わがままお嬢様の夢幻従者(トゥテラリィ)

@kamikisora1218

第1話

序章 月夜の剣戟



ある満月の夜、その音は聞こえた。

街外れにある大きな森の深くの開けた場所で、鉄と鉄が互いに叩きあい交差する音。剣戟の音だ。

男性で10代後半の青年と思わしき2人は手に持つ剣を交差し合わせていた。

片方の青年は左右に剣を持っている。その刀身は月光でキラリと光っている。

対してもう片方の青年は2mほどもある大剣を持っている。しかも片手で。

双方の瞳が交差する。


「お前は、なんでそんな弱くなっちまったんだよ」

「・・・弱くなってなんか・・・!」


双剣の青年は左右の剣に力を込める。が、大剣の青年はそれを軽々と弾く。


「いや、弱くなっている。前のお前なら俺にこんな簡単に弾かれたりしない」

「ッ・・・」


双剣の青年は後ろに飛び退いた。そして、口を引き締め、疾風の如き疾さで大剣の青年へ迫った。

だがこれも容易く受け止められる。


「この疾さもだ。前より格段に遅くなっている。お前も気づいているはずだ」

「くっ・・・!」


一瞬歯を食い縛り、双剣の青年は左右の剣で怒涛の攻撃を繰り出す。だが、これさえ簡単に弾かれる。


「剣も一撃一撃が軽くなりすぎている」

「そんなことは・・・・・・」


双剣の青年は一歩後ろへ遠のく。


「次はこっちから行かせてもらう!」


大剣の青年が双剣の青年よりは遅いが勢いが桁違いの突進を放った。


「そんな簡単にはやられない!」


双剣の青年は右手を前に突き出した。突如その手に焔が現れた。


「その炎は我を護り 草木を焼き尽くす 【炎壁(フレア・ウォール)】!」


双剣の青年がそう言い放つと手の焔が瞬く間に形を取り、焔の壁を作り出した。

暗闇の中【炎壁(フレア・ウォール)】の焔が辺りを照らす。その熱は摂氏200度を超える。しかし、大剣の青年はその壁へ突進して行く。5mの距離まで近づいたところで大剣の青年も言い放った。


「水のベールは我が身を包み 炎を弾く【水装(アクア・ベール)】!」


突如宙に現れた水は重力に逆らい、まさしく一瞬で、極限まで薄くなり大剣の青年を包み込んだ。

そのまま大剣の青年は炎の壁へ突進する。炎を蒸発させるはずの水──そもそも摂氏200度の炎なんて蒸発出来ないだろうが──は炎を弾く。そうして、大剣の青年は壁を突っ切り双剣の青年の前へ現れた。


「こんな炎生温い!」


そして、力一杯込めた大剣を繰り出す。

だが、こうなることを予測していたのだろう、双剣の青年は落ち着いて左右の剣を交差させ大剣の重みを2つの剣で受け止めた。

キィィィンと剣と剣の弾き合う音が暗闇の森の中に鳴り響いた。


「流石に少しはやるようだな」


大剣の青年は賞賛の言葉を双剣の青年へかける。


「まだだ!」


そう言って双剣の青年が再び大剣の青年へ迫ろうとしたその時、森の奥から高さ3m、全長は6mはあるであろう猪のような形をとる、生物を喰らい、大地を破壊し、人類を滅ぼす獣──魔獣が現れた。


「な、魔獣だと!何故こんなところにいるんだ!」


大剣の青年は魔獣の姿を見るとすぐに魔獣から遠のいた。


「ちっ、あれはクラスB相当の化け物だな。だが街外れの森に何故。少し深くだからと言ってここは圏内のはずだ」


双剣の青年は剣を構え直すと舌打ちしながらそう言った。

大剣の青年は魔獣を少し観察すると1秒ほど俯き、双剣の青年へ言った。


「あれは今のお前の手に負える相手じゃねぇ。お前は逃げろ」

「ふざけんな!クラスBくらいこれまで幾度となく殺ってきただろ!俺も一緒に戦う!!」


双剣の青年は叫ぶように大剣の青年へ言った。


「聞こえなかったのか!俺は今のお前、、、、って言ったんだよ。あれは俺ひとりでやる」

「ッ・・・・・・」


認めざるを得ないと判断したのだろう双剣の青年は歯を食い縛り俯いた。


「そしてお前はひとつ間違えている。あれはクラスBじゃない、クラスS相当だ」

「なっ!あれがクラスSだと!?だってあれは」


信じられないといった表情で双剣の青年はじっとして動かない魔獣を見つめた。


「ああ、お前より索敵系統の術が得意な俺がそう判断した、間違えではないだろう。しかしあの身体のどこからクラスSの力が...」


その時、遂にじっとしていた猪の姿の魔獣がいきなり突進を放った。


「なっ!あいつの周囲の魔素(まっそ)の量はなんだ!?あれはこんな小ささの奴が操れる魔素の量じゃない!」


これがクラスSの理由とばかりの魔素の量。

その大量の魔素と突進が大地を裂き、森の木々を蹂躙し、壊滅させる。その規模は人の知り得るレベルではない。これこそが、人類が恐れ、人類を滅ぼそうとする魔獣の力。


「やるしかない!」


双剣の青年は魔獣へ特攻する。


「やめろ!今のお前じゃ壊滅は無理だ!」

大剣の青年は叫ぶが大地を裂き蹂躙する魔獣によってその声は双剣の青年には届かない。


「はぁぁぁぁあ!!!!!!」


神速で魔獣へ迫る。が、周囲の大量の魔素が双剣の青年を囲んだ。

魔素は禍々しい気配を漂わせる。突如変形し、闇より深い混沌を想像させる色の刃に変わる。

100を超える魔素の刃が双剣の青年を襲った。

青年は目には捉えきれない速さの剣で刃を切り裂く。が、切りきれなかった刃は青年の身体を裂く。


「がはっっっ!!!!」


青年は全身を切り裂かれ、口からは大量の血が飛び散った。

血を全身から流しながら双剣の青年はその場に倒れた。


「ちっ!この際仕方ない。未完成だがお前を救うにはこれしかない!」


大剣の青年は双剣の青年が倒れたのを見て、高速で唱え始めた。


「我は空間の支配者 距離を無へ変換する者 我命ずれば空(くう)を切り裂く 疾さを与えん【空間疾裂(ステイアム・ゲイル)】!」


すると双剣の青年を風が包み込み、その瞬間その姿は消えた。


「っ...、一応成功したようだな。未完成だからどこへ行くか分からないがあいつなら何とかなるだろう」


ひとまずは安心だ。

双剣の青年を逃がすことに成功したのだ。


「ッ...。しかし、この術、流石にまだ負担が...大きい...な。改良が必要だ」


ひとりで呟いていると魔獣が完全に滅ぼそうとした双剣の青年がいなくなったことに一歩遅れて気づいた。そして大剣の青年の方へ巨体を向けた。


「もう少し休ませて欲しかったが、そんな暇はないか。じゃあお望み通り相手をしてやろう!」


大剣の青年と魔獣は互いに神素、魔素を纏い、勢い任せに突進する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る