第4話
1章―3 慌ただしい目覚め
朝。
カーテンの隙間から少しばかり差し込む陽光。季節は春。暦は4の月。時間は6の時。そのため外はもう明るい。小鳥の囀りでも聞こえてきそうな気持ちの良い朝だ。
ソルファはベッドの上で目を覚ました。昨夜とは違い、怪我はもうすっかり治っている。ゆっくりと身体を起き上がらせる。ソルファは寝相がとても良いため寝癖など1本も立っていない。左側を見るとフィーナが目を閉じ、気持ちよさそうにして寝ている。気になったのはフィーナがソルファの腕を抱くような形で、掴まれていたことだ。寝顔を見ているとそんなことは不快にも何とも思わなかった。もう6の時。昨日は寝るのが早かったようだからそろそろ起きる時間だろう。前に顔を向けると壁の近くで椅子に座り、姿勢よく寝ているメイド服の少女が視界に入った。
起きたのはいいものの左腕を掴まれているため、ベッドから出るには腕を離してもらわないといけない。ベッドから出てもすることは思いつかないのだが。メイド服の少女に声をかけようと思ったが眠っているため起こすのは躊躇われた。
起きるまで待つか、と考えたそのとき、
「う...ーん......むにゃ...」
左側から声が聞こえた。声の主はフィーナ。フィーナはゆっくりと目を開く。寝惚け眼で周囲を見回す。下を見る。自分の腕の中には他人の腕がある。上を向く。視界には昨夜見た青年が入る。少しずつ意識が覚醒していく中真っ先に覚醒した感情が、
「...ん?...は、は、はわわわぁ////」
驚きと羞恥心だった。
見る見るうちに顔はやかんが火を噴くように真っ赤になる。フィーナは腕をすぐに離した。
可愛い驚き方だな、とソルファは感じた。・・・俺にこんな感情があったのか?そう自問するも答えはない。少なくとも今までこんな感情は抱いたことはない気がする。そんな思考に頭を捻っていると、フィーナが急に立った。ゴンと音がなったと思ったら足を押さえるフィーナ。ソルファがフィーナのことを見ていることに気付くと一目散に扉へ走る。そして扉を開けると馬のように駆けて行った。がその前にしっかりと扉を閉めて駆けて行った。馬というよりポニーの方があっている気もする。そんな慌ただしい状況をソルファは把握できずにいた。こんな経験をしたのは初めてだったからだ。そもそもソルファは子供──自分より下の年齢の人と接する機会など今までなかった。可愛いなと思ったりすることも。そんな自分に驚き、部屋から出ていったフィーナの行動に疑問をもっていた。
「あ、お嬢様!」
今のちょっとした騒動で目を覚ましたのか、メイド服の少女は椅子から立ち上がった。
「あの、お嬢様はどうなさったのですか?」
状況を把握しようとメイド服の少女はソルファへ訊いた。ソルファはフィーナが起きてからの出来事──と言っても30秒もなかったのだが──を話した。
「それで部屋から出ていったということですね」
「はい。あの、俺は何かしたでしょうか?」
出来事は話したもののなぜこうなったのか理解出来ないソルファはわかったような話ぶりのメイド服の少女へ訊いた。
「いえ、あなたは何もしていません。強いて言えばあなたが男性なことでしょうか」
「それってどういう...」
そういった話に疎いソルファは好奇心で更に訊く。
「あなた剣士さんですか?それなら生き方によっては分からないこともたくさんありそうですね。その答えは自分で探してみてください」
「そうですか...」
答えをすぐに得られなかったソルファは少し落ち込んだが、自分で答えを探すことは好きなのですぐに持ち直した。
「それでフィーナお嬢様は」
自然とお嬢様と呼んでいることに自分でも驚いたが違和感はなかった。
「大丈夫ですよ。何も心配はいりません」
ソルファはほっとした。自分が何かしてしまっていなくて良かったと。
「あ、それで今から1階へ降りて朝食の準備をしようと思うのですが、あなたはフィーナお嬢様のお話相手になって頂けませんか?」
「わかりました。どうせそれがフィーナお嬢様のお望みなので後にしようが先にしようが構いませんよ」
「ではお願いしますね。お嬢様はご自分の部屋にいると思います」
「わかりました。では」
とベッドから出て扉の前まで歩き、
「どうぞレディ」
と流れるような動作で扉を開けた。
今までこんなことはしたことはなかったはずだがなぜか身に染み付いたように体が動いた。
「ありがとうございます。紳士的なのですね」
メイド服の少女は一礼すると扉を出ていく。
途中で振り向き、
「そう言えば、きいていなかったのですが、お名前はなんと言うのですか?」
「ソルファ、ソルファ=フォルスともうします」
「ソルファ!」
メイド服の少女は驚いたようにそう呟いた。
咳払い一つすると、
「すいません、取り乱してしまいました。気になさらないでください。ではよろしくお願いしますソルファ様」
「こちらこそよろしくお願いします」
「言い忘れてました。私は、リルノ=ナルヒノと申します」
可憐に一礼すると少女は階段の方へ歩いていった。
ソルファはフィーナの部屋へ向かう。のだが、
(あ、部屋がどこか聞くのを忘れた)
まず部屋を探す所から始めることになった。
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