第2話


「山田じゃないか」


 黄昏時の住宅街を抜ける細い道を歩いていると、ふいに声をかけられた。俺の名前は、山田雅司。誰かの服から胸パッドをポロリとさせることを代償に悲劇をぶち壊すことが出来る男。


「なんだ、鈴木か」


 声で相手が男なのは分かっていた。聞き覚えがあるなと思ったのも。それもそのはず、コイツは鈴木さかな、元クラスメイトだ。


「しかし、苗字は平凡なのに名前はアレだな」

「ははは、ぶっ殺すぞ?」


 自己紹介の時は自分からネタにしたくせに言及すると物騒なことを言い出す。こういう男だ。


「しかし、なんだな。おまえ、今帰りか?」

「そうなるな。そして帰ったらメシだ」


 片手にぶら下げたエコバックが目に入ったのだろうか。だが、半額だった特性から揚げ弁当を分けてやる気も譲ってやる気もない。


「今日は良くも悪くもフツーの日だったからな」


 パッドをポロリさせて防がなければいけない悲劇とも出くわさず、おっぱいの大きなお姉さんを見かけることもなかった。悲しみも喜びもどちらもない一日だったと言えよう。


「まぁ」


 しいていいことがあるとすれば、半額弁当が買えたことが良かったことになるか、だが。


「キャーッ!」

「っ」


 どうやら今日という日はパッドエンドなしで終わらせてくれるつもりはなかったようだ。そんなに離れていない場所から聞こえる女性の悲鳴。


「ぐっ」

「おい、今悲鳴が聞こえなかったか?」


 ただ、今の俺の隣には鈴木がいる。パッドエンドを使っては鈴木に見られてしまうだろう。


「すまん、無事でいてくれ」


 すまん、半額から揚げ弁当。


「うぶっ?!」


 俺は弁当を地面に置き、空になったエコバックをスズキの顔に押し付けた。


「よし!」


 今なら目撃はされない。


「パッドエンド!」


 エコバックを押し付けた鈴木がモゴモゴ言うのを右手に俺が行使した能力は、倒れた女性の向こう、女もののバッグを片手に走り去ろうとしたミニバイクの男を道路標識へと激突させたのだった。そう、女性の胸から落ちたパッドと引き換えに。

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パッドエンダー・山田~業を背負うモノ~ 闇谷 紅 @yamitanikou

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