D8 ふわりふわり七色の綿菓子
「そうなんだ。『Dカップ美少女JKひなぎく』は、僕だよ。とても恥ずかしいけど……。でも、ふざけていた訳ではないんだ」
僕は、両手を開いて真実を告げた。
土手をあがったその場で、僕達は座っていた。
「自然とそうなったの?」
茶色の髪がすっかり濡れてしまって、僕は、猫Tをタオルにしてと差し出した。
心さんは、首を横に振り、小さな声で気持ちを伝えてくれた。
「羽衣君の着る物がなくなるわ」
上目使いに潤んでいた。
「うん、かつらと『Dカップ』のブラジャーで変装していた訳ではないんだ」
僕は、恥ずかしさ一杯の顔で、横を向いてしまった。
「変身していたみたいで……。信じられないと思うけど」
心さんはどう思うかな。
「そうなんだ。……変身。苦しくなかった?」
苦しく……。
そんな風に思ってくれるの?
僕の片想いの人は、優しい人でした。
神様、神様、ありがとう……。
「浴衣が濡れちゃって、下駄もなくなっちゃったね。何とかしてくるよ。ここで待っていて」
「きゃっ。浴衣が……」
「僕は、何も見ていないから。大丈夫だからね」
僕は、濡れていない猫Tとジーパンを着て、ポケットの財布を確認すると、綿菓子の夜店の隣にある古着屋で、仔猫Tとジーパンとサンダルを買った。
「大丈夫だよ、心さん。服を買えたから、着替えて。僕は、あっちを見張っているぞ」
気遣いは、必要だな。
「ありがとう……」
何気にペアルックだ。
んー。
僕の見立ても悪くないな。
ふんっ眼服、眼服。
そんな折、又、花火が胸に咲いた。
ドーン、パパパ。
ドン、ドーン。
パパパパパパ……。
僕は、いじめられたり、父さんの暴力で叩かれると、痛くて堪らなくなり、おっぱいが大きくなっていたようだ。
心さんから比べたら、一五センチもトップバストに、差がある。
『Dカップ美少女JKひなぎく』とは、
そんな事を考えながら、藤宮夏祭りの賑わいに心さんを連れて行った。
おうちに帰さないといけない。
綿菓子の夜店で、石和のアニキと弟たちに見つかったが、スルーをした。
父さんの暴力も何でスルーできなかったんだろう。
泣いたり騒いだりすれば、助長される。
スルーをする距離もほんの僅かばかりの一五センチな気がする。
「私は、綿菓子大好きなのよ。さっき、話が途中になっちゃったけどっ」
心さんが、猫Tの裾をつまむ。
「じゃあ、綿菓子買って来るよ。二人分」
僕の吃音は、滑らかな音色になっていた。
「待って、私も一緒に行くわ」
心さんが、僕に信頼を置いてくれた。
腕を組んで、二人の目線が合った。
「あの……。顔、近くない? 心さん」
「一五センチ位よ。きっと。……離れすぎてもいけないでしょう」
今は、目の前の幸せが揺れている。
二つの綿菓子が、ふわりふわりと。
ドンドーン。
パーン。
「今の花火も綺麗な菊の花だね。綿菓子が、七色に見えるよ」
「そうね……。ひなた君」
ドキッ。
ひなた君だって、いやいや、急だよ、心さん。
「心さん……」
心さんが、僕にこくりと茶色の髪を預けた。
こんな未来が待っているのなら、「生きてみよう」と思うよ。
暴力は、悪い事だ。
『羽衣天性! Dカップアップロード』は暫く封印だ。
『Dカップ美少女JKひなぎく』も現れる事もないだろう。
心さんの優しさにも応える為にも。
僕は、二重人格ではない。
「羽衣ひなた」は『Dカップ美少女JKひなぎく』に見え隠れする人格ではない。
たった一人の大切な自分。
「羽衣ひなた」なんだから。
Fin.
Dカップ美少女JKひなぎく~気弱な僕が変態ポニテセーラーに天性し、片想いの櫻庭心さんと……だめだっ いすみ 静江 @uhi_cna
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