幸せな未来
「お前ってさあ。もうすぐ結婚だろ」
「っ、だから、何よ……」
彼の突然の質問に私はモゴモゴと答える。
知らぬ相手との幸せな結婚生活。それはもうすぐ……。
それが嫌だから私は……。
「ちなみにだが、俺も、もうすぐ結婚する」
その言葉に私の心臓は嫌な音をたてて大暴れした。
そんなの聞きたくない。聞きたくないのに……。
「っておい! そんな顔すんなよ。チュウしたくなるだろ」
「なっ」
真面目な話じゃなかったのかと、私は、若干の怒りを感じた。
「いやいや。冗談だって。怒んなよ」
「じょ、冗談て……」
「お、何? 本当はして欲しかった? チュウ」
「ば、ばか! 何で私があんたと、その……、そんなの、し、しなきゃいけないのよ!」
恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じる。もう心臓もさっきから壊れそうになるくらい動き回って苦しい。
私はさっきからじっとしているだけなのに、まるで、持久走を走り終えたのかと思うくらい、体は疲弊し始めていた。
そんな私とは対称的に余裕ありげににやつく、目の前の彼。
そんな彼がなんか憎くて、でも、かっこよくて……。
「そりゃチュウ位するだろ。だって俺達、もうすぐ夫婦だしな」
また、私の心臓が大きく音をたてた。
「ふ、ふざけないでよ! そんな、そんなわけ……」
「はあ、ふざけてねーし。てか、俺いつでも真面目~」
「で、でも、そんな、そんなの……」
日本の人口だけでもかなりの人数がいて、私と目の前の彼が夫婦になれる確率なんて、ほとんどゼロだと言っても良いくらいなのに……。
私が疑問に顔を歪ませていると、彼は笑顔で答える。
「自由結婚禁止法で、俺達国民は自由に結婚することは出来ない。でも、国の出すノルマって言うのか? それを、こなせるのなら国が好きな相手との結婚を認めてくれるって特例、お前も知ってるだろ?」
「そりゃ、知ってる。知ってるけど……」
おどけた様子で重大な事を言う彼に、私は次の言葉を繋げる事ができない。
自由結婚するための条件はとても厳しい……。
子供は三人以上、生んで育てる必要があり、それに対する最低限の保証は国がしてくれるけれど、子宝支援制度の様な子育てをしていく上で必要な支援は満足に受けることが出来ない。
それに加え月々に一定の金額を国に納める事となる。
他にも細々とした規約はあるけれど、主なものはその二つ。
愛する相手と結ばれる。それは、過酷な茨の道。
もしもノルマをこなせないなら、国から強制的に別居をさせられる。
そしてそれぞれに義務を課し、それをこなせなければ、もう、お互いに会うことは許されない。
「俺は、お前と結婚したい。お前が一緒に居てくれるなら、俺は何でも頑張れる。後はお前の返事次第だ」
いつにもまして真剣な、彼の視線が私に刺さる。
私は、ゴクンと息を飲む。
「わ、私は……」
「ああ」
「……結婚」
彼は静かに私を見つめる。
「し、してあげても良いわよ。あんたが、そこまで言うなら、私、あんたと結婚してあげても……」
「お! マジで」
「っ! し、仕方なくよ。なんか、ここで断ったらあんたが、可哀想だし」
「ははっ。何だよその言いぐさ。可愛くねー。まぁでも、いいや。おーけーしてくれんなら何でもな」
最後まで素直じゃない。可愛くない私。
でも、そんな、私の返事に満面の笑顔で歓びの言葉をくれる彼。
私のこの性格は、死ぬまで変わらないと思うけど、私は、貴方と一緒にいたい。
生きているその限り、私は、貴方を愛し、そして支え続けます。
愛しています。
「じゃあ家まで送らせて頂きますよ。姫様」
「っ! ふん。しょうがないから一緒に帰ってあげるわ」
この日から少し。
とある教会で、一組の新たな夫婦が生まれた。
天国 ぽぽい @kirohi
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