飛竜と遊ぶ騎獣たち

魔法使いと愉快な仲間たち2巻の発売記念として


おかげさまで2巻が発売となりました

応援してくださる皆様のおかげです

いつも本当にありがとうございます!

(2巻の範囲にある、シウがロトスを連れてオスカリウス家へ行った時の様子です)



******************************



 フェレスは子分を連れて、久しぶりに飛竜の下へと向かった。

「にゃにゃ!」

 名前は忘れたが、何度か乗った飛竜が出迎えてくれる。

「ギャギャギャッ」

「久しぶりだと言ってるね。ルーナ、フェレスを覚えていたのかい?」

「ギャギャッ」

 調教師の男が飛竜の前脚を撫でる。そこに、もう一頭の飛竜が割り込んだ。大きな顔を突っ込んできたのだ。調教師が怒る。

「おい、危ないだろ。俺は人間だ。ルーナを取らない。嫉妬するんじゃないよ」

「にゃにゃ?」

「ああ、こいつはソールだ。ルーナの番いだよ。番いの意味はまだ分からないか? 夫婦のことだ」

「にゃぅ?」

「シウ殿は結婚してないから分からんよなぁ。まあ、とにかく、男と女の仲って奴だ。その間に割り込むと『俺の女に手を出すな』って感じで怒るのさ。だがな、ソールよ。種族違いだってことをよく考えろ。お前は本当にバ――」

「ギャギャギャ」

「分かった分かった。ルーナ、お前は賢くて良い女だな。夫があんなでも、ルーナがしっかりしているから俺も安心してられるんだ。夫の操縦を頼むぞ?」

「ギャギャギャ」

「にゃにゃ」

 フェレスは彼等のやり取りの意味が分からず首を傾げたものの、背後で紹介を待つクロとブランカを思い出して一歩前に出た。

「にゃ!」

「お、おう」

「にゃにゃにゃにゃ」

「……お前さんの子分か。なるほどなぁ? シウ殿は一体どういう教育をしてんだ」

「にゃにゃ!」

「で、フェレスが親分なんだな? 分かった、そう紹介すりゃいいのか」

 フェレスが満足げに頷くと、調教師がルーナに説明する。その間にソールが真横にピッタリ貼り付いた。まるで騎士のようだ。

 シウが誰かと話す時、フェレスも横に付いている。もし相手が何かしようものなら牙を剥くのだ。だから、同じだと思った。

「にゃにゃにゃにゃにゃ」

「……俺は飛竜相手に偉そうな態度を取る騎獣を初めて見たよ。お前はすごいな」

「にゃ!」

「まあいい。ルーナ、体調はどうだ。こっちは、シウ殿の相棒たちだ。クロとブランカだったな。遊んでやってくれるか」

「ギャギャギャギャ」

「助かるよ。シウ殿はキリク様に大事な話があるらしくてな。うちの騎獣たちは訓練でいないだろ。領地に戻した奴も多いから、頼むな」

「ギャギャ!」

「元気だなぁ。キリク様を乗せて飛べるぐらいだ。まあ、大丈夫なんだろう。ソールは心配が過ぎると嫌われるぞ。自分だって変な飛び方をしてルーナを怒らせたばかりだろうに。全く、ガキすぎる。とにかく、ソールもこの子らを頼んだぞ。あ、勝手に騎獣を乗せて高高度を飛んだ時のような真似は、絶対にするな」

 釘を刺し、調教師は別の飛竜が気になるからと竜舎から出ていった。

 残されたのは世話係や案内役の家僕だけだ。彼等が関わってこないことをフェレスは知っていた。つまり、今からの時間は自由となる。


 フェレスが子分たちに教えた遊びは尻尾滑りだった。クロとブランカは目を輝かせた。

「ギャギャ……」

 ルーナは静かに座っている。その大きな尻尾を振ってくれてもいいのにと思うが、ソールが守るように寄り添っているので動けないのだろう。

 もしかしたらソールも遊んでもらいたいのかもしれない。フェレスはソールの上に乗った。

「ギャッ?」

「にゃにゃにゃにゃ」

 大きな体はゴツゴツとして、ルーナとは違う。それがまた楽しい。フェレスは走り回った。ソールが体を右に左に動かすため、足場が不安定になる。益々楽しくなった。

「にゃにゃにゃ~」

「きゅぃ!」

「ぎゃぅぎゃぅ」

 フェレスが夢中で走り回っていると、何をしているのかとクロやブランカがソールの足元にやってきた。二頭も楽しいことには目がない。フェレスは二頭に遊び方を伝授した。

「にゃにゃにゃ、にゃにゃにゃにゃ」

「きゅぃ?」

「にゃ」

「ぎゃぅぎゃぅ」

「にゃにゃ!」

 まずは実践あるのみと、フェレスはお手本を見せた。

 ソールの前脚から駆け上り、肩の上でポンと飛び跳ねる。それから一直線に尻尾まで進み、跳ね上げられると今度は胴に飛び降りた。次は翼に向かう。皮膜部分に足を踏み入れるとポヨンとして楽しい。パッと翼が動き、また跳ね上がる。

「にゃにゃにゃ!」

 とっても楽しいよ。と、振り返れば、クロもブランカも目を輝かせた。ブランカは早速よじ登ってくる。ただ、ルーナと違ってソールは登りやすくしてくれない。

「にゃにゃにゃ」

 ガキだなぁと、さっきの調教師と同じ言葉を口にする。

 通じたのかどうか分からないが、ルーナが「ギャギャ」と鳴いた。するとソールが前脚をそっと動かしてくれた。どうやら怒られたようだ。フェレスはルーナに「にゃ」とお礼を告げた。

 クロはパタパタ飛んでソールの背に乗り、ブランカはなんとか無事によじ登った。そしてフェレスの指導の下、背中で楽しく遊び回った。ブランカが落ちかけた時にはルーナが慌てて頭をクッションにしてくれた。

 その後も、立ち上がったルーナやソールの脚の間をすり抜ける遊びもして、存分に楽しんだ。


 あとで、ルーナが「子供の相手は大変だ」とぼやいていたらしいことをシウから聞いて、フェレスは「分かる」と同意した。クロはともかく、ブランカの面倒を見るのは大変なのだ。シウにそう言うと、ちょっぴり変な顔で「そうだねえ」と笑ったので、フェレスは嬉しくなって尻尾を振って甘えた。

 頑張ったフェレスはご褒美をもらってもいい。

 はたして、シウはちゃんとフェレスを撫でて、マッサージもたくさんしてくれたのだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法使いシリーズ番外編 小鳥屋エム @m_kotoriya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