クロの報告

まほゆか⑤巻の発売記念SSです

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 古代竜のイグと出会った時、クロが気絶しなかったのはシウがいたからだ。最初はとても怖かった。途轍もない圧が漂っていて、少しでも気を抜くと「ぺしゃん」と潰されるのではないかと思った。

 知らず知らずのうちにブルブル震えていると、シウが急いで抱き締めてくれた。途端に力が抜ける。ここなら大丈夫。シウがいれば問題ない。クロは安堵した。シウにくっついていると安心だ。恥ずかしかったけれど堂々とくっつける時間は貴重でもある。クロは遠慮なくシウにへばりついた。

 その後、シウとイグが盛り上がっているのを見たクロは「楽しそう。本当に大丈夫なんだ」と確信できた。


 最初はイグが古代竜だとは気付かなかった。クロには大きな魔力の塊に見えた。とんでもない圧があって、魔獣のように威圧を放つわけではないのに恐ろしかった。

 あまりに強大すぎると動けなくなるのだと、クロは知った。

 けれど、イグはトカゲ姿のままで古代竜に変わる様子がない。シウも楽しげに話している。だからクロも緊張するのを止めた。

 それに川の中の宝石を持っていっていいと言ってくれたのだ!

 念のためシウに確認すると「いいよ」と返ってくる。クロは嬉しくて飛び跳ねた。

 シウがイグと熱心に話す間、クロは自由に川を泳ぎ回った。どれがいいか吟味に吟味を重ねて選んだ。


 最後が楽しかったから忘れていたけれど、皆にはやっぱり本当のことを教えてあげなきゃならない。クロはお休み前の時間に「自分がどれほど怖かったか」を話して聞かせた。何故なら、シウの説明で納得したフェレスとブランカが「会いたいね」と言っていたからだ。

「きゅぃきゅぃきゅぃ」

「にゃっ?」

「ぎゃぅ~」

「待って。シウは大丈夫って笑ってたけど、クロがそんだけ怖かったってことは滅茶苦茶アウトなやつじゃん!」

「きゅっ、きゅぃ」

「え、庇うの? 何それ、可愛い」

 クロはロトスに捕まり抱っこされた。

「てか、怖かったんだろー? 可哀想に。よく頑張ったなぁ」

「きゅぃ!」

 ロトスは「ははっ」と笑った。

 フェレスとブランカは首を傾げている。クロが説明してもあまり分かっていないらしい。

「にゃにゃにゃ」

「ぎゃぅぎゃぅぎゃぅ」

「いやいや、お前ら、大らかすぎだろ。みんなシウに感化されすぎじゃね?」

「にゃにゃ!」

「確かにシウは強いけどさ~」

「ぎゃぅ!」

「ブランカはまだまだだろ。なんでそんな会いたがるの。古代竜の意味、分かってる?」

 すると、フェレスとブランカが楽しげに飛び跳ねた。分かってると言うけれど、これは分かっていない顔だ。クロは知っている。

 ロトスも呆れた顔で溜息を吐いた。

「きゅぃきゅぃきゅぃ」

 クロはロトスに頼んだ。二頭にちゃんと教えてほしい。だって、相手はあまりに強くて大きな存在だ。いつ何時、元の姿に戻ってプチッとするかも分からない。

 シウやイグ自身が途中で話していたけれど、古代竜は小山ほどに大きいという。しかも体格だけでなく魔力だって桁違いだ。

 トカゲ姿に転変して魔力を押さえ込んでいてもなお分かる強者の気配に、クロは全く敵わないと思った。逃げることさえできない。

 古代竜は圧倒的な力を持つのだ。

 いくらシウが強くても、気分次第で何をされるか分からない。その時にシウを守れないのがクロは怖かった。

 フェレスとブランカは能天気だから恐れを抱かないのだ。その分、無茶をしそうだった。

 ロトスは「分かる、だよなー」と言ってクロを撫でた。

「お前も苦労性だよな。フェレスとブランカはこんなだし、そもそもシウがアレだもんな~」

「きゅ、きゅぃ」

「そんなことないって? それ、シウを庇った?」

「きゅ」

「分かったって、拗ねるなよ。よし、俺が言い聞かせてやる。フェレスとブランカ、ちょっとこっち来い」

 フェレスとブランカは「えー」「なんでー」とぶつぶつ言いながらロトスに従い、懇々と教え込まれた。無謀な真似はしない。強い奴を見付けたら、まずはシウの指示を仰ぐこと。逃げろと言われたら一目散に逃げる、などなど。

 どこかで聞いた内容だ。それはクロが小さい頃にシウが教えてくれたことだった。たぶん、フェレスも聞いているはず。そして、ロトスも。

「まあ、なんだ。シウも勝算があったからクロを連れていったんだろ。信用もしてたんだよ。お前には災難だったかもだけど、クロの能力を買ってくれてたってことじゃん」

「きゅ」

「へへ、照れてやんの」

 クロは羽を震わせた。ロトスが笑う。

「ま、クロは頑張ったよな。俺ならビビってた。シウに抱き着いてたかも」

「……きゅ」

「うん?」

 クロは恥ずかしかったけれどロトスに小声で真実を話した。実は「古代竜の気配は恐ろしいんだよ、ビリビリして怖かったよ」とは教えたが、その時にクロがどうしていたのかまでは言ってなかったのだ。

 ロトスは内緒の話を聞いて、とても優しい顔になった。

「そっかぁ。クロがそんな状態になったなら、俺なんて腰抜かすかもな」

 だから気にするなと、優しく撫でてくれる。

 クロは小さく頷き、まだまだ古代竜の怖さを理解していないフェレスとブランカが実際に会った時にどうなるのか、ちょっぴりワクワクするのだった。







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◆書籍情報◆

魔法使いと愉快な仲間たち5 ~モフモフと出会う宝石の川~

ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4047384378

イラスト:戸部淑先生

書き下ろしはヴァスタ爺様視点です


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魔法使いシリーズ番外編 小鳥屋エム @m_kotoriya

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