終章
茹だるような日光ぎらつく真夏の昼下がり。恢とレミリアはレミィの元へと、遊びにでかけた。三人仲良く、ティータイムである。
「やっぱり、学校には通わせるべきだと思う。同年代の子ともっと、触れあうべきだ」
ブラックのアイスコーヒーを啜りつつ、大真面目な口調で語る恢。まるで、娘の将来を危惧する父親のようである。
「え~。私、恢の奥さんだし、家で家事をしていた方がいいわ。学校の勉強なんて、社会に出たら何も役には立たないのよ?」
夏蜜柑を凍らせてクラッシュしたスムージーをストローで啜りつつ、世の中の真理とばかりに語るレミリア。反抗期の娘を通り過ぎて、嫁にいく一歩手前だ。
「いっそのこと、魔法学校に行きましょう。魔人だって差別されないし、私コネなら沢山あるわ」
レモンを飾ったアイスティーを啜りつつ、妙案とばかりに語るレミィ。面倒見が良い近所のお姉さんのような雰囲気だ。
「それよりも恢。プールにはいつ行くの? 海は? 旅行は? 私、今日は絶対に水着を買うからね」
子供とは躊躇なく、自覚なしで大人の時間を凍らせるのが得意だ。恢が盛大にむせ、珈琲臭い息で何度も咳き込む。そんな男へと冷たい視線を向けるのは当然、レミィだ。
「旅行? 水着持った未成年と成人男性が旅行? うわ。もう犯罪臭しかしないわね」
「待て、誤解だ、誤解。俺は別に、レミリアちゃんの水着が見たいとかそんな――」
――神様は、気まぐれで何度でも人を試す。それはもう、殺意さえ覚えるほどに人間を嘲笑う。
「恢って〝大きなおっぱい〟が好きだもんね。私の水着じゃ、ちょっと物足りないでしょう」
疑問ではなく、断定だった。恢の胃が、万力で締められたかのようにキューっと悲鳴を上げた。レミリアの瞳はキラキラと輝いている。それが世界の真理だと、信じている目だった。
「そうねー。こいつ、大きな胸が好きな変態だから」
レミィが半月に切られたレモンを口に咥えながら恢へと、呪いが込められた視線を向ける。女が二で男が一の話し合いなら、いつだって負けるのは男の方だ。
「安心して。私、すぐに大きくなるから!」
レミィが、畜生道に落ちた犬の糞でも見るような目で恢を睨みつけていた。ややあって、壮大な決意を固めたかのように、携帯電話を手に取った。
「『
「おい、それ本気で止めろよ。あいつら、人間止めた化け物だぞ。十日十晩、飲まず食わず寝ずで俺が戦ったの、レミィだって知ってるだろうが」
「だからこそ、でしょう? 母親に殺されかけたからって、趣味が、歳が倍も離れた女の子になるなんて違法よ、違法。なんなら、今直ぐ警察でも呼ぼうかしら?」
冗談抜きで、レミィが恢を侮蔑する。たった数週間で、恢の評価は地へと落ちた。少なくとも、魔女にとっては〝真正のロリコン野郎〟へと成り下がってしまった。そして、元凶であるレミリアだけが〝無実〟だった。
「ねえ、恢。旅行は諦めてもいいけど、プールは絶対よ。ね、ね?」
潤んだ瞳でせがまれれば、いいえとは言えないのが恢だった。男は、たまらず煙草に逃げようとしてアークロイヤルの錨がポケットから見えない現実に項垂れる。これで、禁煙生活三週間目だった。
「……我慢できるかなー」
ぽつりと呟いた。それが、間違いだった。
「自分の忍耐力もっと信じなさいよ! 何? もう、レミリアちゃん襲いたいの? ベッドの上でいただきたいの? 俺のリリスになって悪魔を鎮めてくれとか言いたいの? 私、恢レベルの悪魔憑きなら、五十年は余裕で封印出来るわよ」
「そんな、恢がもう性欲で一杯だなんて。せめて、最初はホテルがいいわ。うん、大丈夫。恢は荒々しいけど、優しくしてくれるって知ってるもの」
「うん。二人とも、俺の話をちゃんと聞こうな」
言葉という弾丸を使うのは、やっぱり男よりも女の方が得意だなーと思う恢だった。
リリスブレット 砂夜 @asutota-sigure
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