うつ病同士の恋愛事情

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第1話うつ病同士の世界

「おはようございます」



「・・・おはようございます」


朝の日当たりが良い公園で私たちはここでよく出会っていた。



私はうつ病である。年齢は30代前半である。会社のサービス残業と毎日のノルマに追われ、いつの間にか気づいたら、朝起きれなくなっていた。結果、医者からうつ病と診断された。



私は会社を辞めて今現在リハビリ中である。



彼女もまたうつ病であった。彼女の年齢は18歳らしい。彼女は高校でひどいいじめを受けて、それから2年間も引きこもりになっていたらしい。そしてうつ病と診断されて、彼女も今現在リハビリ中らしい。




私たちの出会いは6月の梅雨の時期だった。その日は梅雨なのにすごく良い天気であり、私は近くの公園まで散歩に行った。



公園に着いたらそこには平日なのになぜか高校生らしい少女がいた。


私は公園を1周して少し汗をかいて、そして自販機で飲み物を飲んだ。薬を飲んでいる副作用のせいなのか、どうしても水分をたくさんとってしまう傾向があるらしい。



私は出てきた飲み物を一気に飲んで少しベンチに座っていた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!」


気づいたら私はいつの間にか眠っていた。



「おはようございます」



「うわっ!」と私は大人げない声を上げてしまった。





私の目の前には朝に見た少女がいた。それが彼女との最初の会話だった。



彼女はどうやら、私がずっと眠っていたのが心配だったらしくずっといてくれていた?らしい。



「・・・・・どうもありがとうございます」



「いえいえ」



私たちはその日を境にたまに公園に私が行くと彼女もたまにその公園にいた。




そして、私たちは次第にお互いのことを言うようになった。



「大変でしたね」と私が言うと




「大変でしたよ」と彼女は言った。



「あなたも大変でしたね」彼女はそう言うと



「大変でしたよ」と私も言った。



「ふふふ」と彼女は少し微笑んでいた。



私はその笑顔が素敵だった。




「どうですか、調子は?」



「まあまあです」私はカウンセラーにそういいながら、今の状況を言って言った。



「そうですか・・・・・・少しまだ難しそうですね」



私はカウンセラーの話を終えた。時刻は夜の7時を回っていた。私は夜の公園を一人で少し回りたいと思い、また自販機で飲み物を買って飲みながら1周していた。



夜の公園は静かだった。静かで、静かで・・・・消えてしまいたい時がある。カウンセラーと話すのは疲れる。そして、これからのことを考えると毎日が不安で眠れないときがある。



病気のせいなのか・・・私は1周で終わるつもりが気づけば4周も回っていた。




「・・・・・・疲れた」私はベンチでまた飲み物を買って少し座っていた。



「お疲れ様です」



「ノアッ!」と私はまた大人げない声を出してしまった。


「何で!君が!」



「私は夜にも公園に来ることはありますよ」




「そうですか?どうですか、体調は?」



「まあまあかな」と彼女は言ったが


「嘘です。きついです」と彼女は付け足した。



「今日久しぶりに高校に行ったんです。そしたら私の同級生たちはみんな部活を引退して今は受験勉強中。私をいじめてた子たちも受験勉強真っ只中。ほかのクラスメイトも受験勉強真っ只中」



「ふふ、まるで私なんか最初からいないみたいなの。先生も生徒も学校もまるで私という人間が最初からいないみたいにまるで何も変わってないの。変わったのは私だけ」そういうと彼女の眼には涙がたまっていた。





「先生たちは私にこれからどうするか聞いてきたわ。でも、私はもうあの学校に戻りたくないと分かったの」



「ほんとに嫌になる。せっかく引きこもりから外に出たらまるで私の居場所がどこにもないなんて」




「両親はなんて言ってるの?」



「両親は・・・・・何も言わなかったわ」



「母親も父親も私のことは完全に腫物扱いよ。用は私を家から出したかったのよ!」彼女は叫んでいた。



「私なんか誰も必要としないわ!これからもよ!私の人生なんかもう終わりなのよ!」




「そんなこと」



「そんなことあるわよ!どうせこれから年を取ってもまともな人生なんか送れないわよ!」



彼女は叫んで、叫んで、叫んで、そして泣いていた。



叫び終えた後、彼女は私の横にきてベンチに座った。




「疲れたわ」



「疲れるよ」




「おじさんは疲れたの?」



「疲れるよ」



「もう死にたい?」



「・・・・・・・・・・・・かもね」




「一緒に死ぬ?」




「・・・・・・・・・・・それは」




「冗談ですよ」


そういって彼女は公園から去っていった。私はそのあともしばらく公園に座っていた。



「死にたい・・・・か」



私はなぜまだ生きているのだろう?



