主人公は中学生、ヒロインは大学院生。
小さな想いと思慕の念とのベクトルは、それぞれが別のほうを向いていて……。
こう表現すると、この物語は恋愛小説で……。ヒロインが気になる主人公は、少年と呼ばれることを厭いながらも躍起になって……。でも、がんばる姿は甘酸っぱい。
ギガヘルツ、振動数は時間を表し、同時に距離の説明にも使われる。
これだと、しっかりとしたSF作品なのである。時間と距離の概念を捉えるのは、少し難しいかもしれないけど……。
でも、SFとして読むのもおもしろい……。
そんな時、ヒロインが実験中の教室から忽然と消えてしまう。
このヒロインを主人公は、どのように救出するのか? そして、その後のちょっと先には、なにが待っているのだろうか?
やはり、この物語はSFの要素が散りばめられた、恋愛小説なのだろう。
皆さまが、手を伸ばしたちょっと先に見つける感情は、どんなモノだろうか?
少年と大学院生の静華さん、そして少年の父親である准教授が織りなす淡い恋模様を描いた短編。
父親の研究室を訪れた少年は、「15センチは何秒か知ってる?」と問いかける不思議なお姉さん「静華さん」に出会う。
いきなり特殊相対性理論の話をもちかけられ戸惑うが、少年はそんな彼女に――大人で知的な彼女に――惹かれてしまう。
本を読み勉強し、少しでも彼女に追いつこうとする少年。
しかし静華さんが見詰めるのは別の人。
少年の父親、研究室の准教授。
いつだって走り続け、ひたすらに15cm先――1クロック先――を目指す彼に憧れ、自らもまた走り続ける静華さん。
少年も彼女に追いつこうと走り出すが、ある時静華さんは、本当に1クロック先へ進んでしまう。
緻密な知識に裏付けされた前半は、煙に巻くかのような専門用語の連続です。
しかし、その奥に見え隠れするのは静華さんのひたむきさと恋心。
研究への思いは准教授への想いに繋がっており、時折それが顔を出します。
理系らしくさばさばした、けれど冷めていない静華さんの様子は姉萌えな人にはたまらないんじゃないでしょうか。
少年の素直さも相まって、読者をやきもきさせっぱなしです。
けれど、本作は単なるラブストーリーではありません。
後半にはSFらしく「距離」と「時間」の絡んだ仕掛けが現れます。
この仕掛けと解決方法が、15cmという距離を印象付け、最後の二人の関係性を鮮やかに彩るのです。
地に足ついたむずがゆい恋模様から、常識を一足跳びにジャンプするようなアクロバットな短編です。
SFが好きな方もぜひ!!