がするのだが。

そんなことを考えながらソルファは自分がいた部屋の隣の部屋の扉へ着いた。考え事をしていたからだろうか、隣の部屋なのに少し遠く感じた。

人がいてもいなくてもしっかりとノックはする。コンコン。

そしてゆっくりと扉を開ける。


「失礼します」


入った部屋には誰もいなかった。それどころか物が何一つなかった。人ひとりが使うには少し広すぎるくらいだろう。これから物置部屋に使うのか、それかただ単に空き部屋なのか。


何もなかったためソルファは入った時同様にゆっくりと扉を閉めた。

そして次の部屋へ向かう。廊下を歩いていく。すると、二つ奥の部屋から僅かながら布の擦れるような音が聞こえた。


(あの部屋だな)


そう狙いをつけてソルファはゆっくりと歩いていく。音など一切立てずに。

そして扉の前に着く。一呼吸おいてソルファはノックをする。コンコン。


「は、はい。どうぞ」

「失礼します」


聞こえてきた声は確かに今朝の少女の声だった。許しがでた為ソルファはゆっくりと扉を開けて中へ入った。

中へ入るとフィーナはベッドの上に座っていた。


「今朝は御挨拶が出来なかったので、おはようございます」

「お、おはようございます..」


ソルファはまず挨拶から切り出した。

怖がっているのか、恥ずかしがっているのか、そんな雰囲気を漂わせながらもフィーナは小さな声で返す。


「昨夜はありがとうございました。おかげで俺はあのまま息絶えずに生きています。あなたのおかげです。ありがとうございますフィーナお嬢様」

「いえ、私は人を呼んだだけですから...」

「それがとても助かったのです。ほんとにありがとうございます」


深深と頭を下げて御礼をする。


「あの、なんで私の名前を知っているのですか?」


さっきから疑問だったのだろう。フィーナはさっきよりはしっかり芯を持った声でソルファへ問いかけた。


「それはリルノさんから聞きましたので」

「リルノ....!」


小さな自分にしか聞こえない声でフィーナは半ば怒っているような声で呟いた。


「お嬢様何か仰っいましたか?」

「い、いえ、何も」


フィーナは林檎のように少し顔を赤らめて俯く。


「そうでした。俺はお嬢様が俺と話をしたがっているということでここに来たのですが」

「そ、そうでした。その前に、あなた名前は何と言うのですか」


ソルファもフィーナも互いに忘れていた要件を切り出す。


「俺の名前ですか。俺はソルファ、ソルファ=フォルスと言います。好きなように呼んでもらって構いません」

「ソルファさんですね。よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそよろしくお願いします」

「名前は知っているかもしれませんが改めて、私はフィーナ=トワイライトと言います」


まず互いに簡単な自己紹介から済ます。


「まず一つ目の質問です。ソルファさんは何処から来て、何故門の前に倒れていたのです

か?」


ソルファは記憶を探る。だがやはり白い霧がかかったように思い出すことが出来ない。


「すいません。俺一部の記憶を失ってしまっているみたいで門の前で目を覚ますより前のことがほとんど記憶になくて」

「え!?それは大変です!誰か読んでこないと!」


フィーナはソルファが記憶喪失と聞いて慌てる。それはそうだろう。まだ13歳頃であろう少女が記憶喪失の人にあったことなどないだろうから。


「お嬢様落ち着いて下さい。後でリルノさん達には話すつもりでしたから今は呼ばなくて大丈夫です」

「そ、そうでしたか。すいません取り乱してしまって」

「いえ、無理もありません」


フィーナを宥め落ち着かせる。


「俺はどっちみちここを出ていくつもりですからお嬢様は心配しなくて大丈夫ですよ」


フィーナを心配させないためにそう言うが、


「ここを出た後どこへ行くか決まっていないのですよね?そんな人を放っておけるはずないじゃないですか」

「お嬢様は優しいのですね。でもお嬢様の御迷惑になる訳にはいきませんから」


ほんとに優しいのだろう。心(しん)のこもった声でフィーナは言う。が、ソルファは迷惑になる訳にはいかないと出ていこうとする。


「そこまでいくのでしたら少しの間だけでもこの家にいてくれませんか?ソルファさんのこの先のお手伝いもしたいですし」

「お心遣いはとても有難いのですが、やっぱり迷惑になる訳には、」

「だったらソルファさんを助けた私からのお願いということならどうですか?」


フィーナはいいことを思いついた子供のような笑みでソルファへ言う。流石にこの笑顔にはソルファは勝てず、


「そこまで言うのでしたらわかりました。ここで数日は居ることにします」

「ほんとですか?よかったです」


フィーナは何故か安堵の表情で、胸撫で下ろすような仕草をした。


「しかし、俺の性格上何かしない訳にはいかないので、ここで何か俺に適した仕事はないですか?」


これだけは引けないとソルファは何かすることはないかとフィーナへ訊く。

少し考えるようにして手を顎につく。


「じゃあ朝食のときリルノ達に聞いてみることにしますね」

「ありがとうございます。ではそろそろ朝食もできる頃合でしょうし行きましょうか」


ソルファはフィーナへ手を差し出す。

フィーナは見ただけではわからないぐらいに少し顔を赤らめ、数秒置いてソルファの手を取り立つ。


「ありがとうございます。では朝食に向かいましょうか」


そうして、二人はフィーナを先頭に部屋を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

わがままお嬢様の夢幻従者(トゥテラリィ) @kamikisora1218

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