6-人の意を繋いで

 それから、10年。


 正式にウルミの街とその周辺の領主として、チャタラ国王に仕えることになった君主ロードレスパー・ウルミは、着実にその勢力を伸ばしていった。


 レスパーは領地内の土地や道路を整備し、輸送網を作って流通を握った。この時代、荘園領主は自らの領地で小作人を奴隷同然に働かせはするものの、生産性を上げるために領地の整備、経営を行うといったことは一般的ではない。旧文明崩壊後の暗黒時代に、力を持った者が持たない者を搾取する――その構図に一石を投じたと後世に評価されるレスパーの領地経営は、もちろん大方ヤオの入れ知恵によるものである。



「別に大したことはやってないさ。レスパーの言うとおり、世界が僕らをしているだけだよ」



 それはまさに、世界がレスパー・ウルミを無視できない結果を生んだ。


 旧来の、貴族や騎士は民衆支配し、搾取することが許された存在であるという価値観――それを破壊するレスパーの治世は、周縁の領主たちには脅威として受け止められたのである。


 レスパーの庇護下に入る集落もあったが、それ以上に領土争いは絶えなかった。しかし、経済的な優位はそのまま、軍事力へと繋がる。騎士の乗る機甲全身鎧フルプレートだけでなく、平民の志願者からなる自走一輪車輛モノローダーや装甲車、歩兵なども動員したレスパーの軍は、混成部隊を戦略的に運用することで、敵対領主の伝統的騎士団を次々と打ち破っていった。


 「騎士の名誉ある戦い」を標榜する諸侯にとって、その戦い方がまた、反発を浴びたのは言うまでもない。



 そして――10年目の春。レスパーに転機が訪れた。


 チャタラ王の姪にあたる、公女ソミアとの縁談が打診されたのである。


 * * *


「レスパーもとうとう年貢の納め時か!」



 髭を蓄え、以前よりもいささか太ったカルノが、エールの瓶を掲げて笑う。カルノ自身は、数年前に結婚し、既に子どもが生まれていた。


 カルノの言葉に、その場がどっと沸いた。初期からレスパーにつき従っている仲間たちは今、みな幹部の地位にいる。それでも、酒宴の場となれば昔のままに、こうして軽口が飛び交うのが常だ。



「いやいや、まだわからねぇぞ? そのお姫様が美人じゃなかったら……」


「チェンジ、ってか? レスパーならやりかねないな!」



 その真ん中で、レスパーはむすっとした顔をしていた。まったく、昔からの仲間とはいえ、無責任なことを言うものだ。



「さすがに、王様からの打診を断るのはねぇよ……」


「いやでも、会ったこともない相手だろ? 俺なら迷っちゃうなぁ」


「別にいいんじゃね? 嫁がひとりでなくてもいいんだろ、騎士ってのは」



 レスパーの気分を余所に、仲間たちは盛り上がる。その中で、ヤオと――そしてリファだけが、無表情にそのやりとりを聞いていた。


 ソミア姫を嫁として迎えれば、レスパーは王族の縁戚ということになる。それはつまり、レスパーが王位の継承権を持つということに他ならない。


 そうなれば、レスパーにこの縁談を断るという選択肢はない。だからこそ、こうして無責任に盛り上がることもできるわけなのだが――



「……これで、今度は王位争いにも参加することになるわけだ」



 ヤオが発した言葉に、場が凍りついた。



「なんだよそれ、どういうことだよ」


「そのままの意味さ。今まで敵対していた領主たちはもちろん反発するだろうし、他の王位継承権を持つ連中とその取り巻きからも警戒されることになる。ま、衝突は避けられないだろうね」



 ――そうだ。


 レスパーは自分の中のもやもやとした不安が形を成すのを感じた。


 チャタラの王が自分を取りこみたい意図はわかっている。領主や諸侯の上に立つ存在であるとはいえ、チャタラ王の権力は領主たちに押されているのが現状だ。王で会っても、領主の支配に口を出すことはできないのだ。結果、領主たちは勝手に争い、勝手に領土を広げて王の言うことを聞かない。だから、今勢いのあるレスパーを王権側に引き入れたいのだろう。


