デザイナーズノート

 いわゆる「異能系バトル小説」を読んでいると、たまに違和感をぬぐえない展開があります。

 それは何かと言いますと、「窮地に陥っていた主人公が、突如として能力を覚醒させ戦いに勝利する」といったものです。

 平たく言うと「一発逆転」という奴ですね。

 多くのひとは「ハァ? それのどこがおかしいの?」と思われるのでしょうが、いざ実戦を──つまり、格闘技やスポーツ、クルマのレースなどを経験した方々の大半なら、「一発逆転なんて実際にはない」という事実を痛いほどご存じだと確信します。

 もちろん、予期せぬ不運に襲われたことで勝ち戦を失うことはあるでしょう。

 巷では「運も実力のうち」と申します。

 が、現実というものは、それほど単純にできてはいません。

 運というのは勝敗を決める多くの要素のひとつに過ぎず、実際はその「ワンチャン」に至るまで何を積み重ねてきたかによって、その好機を生かせるかどうかが定まってくるものなのです。

 兵法的な言葉で言えば、「戦略上の優勢を戦術的勝利で覆すことはできない」という奴ですね。

 ライトノベルの読者であれば、一度は聞いたことがあるでしょう。

 本作のバトルシステムをデザインするにあたって常に念頭に置いたのは、「戦いとは手の内の資産のマネージメントである」という、古来より語られてきた内容です。

 本作の公道バトルはサイコロを用いません。

 先述した「運」を含めたいろいろな要素は抽象的な「手札」というものに集約され、キャラクター=プレイヤーたちは自分に与えられたその「手札」という資産を有効活用することによって勝利を目指します。

 したがって、個々のキャラクターに与えられた「バトルスタイル」や「走り屋ランク」、それと「愛車の性能」は、そのすべてが「手札をより有効に活用するため」の能力と言って過言ではありません。

 サイコロというランダム発生器を用いない以上、突発的な幸運が戦局全体を覆すことは少なく、最終的には先を見越した資産配分と長期的視野をもった戦略思想とが(なるべく)バトルの決定打となるようにデザインしました。

 その代わりといってはなんですが、どれほど強力なキャラクターであっても、プレイヤーが戦い方を誤ればあっさり負ける厳しいシステムにもなっています。

 事実、小説「ミッドナイトウルブス」の主人公である「八神の魔術師」壬生翔一郎は、テストプレイの序盤戦で結構ころころ負けました。

 不慣れなテストプレイヤーが、走り屋ランクを活用した引き分けを上手に利用できなかったんですね。

 たぶんですけど、初めのうちは翔一郎の「オーバーロード」や倫子の「クルセイダー」みたいな「手札をより有効に活用できる」戦略的なバトルスタイルより、芹沢の「ジャガーノート」や麗華さんの「セントーア」のような直接数値に影響のある戦術的バトルスタイルのほうが勝率高くなると思います。

 ですから本作をプレイされる皆さんは、マイキャラの性能を上手く活用できる自分だけの戦略・戦術を編み出してみてください。

 もちろん、どうしようもなく勝率の低いバトルスタイルもありますが、組み合わせ次第ではとんでもない実力を発揮するバトルスタイルもあります(「萌えろダウンヒルナイト」の主役コンビ・大地翔と此ノ先未知がその代表格です)ので。

