ようこそ仙界! なりたて舞姫と恋神楽/小野はるか
角川ビーンズ文庫
一幕
一幕
初夏の日差しがやわらかな新緑の
年のころは十代半ば。
(まるで、わたし……お
少女──あおいは
(
足の悪い母は家で
日の出より早く起きて家事をこなす下働きの仕事は
(いつお
あおいがぼんやりと
あおいは貧しくみすぼらしい下働きの身でありながら、なんと良家の
きっかけは初春の
奉公先の長女が祭りの花形である
そうしたある日、
その後どういういきさつがあったのかは、
ただ奉公先と母のもとへ、
それからはもう、あっという間の出来事だったように思う。とても現実のこととは思えなくて、
「こんな夢みたいな話……いつ、覚めるんだろ」
ぽつりと声に出してつぶやいた。するとそれを合図にしたかのように駕籠の歩みが止まる。
駕籠を
「ありがとう」
礼を言うと、
周囲はずいぶんと開け、見上げれば青い空、一方には雨が降れば
立派な駕籠とはいえ
「ここは、どのあたりかしら?」
「山の道だ」
何気なくたずねると、低く短い答えが返る。その声にあまりにも
見上げるほど長身の青年。彼は良家の旦那様からの使いだ。彼が奉公先や母のもとを訪ね、話を通し、結納金を運んできた。何度か顔を合わせてはいた気がするが、夢見心地だったあおいは今はじめて彼の顔をしっかりと見た。
年は
印象的なのは目だった。顔立ちははっとするほどに整っているものの、きつい印象を
「お前、名はなんと言う」
「あ、あの、あおいです。
「ではあおい。ここから先は駕籠での旅は終わりだ。先を急ぐからな」
「あ、はい。えっと、走るとか?」
「
手の
あおいは
(……しかも、さっさと行けって……あっちに!?)
おろされた駕籠は岩山側に。青年はその駕籠を背にして、あおいを向いて立っている。つまりあおいは断崖絶壁を背に立っているのだが、おかしいことに青年が行けと命じているのは左右に続く山道のほうではなく、その断崖のほうに見える。
まさか飛び降りろというわけではないだろうに。
「か、駕籠は、駕籠はどうするんです? まさか置いていくわけじゃないでしょう?」
助けを求めるように陸尺兄弟を見れば、二人はそろって首をふった。
「あっしらが担いで帰りやす。少し
「先にって、そこまで
「ごちゃごちゃ言うな。急いでるんだ、俺は」
「ちょ、ちょっと、まって。あぶないでしょ!」
「危ない? いってる意味がわからない。ほら、さっさと飛ぶんだ」
「戸部? いや、飛ぶ? あなたなに言って……」
あおいが
「こ、こないで!」
まるで
あっ、と思ったときにはすでに
階段を
(──わたし、死ぬんだ)
悲鳴が出たかどうかはわからない。
ただ落下する風圧と、断崖から伸びた小枝が体中を打ち
意識を手放す手前の、ほんの一瞬。一瞬だけ。
かすんでいく青空に、青年の姿が見えた気がした。
(……ばかばかしい)
あおいは目を閉じた。
(
意識が暗転する。
けれどその
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