フランツとヴィルヘルム-9
雨が降っていた。
そびえ立つビルの群れの中、何故そこにあるのかも忘れられ、誰も気に留めなくなった廃墟があった。
辛うじて道路に設けられていた外灯だけが、その建物を照らし出す。
しかしそろそろ寿命なのだろう、時折パチパチと音を立てながら、激しく明滅していた。
変則的な光は、忘れ去られた廃墟の一室にも僅かに入り込んでいた。
厚く埃が積もったその室内には、頭部を失った男が壁に凭れて座っていた。
部屋の中心には、一つの画架とキャンバスがあった。周囲には画材が詰まった鞄や画材そのものが散乱し、作業中で絵描きが退室しているだけに見える。
しかし、キャンバス一面に描かれた世界は既に完成していた。
描かれているのは一人の男。
陰鬱に死に損なって、望み通りに死を与えられた男。
自らの、歓喜に微笑む頭部を抱えた元軍人の男は、戯画絵師の描いた世界で赤色の雨に打たれていた。
それが救いなのだと主張するように。
キャンバスの下部には、乾いて茶色くなった赤でこう記されていた。
“怨嗟が僕等を殺さずとも、雨音が僕等を殺すだろう”
雨音が僕等を殺す 咳屋キエル @sekiel
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