第36話
私たちが住んでいるこの世界を表と言うことにしよう。
この表の世界の裏側にはもう一つの世界があると言われている。異世界と言われるとこだ。
だが、この裏の世界(異世界)にも様々なパターンがある。表の世界とほぼ同じということもあれば、全く違うということもある。
ルナ達が引きずり込まれてしまったこの世界はルナ達が居た世界(表の世界)の裏の世界。3人は魔界の隣にある人間、獣人族などが住むエルド王国に散り散りに転移してしまった。このエルド王国は魔界から来る魔物たちに攻撃されていた。
◆◇◆
「イテテテテッ!」
ルナは尻もちをついた。頭上を見ると空にゲートが浮かんでいる。
なるほど。たしかにあそこから落ちてきたら痛いだろう。
ここは何処なのだろうとルナは周りを見回した。周囲は木々が生い茂っている。森なのだろうか?
腰を上げ、ルナは森の中を歩き始めることにした。ここが何処なのかも分からないが、あの鳥男が言っていたことを思い出すと、ここは異世界ということなのだろう。しかし、たしかあの時、鳥男は「魔城にゲートが繋がっている。」と言っていた。しかし、ルナが落ちてきた場所は森。
「俺がとばされるはずだった場所は魔城。でも、ここは魔城じゃない。」
なぜなのかと考えていたルナだったが、すぐに解決した。
「たしか、あのとき鳥男は魔王石をゲートに使うことによって魔城にゲートが繋がると言ってたよな。ということはリリムが魔王石を破壊したから、魔城ではなく、魔城のある異世界に転移させられたということなのかな?いや、きっとそうだ!」
一応納得した。
「それにしてもリリムはどこに行ったんだ?」
ルナが転移してきた場所の周辺にはリリムの姿は無かった。
リリムの他にも気になることがある。それはマサキのことだ。ルナがロープでゲートへ引きずり込まれたときにマサキはルナの手を引っ張り、助けようとしてくれていた。あれから先は覚えていないが、もしもマサキも異世界に来てしまっていたなら心配だ。なにしろリリムは獣人型になり、魔物が出てきたとしても倒せるかもしれないが、マサキはただの人間なのだ。
「2人の居場所が知りたい!」
ルナは森の中を歩き進んでいった。
◆◇◆
「イテテッ、ここは?」
「痛いな、ここはどこだ?」
リリムとマサキもルナと同じように異世界へ転移していた。
「あれ、ルナさんは?」
リリムは姿の見えないルナはどこかと周りを見回している。
「ルナの場所はわからないが、ここは街のようだな。」
同じく周りを見回すマサキは答えた。
2人が転移された場所は小さな街だった。
「とにかく、ルナを探そう。リリムちゃん。」
「はい!…ですが、リリムでいいですよ。」
「そうか。じゃあリリム行こう!」
張り切って、歩き始めたマサキだったがすぐに肩をうなだれた。
「探そうといったはいいがどこを探せば見つかるんだ?」
少し、考え込んでからリリムは答えた。
「私も正確にはわからないのですが、私があの魔王石を破壊したことで直接魔城行きは避けられたはずだと思います。」
「たしかにそうだな。だが、ルナはあの鳥男にロープで引きずり込まれたぞ。」
「あれも心配ないでしょう。鳥男に引きずり込まれたからといって、魔城に転移することはできないでしょうから。」
「それなら安心なんだが…」
「ルナさんはもともとこの世界に来るつもりでした。そして目的は魔物たちのいろんな情報を仕入れるための偵察です。ということは、ルナさんは私たちを探しながらも、この国の隣にある魔界に行こうとするはずです。」
「なるほど!つまり、国境付近を捜していれば見つかるかもしれないということだな。」
「はい!その通りです。なので、早速この街の人たちに聞き込みしましょう。地図も手に入れることができれば上出来です。」
◆◇◆
しばらく森の中を歩いていると前方に煙が見えた。
「あれはもしかして煙突の煙だろうか?もしそうだとしたらあそこに村があるかもしれない。」
村があるかもしれないという期待で煙の元まで走り出した。
「ここは!」
森の中にひっそりとたたずんでいる小さな村がそこにはあった。村の周囲には柵が建っており、村の中に入るには入り口の一つの門しかなかった。
ルナの予想は正しく煙の発生源は煙突だった。
「何の用だ?君は…」
ルナが門まで行くと、門番が立っていた。だが兵士の格好ではなく、ただの村人という感じの格好だ。たぶん、この村の人たちが交代制で門番をしているのだろう。
「旅のものなんですが、この村で休ませてもらえることはできませんでしょうか?」
ルナを怪しそうに見る門番の目。
「こんな国境に旅だと?しかも、そんな姿で荷物もなし、旅の訳ないだろうが!」
ルナは「そんな姿?」という言葉を不思議に思い、自分の服に目を移した。
「なっ、なんだって!こっこれは水着じゃないか‼︎」
水着を着ていたことをすっかり忘れていたルナだったが、水着を着たまま異世界転移するとその服のまま転移するのは普通のことだろう。異世界に水着というものが存在しないとするならば、この世界の人からすると水着は下着だ。
このままでは怪しまれるばかりだ。どうにかして疑いを晴らさなければ!
