第13話「僕と私の15センチ」

 15センチ、それは近くて遠い距離だ。

 友達以上恋人未満の関係の二人がそれ以上は近づけないし、

身長が15センチ違えば見える物だって変わるだろう。

 10センチ変わった僕でもそう感じたんだから、15センチなら尚更だ。

 屋台のおじさんがいった言葉に、『僕』の15センチ手前に居た僕は恥ずかしくなった。

 僕は、思わず神社まで駆け出していった。

「かい、吹雪!」

 思わず僕の名前を呼びそうになって慌てて訂正する『僕』。

 後に吹雪は、『普通の女の子ならあんなこといわれたら恥ずかしんだろうな』と語った。

 彼女いわく、『演劇部だったからそういう状況になってもすぐ気持ちを切り替えられた』そうだ。

 僕が恥じらったのは、心が身体にまで影響した結果だろうか。

 それとも、僕がインドア派だったから男性としては引っ込み思案だったせいなのだろうか。

 僕は階段を駆け上がる。

 『僕』が15センチ手前にきた時だっただろうか。

 僕は階段から足を踏み外しそうになった。

「海翔!」

 僕の名前を叫ぶ『僕』。周りに人が居なかったからだろうが、『彼』は僕を支えようとする。

 しかし力及ばずバランスを崩し、僕達は階段を転げ落ちた。

 目を覚ますと、目の前で吹雪が倒れていた。

「吹雪、吹雪!しっかりして!」

 そういうと、吹雪は身体をかすかに動かす。

 とりあえず意識はあるようだ。

 しかし、その時はっと気づいた。

「身体が戻ってる?」

 そこにあったのは僕の身体だった。

 目の前に居るのが吹雪なんだから、当たり前といえば当たり前だったが。

 すると、吹雪は身体を起こした。

「男から女になると、重いのね……」

「第一声がそれかよ!」

 僕は吹雪にそう突っ込んだ。

「流石の私もそう思ったのよ。男の身体でいたせいかしら?」

 流石にそれはないと、僕は15センチの距離のままこう返した。

「男女の一番の違いはそこだから、じゃないかな」

「……まあ否定はできないわね」

 そういうや否や、彼女は15センチの距離を詰めてくる。

「私、お祭り楽しくなってきちゃった。案内してよ、海翔」

 そして僕と吹雪のデートが始まったのだった。

 それから時間が経ち……

「海翔、もう書けたの?」

「ああ。実際に入れ替わりが起こったなら、リアリティーもあるだろう?」

「海翔ったら、そういうところは何か夢みがちっていうか……」

 15センチ離れた距離からそういってきた吹雪は、僕の買ったワンピースを着ていたのだった。

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僕と私の15センチ 月天下の旅人 @gettenka

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