第3話
俺はもう駄目だ……人間として最低だ……パン屋で働くパン好きな子に対して、白米好きを自分からバラしてしまった。
もう、パン屋には行き辛い。
友達になれる1歩手前まではいっていた筈だというのに、自分から台無しにしてしまった。
唯一会える場所を、自分で遠ざけてしまった。
いや、ちょっと待てよ……これは絶好のネタじゃないか?
俺は米が好きで、近田さんはパンが好き。それはなにも悪い事じゃない。ただパン屋の前だったというのが駄目だっただけで……よし、今日もパン屋に行くぞ!
「今日も来たんや」
8時少し前にパン屋に入ると、近田さんは特に機嫌が悪い感じもなく、だからと言って良い訳でもなく、至って普通に話しかけてくれた。
「えっと……今日もこの後話せる?」
そう言いながらサンドイッチをトレーに乗せようとした所で、
「米好きなんやろ?」
とのキツイ一言を受けてしまった。
これは、もう無理矢理にでもネタにしてウケ狙いに行った方が平和なのだろうが、何をどう言えば笑いになるのかが出て来ない。
安静時に考えたってスグには出て来ないだろう言葉を、こんな土壇場で、しかも見つめられながらじゃあ頭に浮かぶ文字なんてものは皆無!それでも何かは喋らなければ終わってしまう。
今日このまま帰ってしまったら、流石にもう1度来ると言う勇気は出ない。だったら、今日のこの瞬間が最後。
逃げ帰っても、突き進んで撃沈しても最後になるのなら、当たるしかない!
「外で待っとくから」
そう言って何も買わずに店の外に出て、閉店準備をする様子を眺める。
今の俺って、不審者かストーカーだなぁ……。
あぁ、ストーカーも不審者か。
じゃなくて!話題の1つや2つ事前に考えておかないと。
名前を聞く?いや、行き成りだよな……年齢?得意科目とか良いかも知れない。血液型とか星座……誕生日!なら最初は俺から自己紹介しよう。昨日は名前と学校名と学年を言ったから、今日はフルネームと血液型と誕生日……待て、急に誕生日を教えるなんて、何かくれアピールだと思われるかも知れない!別に催促してないよと付け加える?余計にヤラシイわ!
「お待たせ」
店から出てきた近田さんは、手にパン屋の袋を持っている。
売れ残りを買ってきたのだろうか?
本当にパンが好きなんだな……そんな子に俺は堂々と、働いている店の前で言ってしまったんだ、米が好きだと。
なんて失礼な事をしてしまったんだ!
「えっと、昨日は……ゴメン」
謝罪の言葉は頭を下げたと同時に口から出ていたので、俺の素直な気持ちだ。
「急に帰った事?そんなん気にせんでえぇよ」
顔を上げると、首を傾げる近田さんが目の前にいた。
気にしなくて良いと言うのは嘘だ。そうでなければサンドイッチを買おうとした時に「米好きやろ」との言葉は出て来ないだろう。それなのにこうして許してもらえた……素直に謝って心底良かった!
「俺、水田!北高2年で……」
「それ昨日も聞いた!昨日2回聞いたヤツ!よろしく、やろ?友達になろう、やろ?」
その通りでございます!
「O型で……後は、えっと……」
「米が好きで?」
やっぱり、根に持たれてしもとる!
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