科学によって崩壊した世界。
海底都市へと夢を見、移住した富裕層。
捨てられた地上世界にて佇むは、歯車回る美しき灯篭屋敷。
中に住まうは、高い技術力を有するという謎多き男と、白い羽を持つ神秘的な『天使』と『マリーちゃん』と呼ばれる者達。
―――と、SFとファンタジーと和風のおいしいとこをぎゅっと凝縮して、香辛料で纏めたような世界観。それが見事に調和して一つの作品という料理(しかも美味)になっているのが素晴らしい。
世界観の匂いに釣られて蓋を開ければ、主人公である棕櫚はどこか皮肉で厭世的でありながらも、白米を愛し、天使である蛍火を大切に思うという非常に可愛らしい人物だし、それ以上に愛らしいのが白いもふもふ羽がトレードマークのケイちゃん(蛍火)。読みながら「触ってみたい……」と何度真顔で漏らしたことか……………。
個性的な彼ら、彼女らにのせられて、ふと気が付けば世界観に首まで浸かっている―――そんな作品だと思います。
迷っている方はとりあえず、タイトルの意味を理解できる話まで読み進めることを強くお勧めします。
科学技術の発展により栄え、そして汚染されてしまった世界。
海底に作られた都市に逃げ込めたのは、極一部の人々だけ。
主人公の棕櫚は地上で蒸気機関の機械を作り、それを人に売って生活をしている。
何処か諦観したような雰囲気を持っているが、読み進めるとすぐにそれが誤りであることに気付く。
彼のこだわりや信条が手に取るようにわかるのは、その所作が非常に丁寧に描かれているからだろう。
読みながらその所作を頭の中で追っていくと、汚染された世界で彼が作り続ける空間が目に浮かぶ。
棕櫚と一緒に住んでいる蛍火という少女。彼女も謎に満ちた存在であるが、それ以上に非常に可愛らしい。思わず何度か読み返しては、彼女の表情などを想像して頬が緩んでしまう。
その背中に生えた羽をふにふにと触れる棕櫚が非常に羨ましい。
今後、棕櫚の創りだすモノがどのように話を広げていくのか、非常に楽しみな作品である。