それからも私は彼女と公園で会った。



そして、月日が流れ、12月になった。



「ハイこれ!」と私は彼女からケーキをもらった。



「なにこれ?」



「何って?おじさん。今日はクリスマスイブだよ。普通、ケーキかプレゼントは用意しないと」




そういって私は彼女からフォークをもらってまたいつものようにベンチに座って一緒にケーキを食べた。



「おいしいね」



「そうだね」




私たちはケーキを一緒に食べながらいつものように公園の風景を見ていた。冬休みなのか、そこには学生がちらほらいた。



「あの子たちはきっと今人生幸せなんだろうなあ」



彼女は羨ましそうにその学生たちを見ていた。



「そんなことはないよ。みんな人生いろいろ悩んでいるよ」




「そうかもね」


「でも、私はあの子たちが羨ましい」



「普通の日常に戻りたい」




「戻れるさ」



「そうかもね」



「そうだよ」



「頑張るわ」




カノジョはそういうと私にキスをしてきた。


「ワっ!」とまた私は大人げない言葉を言った。



「どう、女子高生?にキスされた気分は?幸せ?」


「それはまあ、不幸せな人はいないよ」



「じゃあ、おじさんは今は幸せなのね?」



「そりゃ、まあ、そうかな」


「良かった。こんな私でも人を幸せにできた」


「もしも良かったらおじさん、私と付き合う?」



「へっ!」とまた私は大人げない言葉を言ってしまった。


「お互いうつ病同士だし、相手のこともよくわかるんじゃないかな?」


「いや、さすがにそれは。病気とかじゃなくて年齢が」



「今の時代、年齢なんて気にしてないわよ。どうおじさん私と付き合う?」



「それは」


「考えといてね」


その日はそれで彼女と別れた。



それからも私たちは二人で花見をしたり、一緒に遠足気分でお弁当をお互いに作ったり、一緒に自分たちの似顔絵を描いたり、そんな時期を二人で過ごした。


だが、そんな時間は長くは続かなかった。



その日、私はいつものように公園のベンチに座って飲み物を飲んでいた。すると、知らない男性が私のほうに歩いてきた。



その人はカノジョの父親だった。


そして、カノジョが自殺したことを聞いた。



首吊り自殺だった。彼女の部屋に遺書らしきものはなかったらしい。


「それでは」カノジョの父親はそれだけ言って去っていった。







カノジョは・・・・・・・・・・カノジョは・・・・・・・カノジョは・・・・


カノジョは・・・・・・・・カノジョは・・・・・・カノジョは・・・・・



カノジョともう出会うことができない。




私は・・・・どうしたらよかったのだろうか?




疲れた。すごく疲れた。



私は、それから半年間ずっとその公園に行ってベンチに座って飲み物を飲む日々を過ごしていた。雨の日も、晴れの日も、曇りの日も。ずっとずっと彼女を待っていたのかもしれない。



だが、彼女は現れない。わかっていた。彼女はもういないことに。だが、それでも来るかもしれないと思っていたのかもしれない。



私はそれからカウンセラーと医師と相談してリハビリをもう一段階上げるとして、アルバイトから始めることになった。


アルバイト先はチェーン店のハンバーガーショップだった。



「いらっしゃいませ」私は30代で慣れない格好をしてその職場で仕事をした。周りのアルバイトの子たちはみんなカノジョと同じように10代の子たちだった。




「ねえ、これ違いますよ。しっかりしてください!」



「オーダーミスじゃないですか!何してるんですか」



私は10代の子たちに言われながらも何とか仕事をこなしていった。




「・・・・・いらっしゃいませ」



私は毎日毎日仕事をしては帰り、たまにまたあの公園にいった。



そして、さらに月日が流れて、私は正社員として新しい会社で運よく働けるようになった。


病気も順調に回復して何とか人生のレールにまた戻れるようになったのかもしれない。



「お疲れさまでした」



私は仕事は厳しいが何とか今の仕事についてこれた。



私はそれから薬もなくなり、カウンセラーも病院も行かなくてよくなった。




そしてさらに1年が過ぎた。



毎日仕事をして、帰り、その時間は悪くなかった。だが、たまに思うのはカノジョといたときの時間だった。まるであの時間が夢のような・・・・そして時間の概念から離れた世界のような。彼女と一緒に過ごしたあの楽しかった時間はきっとこれからもないだろう。



「あなたそろそろ起きたらどう?」



「もう少し」


さらに1年後私はいつの間にか結婚していた。職場恋愛だった。妻のお腹には赤ん坊もいる。



「今日は休日だしどこか一緒に行きましょう」



「・・・・・そうだね」



私と妻は身支度をして映画を見て、買い物をして一緒に一日を過ごした。




「少しこの公園によってもいいかな」私は妻に帰る前にそういった。



「いい公園ね」



「そうかな?」


「いい公園よ。すごく緑も多いし広いし。もーーーー、もっと早く教えてくれてもよかったのに!」



「ごめん」


「別に誤くても・・・・どうしたの?」



「えっ」



「泣いているわ。何々そんなきついこと私言っちゃった?」



気づくと私の目には涙が出ていた。



「そんなんじゃないよ、幸せだなあと思って」


「何言っているの。桜の季節だからって少し頭がぼーーっとしてるんじゃないの?」



「そうかもね、うん、そうだね。きっとそうなんだよ」


「きれいね」妻はそういって公園の桜を見ていた。


「ほんとだね。すごくきれいだ」



「変わらないね、おじさんは」


「そうだね」



私はそういって公園の桜を3人で見ていた。
























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