2CALL きみ

そこから聞こえる声にわたしは戸惑った

「ね、ねぇ、聞こえてないの!?もう一回言うよ!助けて!」

どうやら相手は返事がないことに対して、戸惑っているようだ

「え、あの、どうしたの?」

わたしは出来るだけ、優しくなだめるように言った

「鬼ごっこしてるの!でも鬼が変なの…」

「鬼ごっこ?」

わたしは思わず鸚鵡オウム返しをしてしまった

「そう、鬼がね、黒いの」

画面の向こうの声が震えだす、わたしは少し想像して怖くなり身震いした。

「それって影みたいな?」

「そんな感じかな…?わかんない。でもね、すごく怖い。捕まったら黒い部屋の中に連れて行かれる。鬼が居眠りしてる間しか出れないの。」

その子がどんな状況か分からないけれど、私は静かに耳から携帯を離してしまった。

もしかしたら私もその鬼ごっこに参加していたのかもしれない。

それで鬼に捕まって、私はこの部屋に…。

「そんなのヤダ…。」

私は自分の両腕をさする、鳥肌が立っていることに気づいた。

きっと寒いからだろう。

「もしもし!聞こえてるの?返事してよ!!」

電話から声が響く。私は慌てて、電話越しの彼女に言う。

「しー、静かにして!鬼に見つかっちゃうよ!?」

「あっ…貴方も静かにして…!鬼が…!鬼が!」

声は震え、その子の恐怖もこちらに伝わって来る。

途端に、画面の奥から、鬼の咆哮が聞こえてきた

「いや…!」

思わず、携帯を投げる。

「ヤダ、鬼が…いやぁぁ!!た、助けてぇぇ!!!?」

「ひっ!?やっ、やぁ!!」

「そ、そんな…まって、お願い!助けてよぉ!!!!」

私は部屋の隅へと走って心臓を落ち着かせる。

だが、落ち着くはずがない。

電話からは悲鳴が響く、名前も知らない彼女の悲鳴が。

「いやだぁぁぁ!!触らないでよ!!…ひっ!口が…!やだ!た、食べないで…!!!ヒィ!?やぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

彼女の悲鳴が途絶える。

私はその瞬間全てを理解した。

「やだ、やだ、うぅ…!ふっ、あぁ…おぇ…ひっ、ああぁぁ…!!やぁぁ…!」

罪の意識に囚われ、涙が出る。

彼女が死んだのは、私は、私が携帯を投げてしまったから、彼女に助言を与えなかったから。

ああ、鼻水と涙が入り混じり、ポタリと床に落ちる。

嗚咽交じりに泣きすぎたせいだろう、私はついに嘔吐した。

「うぉえぇ…!えぇ…はっ、ハァ…おえぇ…」

床にこぼれ落ちた嘔吐物に目を向けて、私は微かな声で呟いた。

「…携帯…電話…」

私が手を伸ばすと、携帯電話はまるで遠くに行くかのように感じた。

おそらく、全てのことに限界だったのだろう。

私は意識を手放した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

電話が響く部屋の中で。 百合烏賊 @yurika3416

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