第4話
早く放課後になれと思いながら時計を何度も確認しては顔が綻ぶ。
昨日、あれから少しだけ喋って、なんと正式に友達権を獲得しましたよ!で、今日バイト休みだから放課後遊びに行こうと、そんな流れになったのだ。
こうして1日の授業内容が完全に頭に入ってこないまま、放課後を迎えた。
これは決してデートなどではなくて、健全な遊び会だ!
健全って意識する方が何だか疚しいな……。
親睦会?
なんか妙に硬い。
デート?
だからデートとか、そんな浮ついた感じじゃない。そもそもまだ告白もしてないし……今日、告白する?
いやいや。
いやいやいや。
流石に今日は無理だって。心の準備なんか少しだって出来てない。
待ち合わせ場所のパン屋の前に行くと、そこには既に近田さんが立っていて、走る俺に気が付いて手を数回振ってくれた。
「お待たせ!待った?」
手を振りながら近付いて行くと、気分はもう親友レベル。
「今来た所。お腹空いてへん?」
よし、ここだ!今こそ「米が好き」発言をネタにする時!
「ちょっと空いたかも。食べる?」
俺はここに来る前、家でおにぎりを作ったんだ。具は王道中の王道、梅!ただの梅ではなくて、食べやすく種を取ったかつお梅!味には絶対的な自信がある。
「……やから、ここパン屋の前!」
存じております。けど、これは話題がない中で見つけた唯一のネタ、笑いにしなければ勿体無いじゃないか!
「ちょっと移動しよ」
パン屋の近くには小さな公園があったので、俺達はなんの相談もなくその公園に向かって歩き、2人並んでベンチに座った。
「それ、水田君が作ったん?」
近田さんはそう言いながら、おにぎりの入っている俺の鞄を指差す。
「うん。美味しい……と、思う」
梅が好きかどうかを先に聞いておくベキだった……って、今更だ。それに、おにぎりの美味さが1番感じられるのは梅に違いない。
「じゃあ……食べてみたいカモ……」
え?本当に!?
鞄を開けて差し出すと、近田さんは中からおにぎりを1つ取り出して、その変わりにサンドイッチを入れてきた。そうして見上げてくるもんだから、かなり至近距離で見つめ合う事に……。
「あ、えっと……ちょっと、近い、かな」
ベンチの背もたれに体を預けて目一杯上半身を仰け反らせると、物凄い速さで俺から離れた近田さんは俯いてしまった。
「ゴメン……」
何故謝るんだろう?近かったから?そんなの俺が対処出来なかっただけで、実際は物凄く有り難い出来事……って、何を考えてんだ!?今のなし、今のなしで、えっと……。
「いやっ、俺も……ゴメン」
謝り返してどーするんだよ!
折角一緒にいられる時間を気まずさで無駄にしてなるものか!
ベンチから一旦立ち上がって座りなおし、鞄の中に入れられたサンドイッチを手にとって見ると、それはいつもパン屋で買っているサンドイッチではなかった。
いや、店で売られているような代物ではない。
だってこれは、食品を包む薄くて透明なフィルム!市販されているサンドイッチではない?それって、つまり……手作り!?
「口に合うか分からんけど……」
俯いたまま恥ずかしそうに言った近田さんは、おにぎりを1口食べてからニコリと笑顔で俺の方を向いてくれた。だから俺も1口サンドイッチを食べてジックリと味わった。
上手く表現出来ないけど、食感が何だか違う?
この仄かに広がる甘みは何だ?
「美味しい」
近田さんの手作りだから美味しいと言う訳じゃなくて、本当に美味しい。
「良かった~。米好きやん?やからな、米粉のパンにしてん」
俺が好きな米と、近田さんが好きなパンが一緒になっているサンドイッチ。それを食べ進めていくにつれ覚悟が決まっていく気がする。
言おう。
言ってしまおう。
「近田さん。俺……好き、です!」
一瞬驚いた表情をした近田さんは、スグに笑顔を見せてくれて、そして……。
「そんなに?じゃあまた今度作ったるわ。その代わり、またおにぎり作ってな!」
空回った!
米派の恋 SIN @kiva
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