 より強大な権勢の側に立つということは、より多くの敵を持つということでもある。ましてや、レスパーのような新興の勢力であれば、その反発は大きなものとなるだろう。



「……俺たち、いつまで戦えばいいんだろうな」



 呟くように、リファが言った。



「……こうして、喰うものにも不自由しなくなってさ。もう充分じゃないのか? まだやるのかよ?」



 リファの言葉に答える者はいなかった。レスパーはリファを見た。その隣で、ヤオが冷たい顔をしていた。


 レスパーは口を開いた。



「……俺たちからふっかけたケンカだ。後戻りはできねぇだろ」


「誰とのケンカだよ!」



 リファの声は、悲鳴のようにも聞こえた。



「元々、俺たちゃ生きるために戦ってただけだろ! 確かに騎士とか貴族とかは気に入らなかったけど……でもそんな、大方を敵に回してまでなにとケンカしてるんだ?」


「……リファ?」


「お前はいいよ、レスパー! 世界とケンカするんだって言ってたもんな。本望だろうさ。だけど俺たちはいつまで戦えばいいんだ?」



 ロイが立ちあがり、リファを制止しようとする。



「おい、よせよリファ……」


「いや」



 レスパーが強く低い声で言った。



「……リファ、お前の言ってることもわかる。確かにな、話がここまででっかくなるなんて、俺だって思ってなかったさ」



 みな、黙ってレスパーの話を聞いていた。レスパーはエールを一口煽り、言葉を継ぐ。



「俺たち、なんにも持たずに生まれて、喰うにも困って、世界から無視されてて……最初は、俺たちを無視してる連中にひと泡吹かせてやろうって、そんだけだったんだ。みんなそうだろ? だけど」



 レスパーは一同を見まわした。



「ここまでやって来て、なんとなくわかった。騎士だって平民だって、みんな同じなんだ。


「なんだよ、それ……」



 リファが困惑した返事を返した。ヤオがその横で、少し笑ったようだった。



「だから俺に出来るのは、俺を頼って集まって来た仲間を守り、ちょっかいを出してくるやつらをぶん殴ることだけだ。力ある者が、力のない者を守っていく……その戦いに、終わりはないんだと思う。それが俺たちの仕事なんだ」



 リファは黙って下を向いていた。


 不意に、カルノが立ちあがった。



「色々あったが、俺たちはここまでやってこれたんだ。そして今、レスパーが王様になるかもしれないってとこまで来た。10年前は想像さえ出来なかった事じゃないか? なぁ、どうだみんな、改めてもっと、先の未来を目指してみようじゃないか!」



 同調する声が上がり、再び宴席は活気を取り戻した。


 レスパーとリファ、そしてヤオはその中で、喧騒の下に潜るような視線を交わした。


 * * *


 その数ヵ月後。


 レスパーはソミア姫との正式な婚礼の儀を交わすため、チャタラ王国の王都へ向かっていた。


 レスパーが本拠地としているナグエルプールの城から、チャタラの王都・リベルダムへは車で丸1日の行程だ。レスパーと護衛の一団は昼ごろ出立し、途中で一泊して翌日到着する予定で移動をしていた。


 レスパー自身は専属の運転手が運転する乗用車に乗り、その前後に装甲車が2台、護衛の機甲全身鎧フルプレートが4騎並走する。この10年、乗り続けているレスパーの愛機、『ウィンドライダー』は置いてきていた。


 婚礼の儀をいう正式な儀式に参加するという以上、大軍を引き連れてものものしく移動するわけにもいかない。それに、留守中の周辺領主たちの動きも気にかかる。念のため、同じくらいの編成の部隊をもう2隊、別ルートで王都に向かわせている。



