第7話 E-5
「E-5」
笑う仮面 偽りのグルーブ
水しぶきは弾け 鏡の向こうで踊る音符
彼女は煙を吹かして笑い
グラスが割れて 渇いたサウンドは 真夜中に消えていくのさ
壁を擦り抜ける彫刻
メイクに隠れた君の 素顔を暴けばすぐに
ドライで冷めた僕の心に届くよ
君は美しい 透き通る爪先は花々のように煌めいたままで
口紅は輝きつづけて 体を揺らす君の姿は終わりない
夢を探す君を誰も止められない
作り物のその世界が
リアリティを壊し 君の背中で踊る五線譜
道化がおどけて ジャグラーが歌い
ボーダーを越えて 神秘の船は 光の波にこぎだしていく
宙に浮かぶ彫刻
ダイヤに飾られた 君のリアルを覗けば
ジャンキーで冷えた僕の心に響くよ
君は麗しい 擦り抜ける指先は 鳥の羽根のように羽ばたいたままで
マニキュアは輝きつづけて 髪を乱す君の姿は限りない
翼欲しがる君を誰も止められない
二人は体を抜け出す イマジネーションを抱き締めたまま
僕らはあの空を羽ばたける クジャクの羽根になる
君は美しい 突き抜ける眼差しは 花々のよう煌めいたままで
髪の毛をなびきつづけて 心を震わす君の姿は終わりない
リインカーネション欲しがる君を誰も止められない
僕らは君のすべてが欲しい
裸の心を持つ君は空へと
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「サイケデリックだね。でもただサイケ、幻覚的というだけではくくられない魅力がこの曲にはあると思う。本当はもっと長くてもったりとした曲だったんだよ。だけどやっぱりプロデューサーにダメ出しされてね。この形になった」
落ち着いた雰囲気のジャズバーで、このサイケデリックで、かなり前衛的な楽曲の解説をしてみせる米柄は、とてもシュールだった。彼は赤いネクタイを何度も締めなおし、少し神経質な雰囲気さえ漂わせて、ワインを喉元に流し込む。彼はこの曲の逸話について、さらに詳しく話して聞かせる。
「タイトルの『E-5』はエゴの当て字なんだけど、面白いよね。こういう言葉の遊び心は。その分少し詩の内容が遊びになっていないところがある」
口元に手をあてがい、少し思索的な趣さえ見せながら回想していく米柄は、とても魅力的だ。彼はこの謎めいた詩の『E-5』を分析してみせる。
「当時は、『裸の心を持つ君』は美しい、と単純に歌ってたんだけど、その詩に『エゴ』というタイトルをつけたのは、まさに無意識の勝利だと言えるんじゃないかな。だって人は、謎や秘密の一つや二つを持つことに、喜びを見い出すものだからね。その君の『裸の心』が欲しいなんて、一面エゴそのものじゃないか」
そう否定的な見解をしながらも、彼はこの楽曲への賛辞を自ら惜しまない。
「この曲は、モッちゃんと僕の共作なんだけど、初期のライブでは欠かせない曲になった。この曲を聴いていると誰しも内面を暴かれて、裸の自分をさらけ出すしかなかったというわけだよ。リスナーを虜にする秀作だったと言っても言い過ぎじゃないね」
米柄は往時の興奮を思い出すかのように、ワインのグラスを傾ける。彼にとっては詩人としての成長という点でも、「E-5」は欠かせないものだったらしい。私は毎回のこと、エピソードの締めを探すかのように、最後にこの質問を米柄に投げかけてみた。
「大宗はこの曲を何と?」
しばらく沈思して米柄は笑った。彼にとってはすべてが良い思い出らしい。
「大宗は特に何も言ってなかったな。この曲については。彼は裸の心をいつも持ち歩いている、いや裸身で歩いているような男だったから、何の感慨も持たなくても一面不思議はないんじゃないかな」
私は米柄と不世出の天才ドラマー、大宗の絶妙の相性について、米柄の言い回しから想いをはべらせていた。
記憶の欠けたチャーリー・ブラウン @keisei1
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