ep7
□
「絶対嘘だ!」
私の話が不満だったのか、生徒の一人が赤い顔をして立ち上がる。
「いやいや、本当です」
「じゃあ、先生! その黒板に手を当てて穴を開けてみてよ!」
生徒達の視線は私に集まり、どうやら、言われた事をやらなければ場が収まりそうになさそうだ。
目を瞑り、それっぽく、「ふん!」と声を出して、黒板を強く押すが黒板からは掃除しきれていない埃カスがパラパラと舞うのみで穴を開けることは出来なかった。
「ははは! 今日は調子が悪いみたいだ」
「先生の嘘つき!」
シュプレヒコールのように生徒の声が私に向けられる。
「静かに! あ! もう、夕暮れじゃないか! さあ、君達、そろそろ家に帰りなさい」
帰宅の頃合いになった事もあり、私は生徒達に帰宅を促す。
殆どの生徒が帰る中、ベクレルだけが残っている。
「ベクレル? どうしました?」
「僕は先生の話、信じるよ」
「ありがとう」
「で、壁の向こうには何があったの?」
「ん?」
「先生の話は途中で終わってたよね? 壁に穴が空いて、そこから来た風が貴族の男の帽子を飛ばしたんでしょ? で、先生はその穴の先を見たんだよね?」
「素晴らしい洞察力! ベクレル! テストであれば◎を上げてますよ」
「茶化さないでよ。先生」
ベクレルの熱い眼差しに私は答えなくてはいけない。
私の仕事はこの国の歴史を伝えるという事。
そして、それを知った後世の者たちが私達の思いつかないような事を考え発展させていく。
ベクレルは私に「皇帝になりたい」と言った。
彼が皇帝になる事は万に一つもないだろう。
しかし、私は壁を抜けた男を知っている。昔、私は学者に聞いた事がある「低い確率だが人は壁をすり抜ける事が出来る」と。
初め、それを聞いた時は真に受けていなかった。
しかし、私は実際に壁をすり抜けた男を見てしまった。
ベクレルが皇帝になる確率と壁をすり抜ける確率で言えばどちらが低いのだろうか。
ベクレルが皇帝になるなど私は一ミリも思っていない。
だが、世界は思いもよらない事が起きる。
0%の出来事などないのだ。
私の発言一つで何か変わるか分からないが、私はベクレルの将来の夢の為に口を開く。
「そうですね。壁の先には_______」
壁の先には おっぱな @ottupana
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