 あと、これはデザイナーからの数値説明になりますが、クルマの性能値に関しては、筑波サーキットのラップタイムを参考にして設定しました。

 目安としましては、筑波1分16秒台を総合点「0」として、そこから1秒タイムが縮むごとに総合点を+1、1秒伸びるごとに総合点を-1してあります。

 「速度」のパラメータは、そのクルマのパワーウェイトレシオが

 18以上の場合が⑧

 17以上18未満の場合が⑦

 16以上17未満の場合が⑥

 15以上16未満の場合が⑤

 14以上15未満の場合が④

 13以上14未満の場合が③

 12以上13未満の場合が②

 11以上12未満の場合が①

 10以上11未満の場合が0

 9以上10未満の場合が1

 8以上9未満の場合が2

 7以上8未満の場合が3

 6以上7未満の場合が4

 5以上6未満の場合が5

 4以上5未満の場合が6

 3以上4未満の場合が7

 2以上3未満の場合が8

 1以上2未満の場合が9

 1未満の場合が10といった具合に決定しています。

 なお、一部の280馬力車、64馬力車のうち、モータースポーツで実績を残した国産車(つまりランエボ、インプ、GT-Rなどです)には+1の修正を加えてあります。

 これらのクルマが、実際には自主規制を越えるエンジン出力を発揮していたことによるものです。

 「馬力」のパラメータは、そのクルマのトルクウェイトレシオが

 150以上の場合が⑧

 140以上150未満の場合が⑦

 130以上140未満の場合が⑥

 120以上130未満の場合が⑤

 110以上120未満の場合が④

 100以上110未満の場合が③

 90以上100未満の場合が②

 80以上90未満の場合が①

 70以上80未満の場合が0

 65以上70未満の場合が1

 60以上65未満の場合が2

 55以上60未満の場合が3

 50以上55未満の場合が4

 45以上50未満の場合が5

 40以上45未満の場合が6

 35以上40未満の場合が7

 30以上35未満の場合が8

 25以上30未満の場合が9

 25未満の場合が10といった具合に決定しています。

 車両クラスは計算式で求めています。

 車両重量を150で割った値が、11以上でXH、10以上11未満でSH、9以上10未満でH、7以上9未満でM、6以上7未満でL、5以上6未満でLL、5未満でXLとしてあります。

 改めて言うまでもありませんが、総合点から「速度」と「馬力」の性能値を差し引いた数字が「旋回」の数字となります。

 この数字を元に、モータースポーツでの実績を考慮して1~3の調整を加えた値を最終的な車両データとしてあります。

 これらのやりかたを用いれば、データにないクルマの性能を導き出すこともできるので、興味のある方は、どんどん新しいクルマをデータ化してやってください。

 余談ですが、AE-86の筑波ラップタイムは1分15秒台です。

 当時のタイヤといまのタイヤとの性能差もあるでしょうが 速いクルマでないことは明白です。

 また翔一郎のBE-5は、ノーマル状態でも筑波を9秒台で走ります。

 これはS-15型「シルビア」には劣りますが、S-13型より速いタイムです。

 「レガシィ」って意外と戦闘力あるクルマなんで(アーケードゲーム「バトルギア」では選択車種に含まれてました)、見直してやってくれたら嬉しいです。

 さて、公道バトルに関しての内容はこれぐらいにして、今度はロールプレイ関連の話をしましょう。

 本作に登場するキャラクターたちは、多かれ少なかれ「一般人」です。

 峠の走り屋としていかに高い能力を持つキャラクターであっても、フォーミュラーやWRCでチャンプになれる実力ってわけではありません。

 たとえ「八神の魔術師」壬生翔一郎であっても、一線級のF1パイロットやWRCドライバーを相手にすれば、子供みたいに捻られるでしょう。

 これは一般技能やパラメータでも同様でして、ルール上4~10(ヒーロー効果を伴えば11)の値を取る基本能力値も、これがプロスポーツ選手であったり国際的に著名な学者であったりすれば、身体や知性で11以上の数値を持つ人物がごろごろいるという考えに基づいています。

 したがって、「なろう小説」に登場するようなチートキャラは、本当の意味でのチート行為(ルール無視)をしない限り、プレイヤーキャラクターとしては登場し得ません。

 ルール上最高の身体値と腕力技能を備えたキャラであっても、本職の格闘家やプロレスラーには簡単にボコられてしまうのです。

 それゆえプレイヤーは、自分の持ちキャラがそうした「一般人の延長」であることを念頭に置いてキャラメイキングとロールプレイとを行ってください。

 無茶な職業設定にするなという警告は、それが下敷きになっています。

 また、キャラクターが「一般人」であり、しかも現実世界に酷似した世界線が舞台である以上、「なろう小説」のような展開も本作品ではありえません。

 たとえ走り屋として最強のスペックを持とうとも、本作品の世界線ではそれ以上の価値はないのです。

 どれだけ峠を速く走れたところで、時の権力者に認められて「この国の行く末を任せた!」と言われることもなければ、政治家の下を訪れてSEKKYOすることもできません(さすがにそんなことをしたがるプレイヤーはいないものと信じたいです)。