ルナは考えた。それはもう一生懸命考えた。時折、苦渋の表情を浮かべながら…
「わ、わたし、実は旅の途中で男の人たちに襲われてしまって…身ぐるみ全部剥がされてしまって……シクシク、シクシク」
恥ずかしそうに顔を赤くし、嘘泣きでウルウルした目で男の方を見る。これには大体の男は参ることだろう。
本当は男だったものとしては、やりたくなかったのだが、この際仕方ないだろう。
「わかったよ。わかったから泣くのはやめてくれ。村に入れてやるから。」
「フッ、チョロいな。」
ルナは渾身のゲス顔を決めた。
「なんか言ったか?」
「えっ!いや、なんでもありません。入れてくださりありがとうございます。」
「ついて来い。」
ルナは門番について行き、村長の家に案内された。
「村長、旅の者がこの村に少しの間滞在したいとのことで。」
「これはこれは、こんな小さな村によくお越しいただきありがとうございます。」
部屋の奥から現れた村長は白い長い髭をはやしているおじいさんだった。
「ところでなぜそんな姿なのですか?」
やはり気になるのだろう。
「それが、この娘は旅の途中で身ぐるみ剥がされたそうで。」
「そうでしたか。お可哀想に… どうぞこの村でごゆっくり過ごして行ってください。」
2人から哀れみの目で見られるとなんだか申し訳ない気持ちになってきた。
「一つ聞きたいことがあるんですけど、この村はどこなんでしょうか。地図とかありませんか?」
「地図ならあるよ。」
そう言って、村長は地図を引き出しから取り出し、村の位置を指差しながら語り始めた。
「この村はエルド王国の国境にある村です。隣は魔界でここら辺は物騒だからと、ほとんど人は来ない場所なんですよ。なので、ああやって柵を設けて門番も配置しています。」
その後、村の女性の服を数着貰い、村のみんなは優しく、もてなしてくれた。だが、3日間この村に滞在している間ずっと、村のみんなが俺に対して哀れみの目で見てきた。なんか罪悪感が…
◆4日後◆
「みなさん、これまでお世話になりました。旅に必要な物も頂いてしまって。本当にありがとうございます。」
「気をつけて行くんですよ。」
「はい。それでは行ってきます!」
村の人たちに手を振りながら村を出て、主発しようと門に向き直った時、門の前に見慣れた2人の姿があった。
「2人とも、無事でよかった。ホントに良かったよ。」
「ルナさんこそ無事でよかったです。」
「リリムの言った通りだったな。ルナ、大丈夫だったか?」
リリムとマサキが無事だとわかったルナは大いに喜んだ。
村人たちの何が起こっているのかわからないという様子をしていたが、3人はそれには目もくれずお互いの無事を喜びあっていた。
「ところで、2人に話したいことがあるんだけど。」
ルナは安堵の表情から、いきなり真剣な表情になった。
「なんだ?」
「なんですか?」
「知ってるだろうと思うけど、これからこの隣にある魔物たちの国(魔界)に行こうと思う。」
「はい、分かってます。私たちもついて行きますよ!」
「そうだぞルナ。俺たちはお前を手伝いたい。」
「そのことなんだけど、2人にはこの国で待ってて欲しい。吸血鬼になれる私は魔界に行っても平気だけど、2人は魔物にはなれない。2人に危険な思いはさせたくない。これだけは譲れないんだ‼︎」
目覚めると吸血鬼少女に シロクマ @resirokuma
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