「気にし過ぎだろう」



 レスパー自身は眉をひそめてそう言うのだが、周囲がそれを許さなかった。特にカルノが護衛と影武者の用意を譲らなかった。



は今や、有力貴族の一画なのです。そんなに身軽でいてもらっちゃ困ります」



 他の部下たちの手前ということもあり、真面目腐ってそういうカルノは可笑しかったが、自走一輪車輛モノローダーひとつで飛びまわっていた時代が懐かしくもある。



「力の代償としちゃ、安いもんなのかな……」



 車の後部座席でひとりため息をつく。しかもなにしろ、これからは家族を持つことにもなるのだ――昔のようにはいられないことは名残惜しくもありつつ、守るものが出来る、ということにもレスパーは居心地の良さを感じていた。



 その夜に宿を取ったのは、街道沿いに建てられた正教オーソドックスの寺院だった。正教は諸侯の庇護を受けつつも、荘園を持ち独自の勢力を持っている。友好関係にある貴族の館に世話になることも出来たのだが、後々の影響や諸侯、王家との関係性を鑑みると、形だけでも俗世から離れたところに泊まるのが好都合だった。


 わずかな護衛だけを連れ、寺院に入る。レスパー自身は正教オーソドックスの神を信奉しているわけではなかったが、その合理的な考え方や学問の有用性については一目置いているつもりだ。自身の領土内に、正教の運営する大学の設立を許可していることもあり、その関係性は良好だと言える。



 その夜。


 客室で暇を持て余して酒をのみ、することもないので早々に寝てしまおうかとレスパーが思っていると、ドアをノックする音がした。



「なんだ?」



 外にいる護衛に声をかける。



「レスパー様。何者か、ここに近づく一団があります」



 護衛の声が返って来た。


 不穏な空気を、レスパーは察した。用心のため、携行光銃ブラスターを手にしてドアへと近付く。内鍵を開け、ゆっくりとドアを開くと、護衛が顔を覗かせた。



「外からの報告です。どうやら、機甲全身鎧フルプレートも混じっているようで……」


「どういうことだ?」


「万が一ということもあります。すぐにここを発って……」



 そこで、護衛の声は途切れた。


 その身体がくの字に曲がり、不自然に折れ曲がって倒れるのを、レスパーは見た。


 レスパーは手に持っていた携行光銃を構え、向き直る。暗闇の中に、人影があった。



「……リファ?」



 窓から差し込む月明かりに、幼さを残したリファの顔が浮かび上がる。



「お前、どうしてここに……」


「……もうすぐここに、ミファド公の手勢がやってくる。あんたを殺すためにね」


「……!」



 レスパーは歯噛みをした。ミファド公とは初期のころに支援を受けて以来、同盟関係にあった。お互いに信用しているとは思っていなかったが、ここでこういう行動に出たか――



「……くそっ……それじゃ、お前も一緒に脱出を……」


「動かないで」



 レスパーはその時、リファが自分に銃口を向けていることに気がついた。冷静に考えれば、護衛を撃ったのもリファだったのだろう。



「……お前、まさか……」


「レスパー……あんたはいいよな。かっこいいよな。王家の一員にまでなるとかさ、やっぱすげぇよ、あんた」



 暗闇の中でその表情はよく見えないが、リファの声は今にも泣きだしそうだった。



「あんたはもう、俺たちのリーダーじゃない。ウルミの領主であり、チャタラの貴族なんだよな……俺たちが憎んで、ぶっ倒してやろうってしてた、その貴族なんだよな……」


「リファ、冗談はよせよ。俺は昔と変わっていない。仲間を守りたいだけだって、前にも……」


「その仲間にはさぁ! 俺たち含まれてねぇんじゃねぇか!?」


「……!?」


「ああそうさ! いつの間にか俺たちは守る側だ! ただのガキだった俺たちが、でっかい鎧に乗ってさ! 俺たちを追っかけまわしてたジジイどもとか、騎士とか、みんな守ろうってんだもんなぁ! あんた、一体なにがしてぇんだよ!」


「リファ、俺はただ……」


「昔は好きなように暴れてさ! 金も喰い物もなかったけど、酒かっくらってバカやって……それがなんだ!? そんな贅沢な服を着て、王様の儀式に出て、民衆のために、力のない者のために……俺たちのリーダーは、どこに行っちまったんだよォ!」



