セカイ・プログラム

ルポルタ

第1話 この世界

「暑い……」

 

 物凄い既視感を感じながらベッドに横たわりそんなことを口にする。まだ五月の初めの昼前だというのに真夏のような暑さの所為で何もする気が起きない。


 「はぁ……」


 と言いつつ手に持つマイナーだが僕の大好物である四ツ矢サイダーへと目を向ける。

 ……てゆーか空だった。

 


 

 結局、家にある食料も尽きたので近くにあるスーパーに行くことにした。この暑さの中、外に出るのは少し気が引けたがスーパーはクーラーが利いていると信じ、快晴の空の下スーパーへと足を急がせた。

 

 「あ、茶屋町君」


 スーパーのドアをくぐると、残念ながらクーラーはついていなかったが、いかにも最近の女子高生らしい私服姿で髪を頭の後ろで一つにまとめた女の子にそんな言葉を投げかれられた。


 「よう、久々原。昨日ぶり」


 「うん、昨日ぶり」


 そいつは僕の幼馴染である久々原彩香だった。保育園、小中学校と一緒だったがこの三月半ばから中学卒業に際し、別々の高校へと進学したはずだったのだが先日、再会を果たしたのだ。でも相変わらずのしっかりしてんなーこいつ。まぁ一ヵ月半ちょいで変わる訳が無いか。


 「で、何してるの?」


 「イ、イヤー、チョットトモダチトアソボウカナトオモッテ」 


 「友達なんて居ないでしょ、私しか」


 つい意味不明な言い訳をしたら、痛いところを突かれてしまった。まぁ、あながち間違いじゃないし、あちらも同じだろうが。




 「それで、本当は何しに来てたの?」


 カップ麺や冷凍食品をカートに大量に積んだあと(もちろん四ツ矢サイダーも)出入り口付近のフードコートにて。


 「生きる糧を手に入れる為に来たんだよ」


 「うん、そうなんだけど、もっとこうあるじゃない?」


 と言い久々原は詳細を求めるように質問を連ねた。


 「生きる糧を手に入れること以外にスーパーに来る理由があるのか?」


 「い~っぱいあるじゃない。例えば、ちょっと体を冷やしに~とか、可愛い店員さんがいるからちょっと会いに~とか、パック詰めされた魚とにらめっこをしに~とか、お米の入った袋で筋トレをしに~とか、普通にするじゃない?」


 「『普通にするじゃない?』じゃねぇよ、明らかに後半がおかしすぎるだろうがっ!」


 しかも「お米の入った袋で筋トレ」とかアグレッシブにスーパーを楽しみすぎだろっ!


 「いやいや、普通じゃない?」


 「いやいやいやいや、普通じゃないよね?」 


 「まぁいいや、その話は置いといて」


 「置くからには、もちろん後で取ってくるんだろうなぁ?」


 「じゃいいや、捨てよう」 


 「要らなくなったら即廃棄なのかよ……」


 話様に失礼過ぎんだろ……


 「そんなことよりもお前は何で此処にいるんだよ」


 「ん~? 特に理由はないよ。なんとなく誰か居るかな~って」


 「お前も俺のこと言えねーじゃねーか。それに誰か居たとしてもそれは確実に僕じゃないのか?」


 「そういえばそうだったね」


 「お前は、物忘れの激しい後期高齢者か」


 さっきお前が言ったばっかりだろうがっ!




 そんな会話をした後なんだかんだあって久々原が家に来ることになった。旧知の間柄でも、相手は女子なので荷物は全て僕が持つ羽目になり、いくら家が近いからといっても大量の食料を持っての帰宅は中々に骨の折れる仕事で、玄関に着く頃には、汗が顎から滴り落ちアスファルトに染みを作っていた。


 「本当に上がって行っていいの?」


 「何を今更、一昨日、一回上がって行った癖に」


 「……」


 ここに来ての沈黙……だと……?


 「ははーん、なるほど、つまりリビングにガラス片が散らばっている家には上がりたく無いと、そういうことなんだろ?」


 「いやいや、そういう訳じゃないんだけれど、なんていうかさ、年頃の男子高校生のお家にお邪魔するのは身の危険を感じるというか」


 「お前……僕のことを信用して無さ過ぎだろ。僕がそんなことするような奴に見えるのか?」


 「見えるね。見た目だけで痴漢に間違えられて何回も警察のお世話になってそう」


 「結構リアルに嫌悪の視線を此方に向けながら僕の外見的印象から予測できる最悪の未来を淡々と語るな」


 「ま、冗談なんだけど」


 「冗談にしても、もうちょっとマシな冗談にしろよ……」


 そういうわけで僕の部屋に通すと、久々原はベッドに腰を下ろした。未だ、キンキンに冷えた四ツ矢サイダーを一気に呷っていると、久々原はこう切り出してきた。


 「で、これからどうするの? 茶屋町君」


 「どうするって、なんのことだ?」


 「とぼけないで、昨日も話したでしょ。これからの生活のことだよ」


 「あ、あぁ~そんな話もしたっけな」


 完全に失念していたZE!


 「人を後期高齢者扱いしておいて、それはないんじゃないかなぁ」


 こ、こいつ、心まで読んできやがった! もしかしてこれが昨日、言ってた超能力ってやつなのか? いや、だったら僕も読めなきゃおかしくないか?


 「ま、まぁ、話を戻そうぜ。確か、なぜ豚が猪の品種改良で生まれたかについての話だったよな?」


 「それはそれで物凄く気になるけれど、そんな話は断じてしてません。もう、話を逸らさないでよ。そんなんだから友達ができないんじゃないの?」


 やっぱりこいつ、鋭いな……ツッコミも中々の物だし


 「できないんじゃなくて、作らないだけだ。それに今更遅いしな」


 「確かに、一理あるね。茶屋町君は中学の友達とかに連絡入れた?」


 「中学時代どころか生まれてこの方お前ぐらいしか友達いねーよ」


 「さすがに私以外に一人ぐらい居ると思っていたけれど、さすがに問題だよ……」


 この話題はヒットポイントがガンガン削れて行くので話題を変えることにした。


 「閑話休題。で、中学の友達がどうしたんだよ?」


 「そうだったそうだった、そう、中学の友達に連絡が着くかを聞きたかったんだけど、どうやら愚問だったようだね」


 「自分で言うのも何だが、まったくもってその通りだな」


 


 靴紐をきつく縛り終え、上半身を起こす。


 「じゃあ、母さん行ってくるよ」


 つい、いつもの癖で振り向き様にそんな言葉が口をついて出た。


 「茶屋町君のお母さんも、もういないでしょ。ついに暑さで頭おかしくなっちゃった?」


 「いつもの癖なんだからしょうがないだろ。てゆーか、お前の適応能力が高すぎるだけだっつの。でもまぁ、最後ぐらい言わせてくれてもいいだろ?」


「しょうがないな~、まぁ最後だから許してあげるよ」


 「やけに上から目線なんだな……」


「幼馴染みですから」                                                        

 「ああ、そうかい。わかったわかった。んじゃまぁ、張り切って。行ってくるぜ――全人類」


 東京へ。


 現在、五月五日昼過ぎ。そのたった二日前に人類は実質的に滅亡した。

 ――いや、正しく言えば七人を除いて”消滅”したのである。


 そして、時は二日前へと遡る。

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