第11話 最終話・ 少女っていう属性を最大限に有効活用するにはわたしはもう大人になりつつあるけれども、少年と呼べる彼の方はまだまだ頑張ってほしいな、ほんとに

「あー、おいしかったー‼︎」

「まあ、否定はしないよ」


とりっこを出た後、アーケードを元の方向に戻っていく。地方の悲しさ、目抜き通りのはずなのに絶望的に人がいない。


「またまたセエト。素直になってよ」

「や、喫茶店でラーメンていうのにもまあ驚いたけれども、そもそもメインはとり鍋で、そのダシを使った裏メニューだっていうのに再度びっくりだよ」

「でもいいでしょ。そういう意表のつき方」

「うーん・・・まあ嫌いじゃないよ」

「ところでさ」

「うん」

「セエトはわたしのどこがいいの?」

「顔」

「身もふたもないなあ」

「でも嬉しいでしょ。顔が好きって言われて」

「微妙だよ」

「どうして」

「だって、わたし可愛くもなく美人でもないでしょ」

「またまた。そんなこと言ったら僕の美的感覚がズレてるってことになるじゃない」

「いや、色んな意味で事実ズレてるでしょ」

「まあ否定はしないけど、ミスミの顔がきれいっていうのは客観的な事実だと思うよ」

「えい‼︎」

「うわ‼︎」


わたしは思い切りハイキックをしてみた。


「何すんの⁈」


ただし、ハイキックのつもりがセエトの腰あたりにしか届かず、彼の脇腹をどすっ、と打撃するにとどまった。


「ごめんごめん。つい愛情表現で」

「なんで蹴るのが愛情表現なの⁈」


かわいいなあ、セエトは。ますますいじめたくなる。


「やっ‼︎」


今度は右ストレートを繰り出してみた。

スウェーでよけるセエト。


「うわ、セエトすごい。高等テクニックじゃん‼︎」

「ボクシングやってるからね」

「嘘⁈」

「ほんとほんと。駅北のジムに週3で通ってるから」

「知らなかった。一体いつそんな時間があったのよ」

「だって、図書館で別れた後だって一日が終わるまでは何時間もあるでしょ」

「ボクサーになりたいの?」

「いや」

「じゃあ、何をどうしたいの」

「ミスミが暴漢に襲われた時に助けて付き合い始める」

「はあ?」

「あの・・・真面目にそんなこと妄想してボクシング始めた、っていったらキモい?」

「・・・キモい」

「・・・そっか・・・ダメか」

「キモいから、こうするよ」


わたしはヘッドバッドのモーションをとり、セエトの鼻っ柱をおでこをで狙う。

ほんとにボクシングやってるだけあってわたしの攻撃にも目を閉じない。彼が黒目の大きい目をぱっちり開けたままでいる所に急激に顔面を15センチメートルぐらい上にずらし、彼の鼻をかぷっと前歯で軽く噛んでみる。


「・・・‼︎」


そのまま次の攻撃。わたしの鼻の頭をセエトの鼻の頭につんつん、とくっつける。


「なに」


無理してそっけなく訊くセエトにこう答える。


「愛情表現」


セエトはこう反応する。


「どこが」


わたしはこう切り返す。


「でも、よけなかったじゃない。受け止めた、って理解でいいよね?」

「・・・うん」

「嬉しかった?」

「・・・はい」


ふふっ、とわたしは笑う。

色々と悩ましい出来事は日々ありありだし、将来展望もかなりリアルで具体的な年頃になってきたわたしだけれども、2つ年下のセエトといると自分もややモラトリアムってる感じになり、ちょっといいな。


「ほら」

「う」


わたしはやや強引にセエトの手を握った。

そのままアーケードを2人してとぼとぼ歩く。


実は、体育等の義務以外で主体的に男の子と手を繋ぐのは人生初だったりする。






おしまい





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15 centimeter 少女・少年 naka-motoo @naka-motoo

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