 リファはほとんど慟哭していた。レスパーは暗闇の中、月に照らされるリファの涙を見た。


 その時、足元でなにかが動いた。リファに撃たれ、倒れていた護衛が身体をひきずり、起き上った。



「うおおおお!」



 護衛は雄たけびを上げ、リファに飛びかかった。まさか動くとは思っていなかったのだろう、不意をつかれたリファは、慌てて携行光銃ブラスターを向け、引き金を何発か引く。


 ――その時、轟音と共に、建物が揺れ動いた。砲撃の音だった。それと共に、外では機械の稼働音、金属の激突音が鳴り響く。窓の外で起こった爆発の爆風で、窓が割れた。


 数瞬後、レスパーは、その場に倒れている自分を発見していた。先ほどの爆発に煽られたのだろう。



「リファは……?」



 くらくらとする頭を必死に働かせ、レスパーは立ち上がろうとした。しかし――



「……あれ?」



 次の瞬間、立ち上がったはずの自分の身体が、再び床についていることにレスパーは気がついた。地について踏みしめたはずの脚が、無防備に投げ出されていた。


 再び、立ち上がろうとする。しかし、その脚は言うことを効かなかった。



「なんだ……これ」



 その時レスパーは初めて、自分が血の海の中に座りこんでいることに気がついた。目を落とすと、自分のものではないような自分の脚の大腿部がくりぬかれるように抉られ、大量の出血をしていることに気がつく。



「あ、ああ……」



 声がした方に顔を向けると、リファがそこで携行光銃ブラスターを手にしたまま震えていた。その手前には、身体を貫かれた護衛が倒れている。リファが乱射した銃が、レスパーにも当たったのだった。


 再び、外で爆発がした。


 壁が弾けて砕け、廊下の天井が崩れた。その混乱の中に、リファの姿は見えなくなった。



「くそっ……」



 レスパーは身体を引きずり、その場を離れようとした。他の護衛はどうした? リファは大丈夫か? 外の様子は? 敵はどのくらいいる? 援軍は――様々な思考が頭を駆け巡るが、身体は言うことを効かない。全身の力が急速に抜けていくようだ。


 壁に手を突き、やっとのことで身体を起こす。とにかく、外へ――レスパーはロビーの方へと向かい、歩き出した。だが、その歩みは遅々として進まず、なんども崩れ落ちる。麻痺していた痛みが、ふとした瞬間に襲いかかってレスパーは悶えた。



「ああ……くそ」



 何度かの崩れ落ちた後、レスパーは上体を起こして壁に背をつけ、その場に座りこんだ。外から聞こえる戦闘の音は激しくなっているようだ。廊下には煙が漂って来ていた。建物に火がついたのかもしれない。



「レスパー……」



 声がした。


 その声の方へと顔を向けると、小柄な身体がいつの間にか、レスパーの傍らに立っていた。



「よう、ヤオ。こんなところまで来てくれたのか」



 ナグエルプールにいるはずのヤオがなぜ、この場所にいるのか、レスパーは不思議に思わなかった。なにしろこいつは悪魔ダイモンなのだから、それくらいは出来るんだろう、とそれくらいに考えていた。



