エピローグ 捜査官の休息

 あの後、榎島先生と長岡は所轄の警察署に連行された。

 もちろん僕も、事件の一部始終を目撃したという事で取り調べを受けた。(けれど、本当に見ていただけだったので、事実をそのまま伝えるだけで終わり、特に何も無かった)

 驚いたのが、先生と長岡が新型麻薬の売人だったこと。先生は体の組織に気分を良くさせる成分――まさに麻薬のように中毒性が極めて高い――を持つEAPであり、自身の血液を使って麻薬「チェンジスタ」の製造をしたことを認めたらしい。

 長岡の悩み相談に乗っているうちに情が移ってしまったのがきっかけで、二人は先生と生徒以上の関係になってしまったらしい。体の関係まで結んだ長岡は先生のEAを知り、EAを麻薬にして流通させようと考えたみたいだ。先生は性行為を撮影したビデオや写真をネタに脅され、チェンジスタの製造と流通に手を貸してしまった……と、こういうことだったみたい。

 長岡はEA効果の離脱症状が酷く、今はまともな取り調べは無理だと聞いた。麻薬はもちろん、先生への暴力行為もあるんだから、きちんと裁かれてほしいな、と僕は思っている。



 僕の取り調べ(?)が終わった後、ドアの外でたむろしていたのは泉持と真澄、そして丹橋先生だった。そこで、初めて彼らの正体を知った。

 彼らはEAP事件を捜査する特殊捜査官で、潜入捜査のために学園へ転校してきたという事を。そして泉持と真澄もEAPで、泉持が強い理由はその能力を使っていたからだという事も教えてもらった。

「まーねー、双子とかバレバレの設定かな~とは思いつつも、ボクちゃんの華麗な演技で乗り切った!! って感じかな!」

「センちゃん、限りなくいつもとおんなじだったよ。演技っていうなら、私の方が大変だったんですけど!」

 保健医の丹橋先生も仲間で、そして真澄が女の子だったなんて、驚きだよ! 真澄は正直、女の子なんじゃないか? って何度も思ったけど、本人も努力してたんだね……。

 彼らは「秘密」を抱えていた……つまり、僕の勘は当たってた、ってことかな?

「これで事件も解決したし、あの学園ともおさらばか~」

「えっ?」

 僕は泉持の言葉を聞き返した。

「捜査の為だったからね。泉持はともかく、真澄は女の子だから、ずっと通い続けることはできないし」

「そっか、そうだよね」

 丹橋先生の言葉に、僕はなんだかさみしさを感じていた。泉持みたいなヒーローがいてくれたら、学校生活がもっと楽しくなると思っていたのに……。

「これでお別れか……。泉持がいると、学校が明るくなって、スカッとした気持ちになるから、面白かったよ」

「こっちこそ。能力隠してたけど、普通の学校生活が味わえて、楽しかったぜ! なんか縁があったら、よろしくな」

 そうして泉持は僕に握手を求めた。ぎゅっと手を握った泉持は、キラーン! と効果音が鳴りそうな満面の笑みを浮かべた。



 そして、不思議な三人は、大海学園から姿を消した。

 事件や潜入捜査、能力のことは極力口外しないようにと言われていたし、泉持たちの連絡先も聞いていなかったから、僕は誰にもこのことを話すことはないだろう。

 彼らとの再会を夢見て、僕は日常に戻ったのだった。


 ::::


 警察署から研究所に戻る車の中、泉持はさきほどとは打って変わり、沈んだ顔をして、外をぼーっと見ていた。真澄も泉持と同じように口数少なく、心ここにあらず、といった様子だ。

「二人とも、お疲れさま。研究所に帰ったら、しばらくは休暇だから、のんびりするといい」

「うん」

「はい……」

 運転する巴のねぎらいもどこか上の空で、車の中は静寂が広がっていた。

「……泉持、真澄。榎島先生は、感謝していたよ。終止符を打ってくれてありがとうって

 」

 所轄警察署の職員に引き渡す際の榎島を思い出し、巴は言った。

「だから、大丈夫だ――君たちは、必ず、誰かの救いになっている」

 巴の言葉に答えはない。やがて研究所に到着し、駐車を終えた巴が後部座席を見る。

 そこには、涙のすじが残った顔の泉持と真澄が、肩を寄せ合って寝息を立てていた。

「子供なんだか、子供じゃないんだか。まったく難しい年頃だ……」

 しばらくしたら起こそうか、それともここで一緒に一夜を過ごそうか――巴は思案しながら、真夜中の空を見上げて、ため息をついた。


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Little Ts Mind Changers 服部匠 @mata2gozyodanwo

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