結婚 take2

 独身者の増加、結婚の晩年化……。

 それらの要因により、年々深刻化する少子高齢化の煽りをうけた日本。

 それを重く見た政府は、自由結婚禁止法を可決した。

 この法律は、コンピューターの弾き出したランダムな相手と結婚させる法律である。

 これにより、未婚の男女割合は、ほぼゼロとなった。

 そして、大きな問題となっていた、少子化。

 此方も子宝支援制度により、近年回復の兆しを見せはじめていた。

 施行されてすぐの頃は、反発もかなりのものであった自由結婚禁止法。

 しかし、結果が大きく表れる程にそれも減り、今となっては反対意見もあまり見かけない。

 むしろ、この法律により幸せな家庭が多く作られているのも、追い風の一つとなっているのだろう。

 時間はいたずらに過ぎていく。

 気づけば私も法的に結婚する年齢となっていた。

 私は、来週結婚する。

 私の両親もこの法律に従い結婚している。そして、今も幸せそうに二人で過ごしている。

 私も諦めて受け入れれば、多分幸せになれるだろう。

 相手の方もきっと私の事を大切にしてくれる人。少なくとも、何かしらの問題を抱えた人を、国が進めてくることはない。

 それに、万が一何かしらの問題があっても、その時は国が全面的にサポートしてくれる。

 何も恐れる必要は無い。それでも、どうしても……。

 私は、来週の結婚が嫌だった。

 なぜなら、私には好きな相手がいるからだ。

 時間は止まらない。嫌悪しそうな程、ただ真っ直ぐに流れていく。

 私は、どうすれば良いのだろう。

 私の片想いの相手、幼なじみの彼も今だ独身。しかし、法律の元、私と時を同じくして、彼もまた既婚者となる。

 私に出来ること。そんな事は決まっている。

 ただ、来週の結婚を受け入れれば良いだけだと。

 そうすればきっと幸せな未来を築く事ができる。

 それに、いくら私が望んでも、現実は何も変わらない。

 それでも……。好きな相手と結婚したい。

 愚かにも、私はそう思ってしまう。

 たとえ、そう思うことが罪なのだとしても……。

 彼もきっと、私の知らない彼女と共に、幸せな未来を歩むのだろう。

 でも、その姿を私は、笑顔で見れるのだろうか……?

 私は、自分の相手を大切にできるだろうか……?

 この想いを思い出に変えられるだろうか……?

 次々と送られてくる、親戚や友人達からの御祝いの言葉達。

 その中に彼の言葉はまだ無い。

 私は決めた。

 彼からの御祝い。そんな言葉、私は欲しくない。

 そして、私が彼に御祝いの言葉を送る。そんなのは嫌だ。

 約束された幸福。それよりも、私が欲しいのは……。


「お父さん。お母さん。ごめっ……」


 とある廃ビルの屋上。私は、そこから身を投げようとした。

 でも、それはできなかった。

 何故なら、何者かに突然後ろから羽交い締めにされ、飛び下りる事が出来なかったから。

 でも、私は、それに対して、あまり恐怖を感じなかった。

 だって、私を包むこの香りは……。いつも、彼がつけている……。


「ふぅ……。間に合った~」


 気の抜けた調子の聞きなれた声。

 私は、振りかえる。そこに居たのは……。


「全く、お前は……。アホなんだから、余計なこと考えんなって、俺いつも言ってんだろ」


 辛辣な言葉。だけどそんな言葉すらも私は、嬉しく思う。

 だってそこには、私の大好きな幼馴染みの姿があったから。


「あ、アホって何よ。あんたの方がよっぽど頭悪かったじゃない。私、あんたよりも、ずっと成績良かったし、いつも課題とか宿題とか教えてあげてたし……」


 本当は彼に甘えた事も言いたいし、もっと可愛く対応できたら良いなと思う。

 でも、何だか気恥ずかしくて……。

 彼の前ではいつも私は可愛くない。そんな自分が私は嫌い……。


「はあ? お前、何言ってんの? 一体、誰が、いつ、お勉強の話をしたんだよ?」


 お前、やっぱりアホだろ、と彼は私をばかにしたように笑う。そして私が反論するよりも先に彼は言葉を続けた。


「お前、勉強は出来るけど他の事からきしだよな~。まっ、お前のそういうとこも、俺は好きなんだけどな」

「す、好き……」


 現金な私。彼が私に伝えてくれる、真っ直ぐな言葉。それに私は、心を奪われ、言葉を失ってしまう。


「まあ、あれだ。こんなとこでしょうもないことしようとすんじゃねーよ。お前は、何も気にせず、のほほんと生きてりゃ良いの」

「っ! な、何よ。え、偉そうな、こと……。言わないでよ……」


 視界が涙でボヤける。

 可愛いげも無く、突然泣きだす面倒な女。

 涙で崩れた醜い顔を見られたくなくて、私は、顔を下げようとした。


「こら。顔を下げんな」


 彼は私の顎に指をそえると、優しく、それでいて力強く私の顔を上げさせた。


「ちょっと、離してよ」

「やだね」


 子供みたいに言う彼が何だか可愛く見える私は、もう重症なのだろう。


「これから大事な話をすんだよ。だから、しっかり俺の目を見て聞けよ」


 そう言うなり、彼の目は先程までのチャラけたようなものでは無くて、真剣な色をつけて私を見据えていた。

 ドキリと私の胸が暴れた。

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