「なぁヤオ……俺の戦いはここまでかな? お前にはわかるんだろう?」


「勘違いしないでくれ。別に僕は未来がわかるわけじゃない。予測ができるだけさ……だから、予想外の事態ってものはある」


「そうか……お前にもこれは予想外だったのかい?」



 ヤオは悲しそうな顔で黙っていた。その顔を見て、レスパーは少し笑った。



「ヤオ……お前は戦争がしたいって言ってたよな。俺と一緒にいた10年で……お前の目的は果たせたか?」


「……わからないよ」



 ヤオは言った。その顔はそれまでのどんな顔よりも、表情豊かなものだと、レスパーは思った。



「本当に、君たち人間のことはわからない……同種で争いあって、そのくせ『信頼』もして……それで、そうやって裏切られて……」


「わからないかい? それじゃなんで、お前はわざわざここに来たんだ?」



 ヤオは驚いた顔をした。レスパーは声を上げて笑った。



「……俺の最後に、わざわざ会いに来てくれたんだろ? ありがとよ……兄弟」


「兄弟……」



 ヤオはレスパーの傍らに座りこんだ。建材の焦げるにおいがはっきりと漂って来ていた。もうすぐこの建物は炎上し、焼け落ちるだろう。



「……最後に教えてくれ、ヤオ」



 レスパーが言った。ヤオは顔を上げ、レスパーを見た。



「俺の仲間たちは……この後、どうなるかな?」


「……ミファドがなんか適当な難癖をつけて、領土を削りにかかるだろうね。君には後継ぎもいないし、ウルミはバラバラになって他の領主に併合されるんじゃないかな」


「……リファは、どうなる?」


「この期に及んで、自分を裏切ったやつの心配かい?」


「あいつは裏切ったんじゃないさ……ちょっと迷っただけだよ」



 ヤオはレスパーの顔を見、そして言った。



「たぶん、ミファドに入れ知恵されて……恐らく、代官か領主としてミファドの配下に入るんだろうけど……きっとその後、近いうちに……」


「……はん、やっぱりクソだったな、あの野郎……」



 レスパーは唾を吐きだした。ヤオはどす黒い血の混じったそれを見て、言った。



「……人間は不便だね。死んだらそこで意識が途切れちゃうんだから……」


「だから仲間や家族……他人と関わり、意を繋ぐのさ」



 レスパーは大きく息をした。



「ヤオ、お前にこんなことを頼めた義理じゃないかもしれないが……できれば、俺の意を繋いでくれないか。後のことを、仲間たちのことを、頼む……」


「レスパー……」



 ヤオはレスパーの顔を見た。その言葉を最後に、レスパーは事切れていた。


 * * *


 新帝国歴231年。


 レスパー・ウルミは正教オーソドックスの寺院で襲撃を受け、死亡した。


 襲撃を行ったのが何者かはわかっていない。


 しかしこの後、チャタラ王の姪、ソニア公女は、ミファド・カナマの息子、サリド・カナマへと嫁ぐことになる。


 ミファドはレスパーの死去を非常に残念に思い、その葬儀を主導すると共に、残されたウルミの地の物流や生産インフラへも支援を申し出た。そして数年後、ウルミの地はミファド・カナマの領地へと併合される。


 リファ・グドーはウルミの代官としてその後を過ごしたが、ある日酒に酔って館の高層階から落下し、頭を打って死亡した。


 カルノやロイ、他の仲間たちの消息は知れていない。


 * * *


「……社長?」



 秘書が呼びかける声で、ヤオは目を覚ました。目を開けると、そこはザング商会――ヤオが経営する巨大企業の執務室だった。自分のデスクで仮眠を取っていたことをヤオは思いだし、そして今が新帝国歴500年であることも同時に思いだした。



「そろそろ打ち合わせのお時間ですが……」


「ああ、すまない。少し寝過ぎたようだね」



 秘書に向かってそう笑いかけ、ヤオは身体を起こした。



「……昔の夢を見ていたよ。懐かしい夢だった」


「社長にもそういうの、あるんですね」


「そうだね……」



 ヤオは少し伸びをして、執務室の壁に設えられた壁掛け式の情報端末スマートキャスターに流れるニュースを、何気なく眺めた。


 エデスDG-A地区で起こったクワン・サヒラと『紅き頂の騎士修道会』の紛争をきっかけとして、教皇庁と皇帝の争いは次第にきな臭さを増している。


 ニュースによれば、現在の神聖皇帝アルザ2世の縁戚で、チャタラBX王国の王家とも近い関係にあるジャイト・カナマが教皇庁を弾劾する声明を発表したという。



「……後のこと、頼まれたよ、兄弟……」



 ヤオは口の中で、小さく呟いた。



<悪魔の国盗り物語・終>

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エゥディカの戦う人々【Armor Age of Aeudhika】 輝井永澄 @terry10x12th

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