第3話
1章―2 ベッドの上で再び
(ここはどこだ・・・)
門の前で目覚めたときの同じことを思いながら、ソルファは目覚めた。
今回はふかふかのベッドの上で目覚めた。
羽毛の布団、自分好みの少し固めの枕、これはなかなか...などと物思いにふけていると、ふと時計が目に入り、時間を見る。深夜0時を回った頃か。そんな寝てはいない気がするため、あの少女を見たのは4時間ほど前か。体を見ると上半身は先まで着ていた服ではなく、病人が着るようなほとんど羽織るだけのようなものを身につけていた。
それと同時に、全身の傷が癒えてるのを感じた。こんな短時間でこの傷をここまで治すとは治療術士(ヒーラー)か。と、そんなことを考えながら、手をベッドの左側へ手をつこうとする。が、その先にはふかふかのベッドの感触はなかった。その代わりに熱を感じた。
見るとそこには少女が腕を組むような形で、それを枕がわりに、すぅ、すぅと静かだからこそ聞き取れるほどの小さな呼吸をしながら寝ていた。
ソルファはその少女の手の上に自分の手をのせてしまっていた。その少女にソルファは見覚えがあった。
少女は倒れていたソルファのもとに近づいてきた少女だった。なぜだか懐かしい感覚を覚えたが、気のせいだろうと思考の端へ追いやった。
ソルファは少女がいることに驚きはしたが、すぐに自分のことを心配してくれてのことだと納得した。見ず知らずの男を自宅へ入れて治療術師(ヒーラー)に傷を治させるぐらいだ。思いやりのある優しい子だと。
手をずっとのせていたことに気付き、起こしては悪いとゆっくりと少女から手を離した。そのとき、誰かがソルファの服の袖を掴んだ。もちろん寝ている少女だ。
「兄さん・・・」
少女は哀しそうな、寂しそうなトーンでそう呟いた。寝てはいるようなので寝言のようだ。
ここまでしてもらってこれ以上お世話になるわけにはいかないと思い、出て行こうとしたところでソルファは服の袖を掴まれた。周囲を確認しようと目を離したのだが、すぐに少女へと戻された。
よく見ると少女の髪は宝石のように輝く銀髪だ。月光があたりより一層輝いて見える。瞳の色は目を閉じているため確認出来ない。ふと窓から外を見ると雨は止んでいた。ソルファは空いている右手で自分に掛けられていた布団をそっと少女へ掛けた。
さてどうしたものか。袖から手を離させることは容易だが、少女の寝言を聞いてそんな気にはなれない。
窓とは正反対の壁を見ると鞘に収まった1本の剣が立て掛けられていた。
その剣はソルファの剣。だが、ソルファにはその剣に関する記憶が失われていた。正確には思い出すことが出来ない。いつ、どこで、どういった経緯で手に入れたのか。剣の名前は、その力は、どうやっても濃い霧がかかったように目の前すら見透すことが出来ない。ただ、とても大切な剣ということだけはわかる。それに加え、何か物足りないような気がする。拭いきることが出来ない違和感が。
ソルファはベッドから届くはずのないその剣へ手を伸ばす。剣へ届くことのない手はもちろん何も掴むことはなかった。だが、その手を包み込むような偽りの感覚にソルファは呑まれた。
手を包み込んだそれは偽りでない確かな熱──人の体温のように感じられた。その感覚はすぐに消えてしまった。それは何かをソルファに伝えようとしているようにも感じられた。
伸ばした手をベッドに下ろしたとき部屋の扉が開かれた。
「フィーナお嬢様ここにいらっしゃいますか?」
小声でその言葉を繰り返す17歳ごろと見られる少女が入ってきた。服装はメイド服。この家の使用人のようだ。フィーナというのはこの少女だろう。
その少女はソルファに気付くとゆっくりと近づいてきた。フィーナが眠っていることも見て、それに配慮したからだろう。
「あ、あの、お嬢様は寝ておられるのでしょうか?」
男に慣れていないのだろう、少々怯えた雰囲気があるが、確認の為にメイド服の少女はソルファへ問いかけた。
「ええ、寝ていると思いますよ」
ソルファもフィーナを起こさないように、掴まれたままの左手を動かさないように、声をなるべく小さく、相手に聞こえるように答えた。
「あ、すいません!その、お体の具合はどうでしょうか?」
思い出したように慌てた様子でソルファへメイド服の少女は訊ねた。
「ええ、大丈夫です。治していただきありがとうございます。ましてや治療術師の方に治していただけるとは」
「いえ、お嬢様が決めたことなのでそれは当然です。それと、勘違いされておられる様なのですが、治療術師の方は呼んでおりません。私たちが行ったのは最低限の止血、消毒程度です。貴方の傷が治っているのは私たちが施した結果ではごさいません」
想像していなかった答えが返ってきてソルファは驚いた。治療術師を呼んでいない?止血と消毒程度しか行っていない?そんなことで何故あれほどの大怪我が治ったのか。とりあえずそのことは置いておくことにした。
「そうだったのですか。しかし、止血、消毒だけでも行っていただきありがとうございます。」
ソルファはもう一度言い直しお礼を言った。
「これ以上お世話になるわけにはいかないので俺はこれでもう出ていこうと思うのですが」
怪我が治った今、この家にお世話になることはもうない、とソルファはこの家を後にしようと考えていた。
「そうですか...。」
がっかりという気持ちが見るだけでも伝わってくる姿でメイド服の少女は項垂れた。何故だろうか。
「あの、せめてフィーナ様とお話をされてからではダメでしょうか?お嬢様は貴方と話したがっていらっしゃったので」
ソルファは考えた。これ以上お世話になるわけにはいかないと思う。が、何かしらのお礼がしたいと考えた。
「わかりました。フィーナ様というのはこちらの女の子で間違いありませんよね」
まだ確認をしていなかったためソルファは今更ながら、了承と共に確認をした。
「あ、ありがとうございます。フィーナお嬢様はそちらの方で間違えありません。お嬢様もお喜びになられると思います」
「フィーナお嬢様と話すのは明日の朝の方がいいですよね」
「はい!それでよろしくお願い致します」
こうしてソルファは最低でも明日の朝までこの家にいることになった。
「あ、あと、お嬢様を起こしたくはないのでここで寝させて頂かせてもよろしいですか?」
「もちろん。ここは俺の家ではないので文句はありません」
フィーナと寝ることに動揺を多少したが、ソルファは隣に腕があるだけ、とそれで納得した。
「言い忘れていましたけど私もここにいさせて頂きます。お嬢様の護衛がありますので。布団を持ってきますね」
そう言ってメイド服の少女は部屋から出ていった。
ソルファは 護衛 という言葉に疑問を感じたが、少女が更に1人近くにいるということに多少なりとも動揺を覚えた。
そうして、メイド服の少女が布団を運んできたあと、ソルファはフィーナの邪魔にならないように布団を纏いすぐに目を瞑った。眠気がソルファを襲いすぐに夢の世界へと誘われた。
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