第51話

■エピローグ

 風を感じる。冬の潮風。

 夜の黒い海から運ばれてくるそれは、人の身体を凍えさせるのかもしれない。

 しかしそんなもの、死体となった男には無関係だろう。

 暗闇の港に佇むのは、物言わぬ標的の死体と、物言わぬ殺し屋だけ。

 標的は――ここで殺されるだけの意味があったのだろうか。

 それを意味のある死だと思うのだろうか。

 真っ当な死を迎えたと、思うのだろうか。

 殺し屋は携帯電話を取り出すと、その場から離れながら電話を掛け始めた。

「依頼は完遂した。損傷は最小限に留めている」

 それだけを告げて通話を終える。

 殺し屋は考える。考えなくてもいいことを。ゆっくりと死体から離れながら。

 自分は真っ当に死んだのか、それとも惨めに生きているのか、と。

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殺し屋 鈴代なずな @suzushiro_nazuna

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