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 興奮が冷めてなかったのかもしれない。


 いつもなら日曜は、普段早い分もう少し遅くまで寝ているのにもう目が覚めてしまった。


 当たり前だけど、寝ている彼を初めて見た。


 体はうつ伏せに、顔だけこちらを向いて眠る彼は、気持ち良さそうに静かな寝息を立てている。

 Tシャツの袖から伸びる腕は私を包むように重ねられていて、すうっと一筋浮き上がった血管も見える。


『綺麗……』


 額からすっと線をひいたような鼻、よく見たらきめ細かい肌。

 この唇が、私に触れて……この指が、私を困らせて……私は……ここと、ここにキスをして……あとは――



 ムラムラする、というのはこれかもしれない。



「……すき」



 小さな小さな誘惑。

 誰も気付かないほど小さく放った声掛けは、起きないとわかっているから出来る大胆な行動。



「……菊地さん」



 段々と欲求が増してきた私は彼の手に指を絡めてみる。それでも足りずに、モゾモゾと彼の胸に顔を寄せてみると規則正しい心音と呼吸に包まれた。



「ん……」



 知らない私が顔を出す。

 首を伸ばして近付いた彼の唇に最初は軽く触れただけだったのに、どんどん歯止めが効かなくなる。



 頬にキスをして、首筋へと移った時だった。



 寝ていると思っていた彼が勢いよく上半身を起こして私を覆った。




反則フライングだよ」




 ふわりと微笑んだ彼は、慌てる私の首もとに顔を埋める。



「菊地さん、くすぐったい」

「聞こえなーい」

「ちょっ、ダメ、あはははははは」



 首も耳も脇腹もくすぐられ身をよじらせると、彼は物凄く楽しそうに声を上げて笑った。



「目、覚めちゃったね」

「そうですね」

「ランニングでもする?」

「河川敷!私も走ってみたいです!!」



 くるりと起き上がり、彼を見下ろした。



「ジャージ持ってくれば良かった!!」



 そう言う私を見て、またケラケラと笑った彼も同じように身体を起こす。




「準備しますか!!」

「うん。……でも、その前に」




 彼は、メールにハートマークを付けたりしない。甘い言葉を囁くタイプでもない。




 ――と思っていたけれど。




「おはよう、のキス」

「可愛いよ、のキス」

「愛してる、のキス」




 そう言いながら私にたくさんのキスを落とす彼を見て、実は『甘えん坊さん』かもしれないと――私は嬉しくなった。




 END

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雨が上がったそのあとも。 嘉田 まりこ @MARIKO

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