面白かったです。
群像劇として、それぞれの人生を描きながらも、潜む闇が最後まで読者を不穏な空気に包みこませます。他の方も書いてらっしゃいましたが、一度読み始めると、晴れだったはずの天気が、曇りになり、霧になり、そして濃霧になり嵐になりと、いつのまにか読者を迷宮の中に連れ込んでしまうのです。その迷宮の先に何が待っているのか、切り裂きジャックは存在しているのかが読み手を楽しませてくれると思います。
私の認識では、答えはそのまま提示してあるということです。
読んでいて思ったのは、男性の心理描写が上手いという点。絵を描くのもそうですけど、男性って難しいですよね? 私の中で、女性は心を表に出して、男性は心を裏に隠すという印象があります。だからこそ、歌野さんの作品に登場する男性たちは影があって魅力的なのかもしれません。
何をもって、切り裂きジャックとするか。誰をもって切り裂きジャックとするか。どこまでを切り裂きジャックとするのか、非常に楽しめた作品でした。感謝。
タイトルにも入っている、切り裂きジャックの事を全く知らないという人は、そう多くはないだろう。
しかし、彼(彼女という可能性もない事はないが、ここでは彼と呼ばせてもらう)の事を本当に知っている人がいるのかと問われると、答えはノーだ。
何故なら彼は、捕まっていないのだから。
本作はそんな切り裂きジャックをテーマにしているが、この作品自体が彼のように、のらりくらりと読者という探偵(もしくは警察)の目を掻い潜るかのような構造を取っている。
読んでいると分かるだろうが、それは過去と今、今と未来、未来と過去を縦横無尽に駆け回りながら、それでいて全てを絡めていく。
そして最後にその絡まった糸をパッと切り裂く。
読者は解答という糸を手繰り寄せる前に、その解答を切り離されてしまうのだ。
このレビューだけを読んでもなにがなんだか分からないかもしれない。
しかし、本作を読んでみた後なら分かるはずだ。
本作は現実に起きた切り裂きジャックの事件と同様に多くの謎を残している。
本当のミステリーとは、多くの謎を解決する事だけではなく、その先にある解答という道筋をいくつも想像し、その可能性を一つ一つ調べていくところにも楽しみがあるのではないかと私は思う。
もうタイトル通りですね。上手い言葉が見つかりません。でも、何か言えるとしたら……半端ねぇっす。いやもう、書籍読んでるんじゃない?って思えるぐらい読みごたえ抜群でした。
物語は一人の視点ではなく、各章で別の人物視点で描かれていきます。ただ、普通そういう形を取った場合、別人でありながらも同じような心情、描写が続き、別々であっても全体が単的になりがちかと思います。
しかし、本作ではそれがないんです。各人物の立ち位置をしっかり押さえながら、その人物の心情を如実に描き、それぞれまったく違う雰囲気を味わえるんです。まったくですよ?短編集ならともかく、一つの事件を扱った長編でここまでのクオリティは中々お目にかかれないかと思います。
ちょっと僕自身言葉足らずで伝わらないかもですが、ともかく最高のミステリーです。読めば分かるかと思います。是非読んでください。
タイトルにふさわしい、厳粛な空気。
その中で蠢く群像劇。
舞台は、日本の地図上のほぼ真ん中の岐阜県。
穏やかな風景で、切り裂きジャックを彷彿とさせる事件発生します。
まずは、
地方ニュースと評論家から始まる物語。
スポットが当たる人々、時間軸は、章が進むと
切り裂きジャックの気配を遠くで、近くで感じながら
バトンが渡るような展開は、息を思わずひそめてしまいます。
ヨム側も、
正体不明の、切り裂きジャックに気取られないようにと、
自然に身構えてしまうほどです。
接点が人を繋ぎ、この人物が、こんな所に関わるとは!?
作者様の仕掛けに、翻弄されるのが、とても楽しい作品です。
切り裂きジャックの正体は。
人の繋がりが、波紋となってもたらす、
事件の確信を、是非とも辿ってみませんか?
最後になってしまいましたが、
歌野様。
今回も、手に汗握る素晴らしい群像劇を届けて下さって、
ありがとうございます。
歌野様のおかげで、苦手だったミステリーを手に取れるようになりました。
重ねて、ありがとうございました。
街を襲う連続殺人事件、それはまさしく「現代の切り裂きジャック」。
実在したイギリスの凶悪犯「切り裂きジャック」からインスパイアを受けた推理小説は、枚挙にいとまがありません。
そんな「メジャーなタイトル」にあえて挑戦した筆者の志をまず讃えたいです。そして、単なる猟奇殺人事件にとどまらない、巧緻な人間ドラマの数々にも没入しましょう。
章ごとに物語を区切った、連作短編のような構成が素敵なのです。
猟奇モノ・連続殺人モノは大抵、どうしても犯人像の追求を第一優先にしてしまいがちです。被害者が多すぎるので、一人一人にはスポットが当たりにくいのです。
……が。
本作は何よりも、被害者たちの「人生」を切り取ることに腐心しています。
彼氏と彼女。
上司と部下。
患者と医者。
彼らの私生活を事細かく描写し、ともすれば純文学めいたメロドラマや社会風刺を綴っています。
犯人像を追うサスペンスよりも、被害者の奪われた人生に主眼を置いている点が、面白いなと感じました。
その中から、徐々に浮かび上がって来る点と線。ミッシングリンク。
被害者たちの人間ドラマから、あぶり出した文字のようにジワジワと切り裂きジャックへ迫るヒントがにじみ出て来る……ああ、こういうアプローチの仕方もあるんだな。
いや、え、なんでこの人、こんな所でアマチュアやってるんですか!?
そこら辺のプロ推理作家より面白いんですけど!?
筆者は別作品で「カクヨム公式ピックアップ」された筆力の持ち主です。
ジャンル的には『社会派ミステリー』でしょう。リアルな人間たちの猟奇世界を堪能してみませんか!