任命

任命

　とあるガソリンスタンド。

　セルフ給油が終わって男が会計をしていると、ガソリンスタンドの若い店員が近づいてくる。

　店員：「ただ今キャンペーン中です。スピードくじを引いてください」

　男性：「はあ、それではこれで」

　店員：「あ、これはすごいですねえ。一等賞です。先着一名様だけなんですよ」

　男性：「え？本当？」

　店員：「本当です。おめでとうございます」

　男性：「いやあ、ありがとうございます」

　店員：「では、こちらにサインをお願いします」

　男性：「はいはい……ところで、この任命承諾書というのは？」

　店員：「いやいや、お気になさらず」

　男性：「気になります。なんですかこれは？」

　店員：「いやその、社長の任命承諾書でして」

　男性：「は？」

　店員：「ですから、ただ今から貴方が当社の社長です」

　男性：「ちょっと、ちょっと、いくらなんでもそれは」

　店員：「いいのです、お気になさらず」

　男性：「気にしますって。大体、公正取引委員会が黙っていないでしょう」

　店員：「だから、大丈夫ですって」

　男性：「だって、賞品の総額には上限があるじゃないですか」

　店員：「大丈夫です。うちは大赤字ですから。」

　男性：「……」

　店員：「……」

　男性：「つまりだ」

　店員：「はあ」

　男性：「私を社長にして、負債だけ背負わせようということかな」

　店員：「まあ、ありていに言えばそういうことになるでしょうか」

　男性：「いらない」

　店員：「いやいや、御家族とか知人に譲って頂いてもいいのですよ」

　男性：「そんなもん、いらんわい！」

（　終わり　）