ふたりとテディベアが織りなす、“馴染まない美味しさ”みたいな恋心の話

 心地良く読める文章に、これからいったいなにが起きるのか分からないドキドキ感を刺激され、先へ先へと読み進めてしまう。
 その先に待ち受けているのは、言葉のなめらかさとは裏腹な、新品の靴のように硬くてよそよそしい出来事だ。
 彼女が抱いたテディベア――その、意外な理由。


 言葉にリズムがあるから、長い文、短い文、長くて読点で区切った文、長いけど区切りのない文、どれも気持ちよく読むことが出来る。これが出来る人は意外と少ないのではないかと思う。誰かがこの小説を朗読したとしたら、よどみなく、流れるように声に出せることに感嘆するだろう、たぶん。

 文章に心地よさがあるから、物語に誘われた不思議な世界が、思いのほかするりと読者の心に入ってくる。ああ、そうなんだと飲み込めてしまう。まるで、レバーペーストのサンドイッチのような味わいで。



 そうしたものをもたらしているのは、作者の言葉に対するセンス、感受性の高さがあるからだろうか。
 作中のあの場面で、この言葉を選び取った感性。


『あなたのほうが、ずっと正しい』

「あなたが正しい」ではなく。「ほうが」。「ずっと」。


 この感性は、小さなオレンジの光となって、輝いている。