第2話

 学校から帰宅するなり風呂に入って歯を磨き、持っている中で1番良い服を着てパン屋に向かう。

 現在の時刻、7時半。

 近田さんのバイトが終わるのが8時という事だから、これ位の時間に行って、いつものサンドイッチ買って、食べ終わる頃には丁度8時頃になる筈だ。

 会って何を喋れば良いんだ?

 まず自己紹介だな。その後は食事にでも誘う?

 お洒落な店とか全く知らないぞ!?えっと、なら遊びに誘おう!

 何処が良いだろう?

 近田さんが何を好きなのかさえまだ分からないんだから、場所選びなんか出来ないか。

 「いらっしゃ……あ、ホンマに来た」

 パン屋に入ると話しかける前に話しかけられてしまい、何を言おうと思っていたのかが完全に頭から吹っ飛んでいった。

 「こ、この後っ!暇?」

 精一杯搾り出した台詞だ。

 「何かあるん?今お客おらへんし言うてみ?」

 何かあるのかって……確かにお客はいないかも知れないが、店の奥にはパン製造してる人がいるんだよな?そんな人がいる中で何を言えと!?

 デートにも誘い辛いし、だからって世間話をすると言う雰囲気でもない。

 いや、いきなりデートに誘うってなんだよ!まずは、そう!それだ。自己紹介だ!

 「俺っ水田!北高2年で……この近所に住んでて……えっと、なんやろ、やからー……近所に住んでてそれでって変なんやろけど、その……よろしくお願いしますっ!」

 ゴチャゴチャしたぁー!

 「なにをっ!?」

 仲良くなる前に全力でツッコミ入れられてしもたぁー!

 もう今日は駄目かも知れない。このままいつものサンドイッチを買ってー……売り切れているだとぅ!

 よし、ここはさっきのをなかった事にして、仕切り直そう。

 「俺、水田って言います」

 「さっき聞いた。北高の2年やろ?で、近所に住んでるって」

 仕切り直し失敗だとっ!?

 「えっと、だからー……友達?そうそれ!友達になろ。な?」

 カウンターに両手を着いてズイッと身を乗り出すと、近田さんは真正面から俺の顔を凝視、そして微笑んだ。

 「変なの」

 そうでしょうとも!

 「えっと、じゃあ……また明日来るわ……」

 「あーちょっと待ちぃな。折角来てくれたんやし、この後ちょっと喋ろっか」

 え……?

 パン屋の店仕舞いを眺めながら、まだ夢じゃないだろうかと自分を疑う。

 この後本当に近田さんは俺と喋ってくれるのだろうか?店の裏口からこっそり抜け出してそのまま帰ってしまったとか……。

 「お待たせ~」

 本当に来た。しかもお待たせって、かなり仲良さ気な感じじゃないか!?これはまさか友達になれた?

 「えっと……」

 なにか気の利いた台詞出て来い!まるで恋愛小説に出てきそうな物凄い台詞!お洒落かつ大胆、それでいて……なんだろう?

 「ん?」

 不思議がられている!

 このままじゃ不審者になってしまう。

 何でも良いから言葉……次に話を繋げられるような……そうだ!好きな物を言って、そして聞けば会話になるじゃないか。

 「俺は白米が好き。近田さんはなにが好き?」

 よし、これはかなりちゃんとした会話になる筈だ。

 「ここ、パン屋やねんけど」

 やっちまったぁ~!!

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