第4話 病状

体調はすこぶる悪い。

貧血が酷いため、階段を登るのに息が切れる。歩くのも早歩きは既に出来ない。

頭の中にも霞がかかったようで今考えてることが何処かでスルリと逃げてしまい、いつの間にか全く違う事を考えてしまっている。

その度に最初の考えに戻るのだが考えはあちこちに飛んでしまい先に進まない。

自分で自分の考えていることが良く分からなくなる。動作の一つ一つに酸素が必要なのを感じる。

その事はなるべく考えないようにしている。

自分の体が明らかに酸素不足なのを考えると死にゆく自分を感じるからだ。

夜中に目が覚めるのも一度や二度ではない。朝になってもこのまま目が覚めないのではと思いぞっとする。誰も死から救ってはくれないからだ。

ベッドに横たわり目をつぶり深呼吸を繰り返す。深呼吸を繰り返しているとやがて眠りがおとずれてくれる。

その日もいつもの夜と同様に深呼吸をしているうちに眠りこんだ。

夜の暗がりの中、ぱっと目が覚めた。

呼吸が苦しい。酸素が足りない。空気を吸っても吸っても酸素が足りない。今まで苦しくて目が覚めていた時とは比べものにならない。

あまりの苦しさに鼓動が早くなる。心臓がフル回転しても運べる酸素の量は限られている。このままベッドに横たわったまま窒息死なのか…。

生に執着する一面がパニックを起こしそうになる、死にたくない、と。よく様々な読み物に書いてあるように走馬灯のようにとまではいかないものの-割りと最近の事に限定されていたため-過去の記憶が映画のフラッシュバックのように脳裏に点滅した。

だが待てよ、別の何処で囁きが声した。駅のホームで飛び込もうかどうしようか迷っていたではないか。であれば飛び込む勇気の無い自分にとって千載一遇のチャンスではないか?何をしなくても死が訪れてくれるのだ。

そう思い至ると胸のつかえが取れ鼓動も整ってきた。だが苦しい事に変わりは無い。気持ちが楽になると眠気を催してきた。落ち着いた良い感じだ。苦しさを除けば。人はこうして安らかな気持ちで死を迎えるものなのか。朝、冷たくなった自分を思い浮かべながら眠りに吸い込まれていった。

だが、人間は頑丈に出来ているものだ。結局、翌朝生きたまま目が覚めた。安堵もあったが落胆も大きかった。

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