第五章 ◇
外。それも、遮蔽物がなければ、面白いほどに声は遠くまで届く。
レミリアの顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。隣に立つレミィが、ケラケラと楽しそうに笑っている。
「あの子は、俺が必ず護るよ。だから、心配するな。ですって。私も、男にそんな台詞言われてみたいなー」
「ちゃ、茶化さないでください! か、恢は、大袈裟なのよ。もう!」
両腕をブンブンと振るってアピールするレミリア。ただ、魔女の双眸には少しだけ冷たい色が戻った。
「これから、大変よ」
まだ、彼女の物語は始まってすらいないのだ。
「貴女を狙うような輩が、何度でも現れるわ。その度に、恢は傷付く。それでも、いいの?」
子供の背中に乗せるには、あまりにも重すぎる言葉だった。
しかし、レミリアはあっさりと言ったのだ。
「仕方ないでしょう。恢に惚れられたんだから」
魔女の顔から一瞬、表情が抜け落ちる。そして、月が落っこちたように笑うのだ。
「あーははっははははっはははははははっははははははは! そりゃあ、仕方ないわね。どうしようもなく、とんでもなく、とてつもなく、仕方ない。なら、ふふふふ、私は、ただ見守りましょう。ついでに手伝いましょう。楽しみだわ。あなた達が、どんな答えを出すか。それぐらい、見物してもいいでしょう?」
「……レミィって、実は趣味が悪いの?」
「うふふふふ。さあね」
冗談っぽくウィンクするレミィに、レミリアは苦い顔を向けたのだ。その顔は、すぐにぱーっと明るくなる。闇夜の中で紫煙を吹かす馬鹿がいたからだ。
「恢!」
駆け出すレミリアの後ろ姿を、レミィは黙って見守る。この男はきっと、修羅を見る。そして、少女は何度でも問い直される。その度に、二人はどんな答えに行き着くのだろうか。喧嘩するのだろうか。何度でも、仲直りするのだろうか。
「百年ぶりに、お楽しみが増えたって感じね」
呆れたように肩を竦め、レミィはどのタイミングで二人の邪魔をしようかじっくりと観察するのだった。
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