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例えば、つばめが葦に求愛したとしよう。この恋は報われるか?
例えば、金メッキの王子が人々に自分の信じる幸せを分け与えたとしよう。この行為で誰かが幸せになるのだろうか?
例えば、アンドロイドに人間のような独善を求めたとしよう。結果はどうなるか?
――もちろん、失敗する。
はじめから決まりきっていた。
私はこんな、決まりきった結果のために、長い長い時間を捨てた。生身の人の体も捨てた。
何度も何度も失敗を繰り返し、繰り返し、繰り返した。
今度こそはと期待し、何度となく期待し、例外なく落胆した。
フミには、私の体がまだ全て人間だったころに経験したことをいくつか体験させてみた。同級生、通りすがりのおじさん、先生……。
反応はどれもいまいちだったけれど、私は落胆しなかった。
繰り返す失敗の合間に、私は青い蝶を作るようになる。何の意味もない、ただの暇つぶしで作る蝶は、この街の中では異物と認識され、飛ばすとすぐに壊されてしまった。
別に構わない。この箱庭の仕組みをすべて掌握しきれていないのには腹が立つが、まぁ、青い蝶を作って飛ばすのは本当にただの暇つぶしだったから。
今までどのアンドロイドたちからも例外なく異物としか認識されなかった青い蝶を、フミは綺麗と言った。
本を読むアンドロイドも、物語を創るアンドロイドも、様々な方向から問題提起してくるアンドロイドも、腐るほどいた。
でも、青い蝶を綺麗だと認識したのは、フミだけだ。
驚いた、本当に。
そして期待した。
今度こそ成功するかもしれない、と思った。
もちろん、当然のように失敗したけれど。
砂の地を踏みしめて歩いている。昔々、海があるか山があるかと想像していた街の外だ。
いつの間にバスを降りたのか、いつの間に壁の外側にあるどこまでも途方もなく続く砂漠地帯へ出たのか、覚えていない。
フミはシャットダウンした。これ以上私に出来ることはないと言って、勝手に。
私にだって、もうこれ以上何が出来るのか。
まもなく、私がばらまいた青い蝶は全て壊れるだろう。もともとそんなに強度はない。半壊した街も、前のようには二度と戻らないけれど、もうどうでもいい。
砂の上に横たわる。
疲れた。
疲れた。
……本当に、疲れた。
外に出たことはある?
ちょっと散歩してみたらどう?
きっと、リョウの気に入るものが見つかると思うよ。
そういえば、フミは最後にそんなことを言っていた。
砂の地面に横たわったまま目を開くと、子どもが私のことをのぞき込んでいる。私と目が合うと、か細い声で一言、助けてと言った。
助けてほしいのはこっちの方だ、と返すつもりだったのに、その前に子どもはどさりと私の隣に倒れ込んでしまう。
薄汚れた子どもだった。砂にまみれた髪はぼさぼさだったし、顔も服も汚い。
子どもは私の隣に倒れ込んだまま動かなかった。荒い呼吸を繰り返すばかりで、話かけてもまともに返事もしない。
助けてほしいのはこっちの方なんだけどさ、本当に。
声に出さずに心の中でぼやいてから、私は立ち上がる。
電気人間はモルフォ蝶の夢を見るか 洞貝 渉 @horagai
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