【1億円】指名手配ゲームの逃亡者
ちびまるフォイ
誰がゲーム終了だなんて言いました?
昔からかくれんぼは得意だった。
誰にも見つからずにゲーム終了なんてよくある。
「あなたが指名手配ゲームの参加希望者ですか」
「はい。期限まで捕まらなければいいんですよね?」
「そうです。あなたはこれから1週間、指名手配として懸賞金がかけられます。
逮捕されるわけではないですが、あなたを全国の人が血眼で探します。
そのスリルと緊張感を心行くまでお楽しみください」
「賞金は?」
「はい、こちらに」
主催者はジュラルミンケースを開けて1億円の札束を広げた。
1週間逃げ切れば1億円……!
「では、よい1週間を」
【 指名手配ゲーム 開始 】
初日はいつも通りの日常だった。
びくびくしながら顔を隠したりしていたが誰も気にしない。
2日目、ニュースで俺が指名手配ゲームに参加したことが報道されると
平日にも関わらず道には人がきょろきょろと出歩いている。
「ふふ、俺を捕まえたら1億円だものな。
そりゃ会社も学校も休んで探すわな」
今日は部屋から一歩も出ない方がいいだろう。
しっかり食料の貯えもあるから1週間引きこもっても問題ない。
指名手配生活も折り返し地点にさしかかると、
俺のアパート周辺には人が徐々に集まり始めた。
「くそ……SNSもやってないってのに、口コミで特定したのか。
まったく、人間のうわさの広がりは恐ろしいな……」
この部屋に籠城するのも限界だろう。
俺は深夜にそっと部屋を出てネットカフェへ行った。
深夜の方が、俺を探している人間がうろうろしているのには驚いた。
(俺が深夜に移動することすらお見通しなのかよ……)
でも、ネットカフェなら大丈夫だろう。
カウンターでお金を払ったとき、店員が告げた。
「すみません。身分証の提示をお願いできますか? 規則なので」
「はっ!?」
「当店ではセキュリティの関係で身分証の提示をお願いしています」
そんな写真出したら一発でアウトだろ!!
「あ……いや……」
「身分証を」
「わ、忘れたなぁーー……」
「…………」
「…………」
「……もしかして、あなた指名手配じゃないですか?」
そして、俺はあっけなく捕まった。
店員の言葉にネットカフェで張り込んでいた人間が一斉に押し寄せて抵抗する間もなかった。
「あらら、ゲーム失敗ですね。またのご利用お待ちしています」
「もうこりごりですよ……」
こんなに息苦しい1週間を過ごしたのははじめてだった。
1億円は手に入らなかったが、こうして元の日常のありがたさに気付けたのはよかった。
うるわしのアパートを目前にしたとき、突然後ろから羽交い絞めにされた。
「見つけたぞ!! 指名手配犯!」
「はぁ!? ち、ちがいますよ!?」
「何言ってる! ニュースでお前の顔を見たぞ!! 間違えるか!!」
俺を捕まえた男は、俺の写真を持っていた。
「ゲームは終わったんですよ! 俺はもう指名手配犯じゃない!」
「うそつけ!! そうやって逃げるつもりだろう!」
「えええええええ!?」
ゲームは終わっていなかった。
というより、終わらせてもらえなかった。
指名手配ゲームに俺が参加したことはニュースで報道されたが、
俺が捕まって指名手配ゲームが終わったことはどこにも報道されてない。
まして期限が1週間だということすら知らない人もいる。
「おいおいおい……どうなってる……」
俺のアパートの周りには人だかりができている。
まるで借金取りのように俺の部屋に向けて罵声が飛び交う。
「いるのはわかってるんだ! 出てきやがれ!」
「隠れてないで男らしく逃げ切ってみせろ!」
「怖いのか腰抜けめっ!!」
「なんで誰も俺のこと知らないんだよ……」
金に目がくらんだ連中は、ゲームの期限が終わっていることも
俺がすでに捕まって指名手配でもないことすら知ろうとしない。
どうすればいい。
このままじゃずっと追われ続けてしまう。
