妖精の卵

長島東子田川

第1話

人は誰しも妖精の卵とともに生まれてくる。小さな卵を抱いて生まれてくる。

生まれた卵からは大人の手のひらほどの大きさで羽根が生えている妖精が生まれる。妖精は主人をマスターとよび甲斐甲斐しく世話をする。


美しい心を持つ人は妖精も美しく、醜い心を持つ人は妖精も醜い。


「マスター、マスターのおかげで私は今日も美しくいられますわ。ありがとうございます。マスター」


「そんなことないよ。君が綺麗なのは僕とは関係ないよ。君は生まれたときから綺麗なんだから」


人は美しい妖精の自慢がしたいがために美しい行動を心がけるようになった。犯罪も減りゴミを捨てる人もいない。常に店舗は美しく、常に親切であることを皆心がけた。それでも人はそう簡単には変わらない。学校で一番の美女は妖精を見せることはない。みんなが妖精を見たがるのに見せないのは彼女の美しさが見かけだけだということ。今日もいつもと変わらない誰もが見とれるような笑顔で、妖精は寝ているだけだと嘘をつく。本当にヘドが出る。本当に自慢したいのは自分の見た目ではないのか?


妖精は人の心を如実に表す。僕の妖精もそうだ。


「マスター、元気を出してくださいませ」


継ぎ接ぎだらけの黒いドレス。顔半分を覆うほどの眼帯。真っ黒な髪はボサボサ。彼女が僕の妖精だ。僕は彼女を隠すことはしない。だって、こんなに美しく優しいのだから。


「僕は大丈夫だよ。サリア、また汚れたね?」


「マスターが私をこうなさるのでしょう?ふふ、私はマスターが笑ってくれるなら構いませんわ。いつだってお側にいますわ」


ほら、どんなに繕われた美しさよりも彼女は美しい。僕は彼女を愛していた。

例えまわりから理解されなくても、病気だと言われても彼女以上に愛せる人間がいるとは思えない。


「マスター?どうかなさいましたか?」


「なんでもないよ。サリア、出掛けようか」





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