米派の恋
SIN
第1話
俺は、パンよりも白米の方が好きだ。
炊きたてのホクホクして柔らかいのではなくて、ちょっと時間が経って少々硬くなった白米が、好きだ。
だから、なんちゃらベーカリーとか洒落た名前のパン屋になんて、全く、これっぽっちも、微塵にも興味がない。
自分で握った握り飯の方が美味しいと思える位だ。
「いらっしゃいませー」
自動ドアが開いて建物の中に入ると、パン独特の香ばしい匂いに包み込まれた。
トレーとトングを手に取って店内をグルリと見渡すと、レジに立っている店員さんと目が合い、ニコリと笑顔を向けられた。
名札には近田と書かれているから、近田さんだ。
今日こそは何か話しかけようと気合を入れ、いつものサンドイッチをトレーに乗せてレジに並ぶ。
良いお天気ですね?
ここは店内だぞ。
笑顔が素敵ですね?
行き成り不審者が過ぎる。
今度遊びに行きませんか?
近田さんと呼んでも良いですか?
今日この後お暇ですか?
名前を教えてください?
「あの……お客様?」
いつの間にか前にいた人の会計が終わっていた。
「あっ!すいません」
じゃなくて、話しかけろっての!
「180円になります」
「あのっ!近田一緒に今度……あれ?」
噛んだー!
大事な所で噛んだったぁー!
「どーしたん?」
不思議そうに、でも笑いながら近田さんは俺の顔を見ていた。
「この後、ちょっとえぇかなーって……」
少し斜め下にある目を見る事が出来ず、レジに記された180の数字を見つめる。
「バイト終わるん8時頃やねんけど」
腕時計に視線を落とすと現在の時刻は6時ちょっと前。後2時間もある。そして俺の後ろにはレジ待ちをしている他のお客さん達が列を作っていた。
「じゃあ明日!明日の8時ちょい前に来るわ」
勢いで言い切り、握り締めていた180円を小銭受けに置いて店を出て、緊張と初めて喋れた嬉しさで上がりまくったテンションをどうにかする為に走って家に帰った。
俺は、少しだけサンドイッチが好きになった。
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