「なんとかみんなにゲームが終わったと気付かせないと……」
考えられる方法は1つしかなかった。
・
・
・
「おお、もう一度ゲームに参加なさるんですか?」
「ああ。今度は必ず逃げ切ってみせる」
「では、よい一週間を」
【 指名手配ゲーム 開始 】
俺は二度目のゲーム参加を決めた。
逃げきって賞金1億円を手に入れれば、間違いなく報道される。
ゲームの終了に気付かない連中もさすがにわかってもう折ってこないだろう。
「なんとしても逃げ切ってみせる。
これは賞金だけじゃない。俺の日常を取り戻すために!」
前回の失敗から同じ場所に長くとどまるのを避けた。
ゲーム開始前にいくつもの物件を借りて
さながら別荘のように渡り歩いて居場所の特定を防いだ。
「よし、まだ誰も特定できてないな」
前回よりも頻繁に外に出歩いているので特定されないか不安だったが
探す側もまさか昼日中のひとごみに俺がいるとは思わない。
マスクやサングラスといった「ザ・変装」はかえって怪しまれる。
普段のカジュアルな服装ではなく、髪型も変えてラッパーや不良系の服装に身を包み、立ち振る舞いも変えた。
まるでタイプの異なる人間に成り代わって過ごす。
『指名手配どこいった?』
『こっち張り込んでるけど見つからない』
『道路封鎖しようぜ』
『俺駅員だけど、改札見張るわwwwww』
「そろそろ本気を出してきたか」
指名手配も最終日になると、みんなが本気になってくる。
職権乱用あたりまえ。公共交通は使えない。
道を歩くすべての人の目が監視カメラのように光る。
いまだかつて、この最終日を乗り切った指名手配はいない。
残り24時間の過ごし方は……。
【 指名手配ゲーム 終了 】
「おめでとうございます!! よく逃げ切れましたね、すばらしい!!」
「ああ、よかった。報道はされてますよね?」
「もちろんです!! あなたが見事逃げ切って1億円手に入れたことは
国内のみならず、全世界に発信されていますよ!
コングラッチュレーション!」
「よかった……これで普通の日常に戻れる……」
正直、1億円よりも日常の方が大事だった。
これでもう俺を探し追い回す人間はいなくなるだろう。
「でも、最終日はどこに隠れていたんですか?
町は封鎖されて、移動はできない。
すべての物件に強制的なガサ入れすら行われていたんですよ?」
「警察に出頭したんです」
「ええ!?」
最終日、俺はわざと挙動不審な動きをして警察に捕まった。
なにを聞かれてもあえて意味深なことやはぐらかしたりして時間をかせぐ、
そうなると警察も躍起になって怪しい俺の罪を暴こうとなる。
取り調べは長くなり、24時間なんてあっという間だ。
「指名手配ゲームの参加者として、
警察官が俺をつきだせば容疑者をみすみす解放したことになる。
犯人かもしれない男を警察が逃がすわけがない。
だから、警察の取り調べ室がいちばん安全な場所なんですよ」
もっとも、ボロは出るから24時間が限界だったが。
「なるほど。24時間経ったら、あなたは真実を告げるだけで無罪放免。
警察というシェルターが最終日だけ使えたんですね」
「俺は日常を取り戻すためならなんでもしますよ」
俺は賞金のジュラルミンケースを受け取った。
これですべて元通りだ。
その帰り道、アパートが見えたところで足を止めた。
「な、なんだ……どうなってる……!」
俺の部屋の周りには前以上の人だかりができている。
ゲームは終わったとみんな知っているはずなのに。
指名手配じゃないはずなのにどうして……。
「「「 いたぞ!! あいつ1億円もってやがるぞ!! 」」」
いまや全世界に知れ渡ったその情報によって俺はふたたび追われ続けた。
【1億円】指名手配ゲームの逃亡者 ちびまるフォイ @firestorage
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