 そのことを念頭に置きつつ、今度はロールプレイに絡むスペックの話をしていきます。

 まずは「走り屋ランク」というものについて。

 「走り屋ランク」は、そのキャラクターが持つ走り屋としての経験、知識、名声などを総合的に表すパラメーターであると同時に、そのキャラクターが持つ走り屋としての「格」を表すパラメーターでもあります。

 GMもプレイヤーも、この「格」という評価を軽視しないでください。

 あえてルールには記載しませんが、格上のキャラクターが明白な格下キャラに挑戦するという態度は、そこにちゃんとした理由(原作小説における芹沢vs翔一郎のような場合です)がない限り、かなりみっともなく映ります。

 悪役のやる行為と取られても、まず仕方がないでしょう。

 なぜなら、弱い者いじめに見えるからです(「頭文字D」1巻の高橋兄弟が好例です)。

 たとえバトルに圧勝しても、それは「当然の結果」と認識され、勝利自体を称賛されることはあまりないと考えてください。

 なので、TRPGとして面白いのは、上にも挑めるし下からも挑まれる、走り屋ランク3~5といったところだと思います。

 システム的にも、プレイヤーキャラクターはそのあたりからスタートするか、もしくはそのあたりが初めの目標になるよう設定してあります。

 サイコロで出てしまった場合は仕方ないですが、高ランクキャラ、特にランク6~7のキャラクター+高性能マシンの組み合わせは対戦の幅が著しく狭くなる(格上からイジメられるのはNPCも嫌でしょう)ことを念頭に置いておいてGMはマスタリングしてください。

 またプレイヤーは、走り屋ランク3~5という数字が、一般的な峠であれば地元におけるトップクラスの実力であることも忘れないようにしてください(このあたりの感覚は、記載してあるサンプルキャラを参考にして感じ取ってください)。

 次に「財布」のパラメータについて話をします。

 本作に置いて普通のTRPGのように金銭そのものを数値化しなかったのは、プレイヤーが稼ぎのほぼすべてをクルマ関係に注ぎ込むというトホホな展開を恐れたからです。

 普通に考えれば、稼ぎの多い人物は食事や衣服などの生活面にもちゃんとしたコストをかけると思われますが、TRPGの場合、キャラクターは劣悪な生活環境にもいっさい不満を漏らしません。

 実際、ファンタジーRPGではキャラクターが冒険でどれだけカネを稼いでも「食事は一番安い奴。宿も一番安い宿。服なんて着れればいい。なぜなら、なんのペナルティーもないから。カネがあったら冒険用の装備にかける」というプレイヤーがほとんどだと思います。

 デザイナーとしては、そういった極端なキャラばかりになるのが好ましく思えませんでした。

 それゆえパラメータとして独立した「財布」という項目を設け、そのキャラクターの経済状況を抽象的に表すルールを採用することにしたのです。

 もちろん、借金のルールがある以上、キャラクターが自身の生活レベルと高性能マシンとを引き換えにすることは十二分に可能です。

 よろしい。

 その場合GMは、そういった「クルマにすべてを注ぎ込んだ」キャラクターに、世間の厳しさというものを体験させてあげてください。

 ファミレスでろくに注文もできない寂しさを、たっぷり味わわせてあげてください。

 それもまた、キャラの個性となるでしょう。

 また、言うまでもないことですが、本システムに置いて財産の所有という概念は希薄です。

 愛車など一部の例外を除けば、シナリオ内でキャラクターが購入したアイテムは、次回以降のシナリオに持ち込むことができません。

 GMが望めば別ですが、キャラクターの持っているアイテムも「財布」のデータ内に含まれているものと思ってください。

 これは身なりの点でも同様です。

 貧乏なキャラクターが安物のシャツを着ている一方で、裕福なキャラクターは普段からブランド物を身に着けているものと考えてください。


 さてデザイナーとして語るべきところはまだまだあるのですが、そろそろ紙面も尽きてまいりましたので小難しい話はこれまでにいたします。

 では皆さん。

 「公道の走り屋ミッドナイトウルブス」という異世界での物語を、本システムを用いて存分に楽しんでください!

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峠の走り屋TRPG「ミッドナイトウルブス」ベーシックルール ver1.75 石田 昌行 @ishiyanwrx

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