「おともだちに会いたい」

魔法使いと愉快な仲間たち3巻の発売記念SS



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 ハリーはあるじのアロンソといつもの教室にいた。ウスターシュとヒナも一緒。あるじたちはよく一番乗りするんだよ。お勉強のためなんだ。

 そのうちに、みんながやってくる。

 シウもいた。なのに、今日は前にも後ろにもどこにもフェレスたちがいない。クロとブランカも。

 どうして?

 ハリーとヒナだけでなく、タマラやルル、ゲリンゼルも駆け寄った。

「あ、そうだよね。ええと、ブランカが最近ぐっと大きくなったのは知っているよね?」

「くぇ!」

「きーきー」

「うん。実はね、騎獣は学校内を歩いちゃいけないって決まりがあるんだ。体が大きいからだよ」

「くぇ?」

 大きいからダメなの?

 ハリーはアロンソをチラッと見た。ハリーやヒナはブランカより小さい。だから、あるじと一緒にいられるのかな。

「幼獣の間は許されていたんだ。それは、主と幼獣が常に一緒にいないと不安になるから、という理由からだね。ブランカはもう成獣になる。おとなだ。主と一緒でなくてもいい。その上、あの体格だから、馴染みのない生徒からすれば怖く感じるんだよ」

「くぇくぇ!」

「きーきー」

 怖くないよ、と必死で訴える。ヒナもだ。すると、シウが笑った。とっても優しい目でハリーたちを見る。ハリーの尻尾がピコピコ動いた。これは嬉しいからだよ。

「怖くないのはハリーたちがブランカのお友達だからだよ。でもね、知らない人にとっては大きなニクスレオパルドスが怖いんだ。本当は怖くないんだよと言ったところで、気持ちは変えられない。だから、ちゃんとルールに沿って校舎内には連れてこないでおこうと思うんだ」

「くぇ……」

 丸くなりそう。ハリーが寂しくて小さくなると、ヒナも床にぺしゃりと張り付いた。

 タマラは「なぁに?」と首を傾げてる。ルルとゲリンゼルはショックで泣きそう。

「皆、寂しがってくれてありがとう。そうだ、今度二頭の成獣祝いをするんだよ。良かったら来てくれる?」

「くぇくぇ」

 会えるの?

 ハリーは嬉しくてシウの足にしがみ付いた。ヒナもだよ。急いで床から起き上がり、パタパタと飛んでいく。タマラもルルもゲリゼンルだってそう。

「良かったね、みんな。シウが学校内でもお祝いをするそうだから一緒に会いに行こう」 アロンソに言われてハリーたちは元気になった。


 お祝いの会に行くと、ブランカはたくさんの人に囲まれて嬉しそうだった。

 クロは忙しそう。クッキーを配るために飛び回っているの。

 ハリーたちはフェレスを見付けて抱き着いた。

「くぇくぇ」

「きーきー」

「きっ」

「きゅー」

「ヴェェェ」

 それぞれに寂しかったよ、会いたかったよと伝える。

 フェレスはみんなを受け止めて尻尾で撫でてくれた。

「にゃにゃにゃ」

 また遊べるよと言われ、ハリーたちはホッとした。

 アロンソやみんなが理由をしっかり教えてくれたので「仕方ないこと」だって分かっている。でもやっぱり会えないのは寂しかった。

 大きいってだけで学校内を歩けないのはおかしいよね。そりゃあブランカは大きいけど。

 ……あれ? ブランカって、あんなに大きかったっけ。

「くぇ?」

「きーきー」

 ヒナもホントだねとビックリしてる。

 タマラは、山だからと、よく分からないことを言った。それからクッキーを探してくるねと行ってしまう。タマラはチーズも好きだけどクッキーも大好きなんだよ。

「にゃふぅ」

「くぇ?」

「にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃ」

 ブランカ、急に大きくなっちゃったらしいの。それであちこちぶつかるから、人間が大変なんだって。

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ」

「くぇくぇ」

「きーきー」

 フェレスが「きょーいくてきしどー」してるんだって。すごいね。騎獣の先輩だもんね。「にゃにゃにゃにゃ」

 騎獣は大きいから本当は獣舎にいないとダメ。それはアロンソも言ってた。

 フェレスはおとなだったけど校舎を歩けてた。理由があったからだって。今はもう理由がなくなったって言うの。そっか。

「にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃ~」

 シウが遊びに連れてきてくれるって約束したそうだから、きっとまた会えるよね。

 ハリーは頷いた。シウなら約束を守ってくれる。

 お話してると、ブランカがやってきた。

「ぎゃぅ、ぎゃぅ~」

 わーい、ハリーだーと、まるで飛びつくみたいに。

「くぇっ?」

 ビックリして固まったハリーを助けてくれたのは、クロ。ふわーっと飛んできて、ハリーの前で羽を広げたの。

「きゅぃ!」

「ぎゃ……」

「きゅぃきゅぃ」

「にゃ、にゃにゃにゃ」

 クロとフェレスに「突撃禁止」と叱られて、ブランカは大きな体を縮めた。ハリーが丸まった時と同じ格好だった。でも山みたいに大きい。

 さっきも、とっても大きな何かが迫ってきたって思ったの。

「くぇぇ……」

 小型希少獣のハリーでもビックリするのだから人間はもっとビックリするよね。



 ――ハリーは、騎獣が学校内に入れない理由を身をもって知った。

 そしてブランカにはもう少し「お友達や人間を怖がらせないようにする方法」を学んでほしいと、アロンソ経由で伝えたのだった。





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いつも応援してくださり、ありがとうございます

おかげさまで、魔法使いと愉快な仲間たち3巻が発売となりました

シリーズ合わせて19冊目です

これほど長く続けられたのは皆様のおかげです

お礼になるかは分かりませんが少しでも楽しんでいただけると幸いです






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魔法使いシリーズ番外編 小鳥屋エム @m_kotoriya

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